悪魔が増えてきた
主人公の学校では、生徒が行方不明になるという事件が勃発。
一方、アマイモンの計画は、順調に進行中。
今回は、ちょっとグロ表現あり。
授業をサボって保健室に行った田中は、放課後になっても戻ってこなかった。カバンも上着も教室に置いたまま消えてしまった。
家にも帰らず、心配した親が警察に届け出たが、手掛かりの一つもみつからなかった。家出するような原因もなく、営利目的で誘拐されるほど田中家は、金持ちではない。田中の家族は、人探しのチラシを作り学校の近くで配ったりと、必死で行方を探していた。
「今日で3日だよ、田中がいなくなってから。怜と亜麻井は、田中が誰かに殺されたと思ってるんでしょ?」
みおりが2人に尋ねた。
「そうだろうね。今のところ、誰が何の目的で、ってとこは分からないけどね」
怜が答えたが、みおりは、疑わしそうな表情で、怜をみやる。
「ふうん?そうなんだー」
本当は、分かってるんじゃないの?と思ったが、聞かなかった。嘘をつかれるのは嫌だった。
生物の授業は、週に一回しかないというのに、みおり達のクラスの授業は、二週連続で他の教科と差し替えになった。
「川口センセ、他のクラスの授業は、ちゃんとやってるんだって。でも、なんか病んでる感じらしい」
「あたし、廊下で見たけど、なんか気持ち悪くなってた。前より」
「元々、気持ち悪かったけどね」
みおりがエレナと話していると、ミリアとマリリンがやってきて言った。
「ヤバいよ!1年の女子が1人、行方不明なんだって」
「え?いつから?」
「昨日からだって。放課後、クラブ活動に行くところを皆が見てたのに、部室には現れなかったんだって」
「田中の時と似てる…」
ヤバいヤバい!とみおり達は、騒いだ。クラスにヒステリックな空気が発生し、数人の女子が泣き出した。
「こら!何を騒いでる!ホームルーム始めるぞ!」
担任が入ってきて一括したが、なかなか教室は静まらない。
「センセー、1年の女子が行方不明って本当なんですか?」
男子の1人が手を挙げ、担任に尋ねた。
「…ああ、まあ、そうだ」
担任は苦々しい表情で答えた。
「みんな、いいか。男子も女子も、休み時間や放課後、1人にならないようにしろ。校内に不審者が侵入したのかもしれないから、先生達もパトロールするが、自分達も気をつけるように。あと、全部活動を暫く活動停止にするので、放課後は、すぐに帰宅するように」
生徒達は、顔を見合わせ、一瞬無言になったが、一緒に帰ろうね!とか、親友だよね?とか口々に言い出した。緊急の職員会議があるため、担任は、早く帰れよ!と生徒達に声をかけて教室を出て行った。
みおりは、怜と亜麻井を伴って帰宅した。
「始めまして、亜麻井です」
何か小言を言いかけていた母親は、一瞬、ぼんやりとした表情になったあと、急に愛想良くなった。
「亜麻井くん、怜くんもいらっしゃい。お茶とお菓子、後で持っていくわね」
みおりは、自室に入ったとたん、亜麻井に言った。
「なんか、魔法的なもの使ったでしょ?」
「魔法的な物じゃないよ。魅了しただけだよ」
「それが、魔法的なもの、なんだよ!」
「そんなことより、アスモデウスから、制作途中のゲーム試してみてって連絡きたから、やってみてよ」
「もう、そんなとこまで、できたの?」
「元々、買収した会社が開発中だったゲームだからねぇ」
亜麻井からスマホを渡され、みおりは、ゲームをやり始めた。
「主人公の性別が選べます、ふむふむ。名前は、えーと、みお、と」
みおりは、ゲームに没頭し、独り言以外の言葉を発しなくなった。
「ところで、亜麻井くん、学校の事件のことだけど」
「ああ、困ったね。あんまり、よそ様の獲物に手出ししたくないけど、そういう訳にもいかなくなってきたよねぇ」
「頭の悪いやり口ですよね」
「憑かれてる奴がいかれてるのか、憑いてる奴がいかれてるのか、両方なのか」
「ちょっと!怜、見てみて!」
話している2人の間に、スマホ画面をかざしながら、みおりが割り込んできた。
「チュートリアルガチャでセーレが出たんだけど、このイラスト見て」
「えぇ?なに?…女の子キャラなんだ、セーレ。しかもレアリティ低い」
怜が、少しむっとしていると、亜麻井が
「セーレは、RだけじゃなくSR、SSRもいるよ。SSRセーレは、男なんだよ、変だろう?」
と、説明した。
「ちなみに、アマイモンは、Rはなく、SRが赤ちゃん、SSRが中学生でURがおっさんなんだってさ」
「レアリティで容姿変わりすぎでしょ?そんなので、ガチャ回りますか?」
怜は呆れたが、みおりは、面白いねと言う。
「SSRセーレ引くまで回したいな」
「堅田が変わり者なだけなのかも知れないけど、面白いって言ってるし、このままの仕様でリリースしてみるか」
「今月中にはリリースしたいですしね」
「じゃあ、アスモデウス!」
亜麻井が呼ぶと、派手なスーツを着た長身の男が姿を現した。
「はい、アマイモン様」
「このアプリ、できるだけ早くリリースして。ガチャ回させろよ?」
「人間の欲を刺激するのは得意ですから、お任せ下さい。ああ、あと、アスモデウスは、SSRのみで巨乳美女ですよ」
アスモデウスは、軽くお辞儀をして姿を消した。
堅田ゆいかが塾から帰宅した時、玄関に男物の靴が二足あった。
「ママ、誰か来てるの?」
尋ねると母親は、少し首を傾げながら
「みおりの彼の怜くんと、友達の、あまい?くんが遊びに来てるの」
と言った。母親は、お盆に3人分の紅茶とお菓子を載せて、ゆいかに渡した。
「ちょうどいいわ。お姉ちゃんの部屋に持って行ってあげて」
ゆいかは、未だに母親が、姉が男の子と付き合うのを許したことを信じられなかった。あんなに厳しく、外出も制限していたのに、怜くんと一緒ならいいわ、と言う。
『ママ、どうしちゃったんだろ。お姉ちゃんは、前より楽しそうだけど…』
ゆいかには、お盆は少し重く、ゆっくり歩かないと零してしまう。階段を慎重に登り、姉の部屋のドアを叩こうとした時、中の会話が聞こえてきた。
『そろそろ帰るよ』
『オレも。』
『まだ帰らなくていいじゃん。晩ご飯食べてけば?』
『いや、宿題もあるし、晩ご飯は家で食べたい』
『宿題なんて、魔法でやっちゃえばいいのに』
『それじゃあ、面白くないんだよ。じゃ、バイバイ!』
『バイバイ!』
ゆいかは、お盆を廊下に置いて、できるだけ足音をたてないように、でも急いで玄関に向かった。玄関のたたきには、姉と自分の靴があるだけで、男物の靴はなくなっていた。
「お姉ちゃんの彼氏って、お化けなの?」
ゆいかは、寒気を覚えて、ガタガタと震えた。そして、お姉ちゃんは、きっと、お化けに取り憑かれているのだと思った。
「お姉ちゃんを助けなきゃ。」
川口は、脂がまとわりついて切れ味の悪くなったナイフを洗剤で洗っていた。
「やっぱり、大人の女は、脂が多すぎてよくない。」
召喚した悪魔が結界を貼った理科室で、3人目の犠牲者を解剖していたが、用意したナイフが全て脂にまみれて切れなくなってしまったのだ。
「ああ、そうだ。悪魔に、もっと切れ味の良いナイフを貰えばいいんだ」
『ナイフくらいやるぞ、いくらでもな』
真新しいナイフが机の上に現れた。川口は、早速、そのナイフを手に取り、解剖を再開した。
「…か、川口、せ…先生。た、助けて…お願い、です」
腹を切り裂かれながら、犠牲となっている女性は、まだ生きていた。川口は、いつものニヤニヤ笑いを浮かべながら、作業を続ける。
「本当に、脂肪が多くて、やりにくい。次は、なんとかして生徒を手に入れないと」
臓器を切り取り、ステンレスの盆に載せていく。後で、重さを量って記録しておかなければならない。
犠牲者が喋らなくなったことに川口は気付いた。呼吸もない。
「死んだか。まあ、心臓を切除したから、当然か。ははは…」
臓器の他に、股の肉を一塊切り取って、川口は、悪魔に告げた。
「残りは食ってしまっていいですよ」
『おお、そうか。内臓は、くれないのか?』
「記録したら、あげますよ」
川口は、重さを記録した臓器をポンと投げた。悪魔が、それを平らげる。股の肉は、用意してきたジップロックに入れた。
「今回は、股肉をすき焼きにして食べてみよう。」
最初に男子生徒を解剖した時は焦ってしまい、死体は全部、悪魔に食わせてしまったが、2人目の女生徒は、臀部の肉をステーキにした。川口の中では、解剖した動物は、食べてみるのが当然だったため、食べることに抵抗はなかったが、人間の肉は、臭みが強く、一口も食べられなかった。
「雑食だから臭いのか、それとも、共食いを避けるための本能的な感覚なのか、どっちなんでしょうね」
川口は、誰にともなくそう言ったが、悪魔が返事を返した。
『慣れたら、食えるようになるぜ、多分な』
ジップロックを新聞紙で包み、通勤カバンに入れると、川口は、学校を後にした。夜空には、蝙蝠が数匹飛んでいた。
キリがよかったので、今回は、ここまでにします