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季節はずれの転校生が来た

同級生男子を召喚しちゃったんですけど!という短編の続編です。

 午後一の授業が生物なのはラッキーだと堅田みおりは思った。やる気の全くない生物教師の川口は、生徒が寝ていても叱ることがない。淡々と喋り、時たま、ねっとりした嫌な目つきで、生徒達を眺めるだけだ。みおりは、机に突っ伏して、がっつり昼寝することにした。


 川口は、板書したそばから黒板の文字を消す。寝ている生徒が休み時間にスマホで撮影できないようにするためだ。ちらっと教室内を眺めると、8割ぐらいの生徒が寝ている。起きている数人は、11月下旬だというのに妙に蒸し暑いため、下敷きで自分を扇いでいる。

「自分を扇いで涼しいと思っているかもしれませんが、運動熱が発生しているから、ほんとは全然、涼しくないんですよ。」

 川口は、そう言ったが、聞こえたのか聞こえていないのか、扇ぐのを止めた生徒はいなかった。

「大学生の頃は、動物の解剖をしました。他の生徒が、解剖している横で飯を食っていると、肉片がご飯に飛んできて、それを箸で摘まんで捨てたりしました。」

 ふと思いついて、学生の頃の話をすると、1人だけ、少し眉をひそめた生徒がいた。おや、珍しく聞いている生徒がいるな、と思い配席表を見ると、一ノ瀬という生徒だった。

「解剖した後の動物は、焼いて食いました。猫は、あんまり旨くなかったですねぇ」

 さらに一ノ瀬が眉をひそめた。もう少し嫌がるネタで話そうと思ったが、終業のベルが鳴った。川口は、教科書を閉じ、黙って教室を出て行った。

「ん…あー、よく寝た!怜、生物のノート後で写させてね」

 堅田みおりは、彼氏である一ノ瀬怜に、わざと可愛い鼻声で言った。

「はいはい。分かってますよ」

「もぉーっ!はいは一回でしょ?」

 みおりが、可愛く甘えた感じでしゃべると、他の男子生徒が羨ましそうな顔をした。みおりは、クラスで二番目に可愛いのだから、当然だ。怜が、本当に彼氏なら。

 でも、本当は、怜は悪魔で、召喚したみおりと契約を結んでいるだけだ。

『男どもよ、羨ましがることないぞ。こいつ、クソ性格悪いんだから!』

 みおりの膨れた頬を人差し指でつついてやりながら、怜は、思った。


 生物準備室に川口が戻ると、ネット通販の荷物が届いていた。アメリカからの国際便だ。今日は、もう授業はない。川口は、通販の箱を開けた。錆びた釘、真空パックの肉、薄い冊子が入っていた。

「どれどれ、えーと、これが魔法陣の図柄で、これが悪魔を呼び出す呪文、か」

 川口は、理系の人間なので、神も悪魔も天使も存在していないと思っている。たまたま、ネット通販サイトに悪魔召喚キットをみつけ、面白半分で購入したのだ。

『生徒が皆帰ったら、校庭で実験してみよう。まあ、何も起こらないだろうが。』


 昨夜降り出した雨は、朝になっても降り続いていた。

「なんか、雨が降り出したら寒くなったよね」

 みおりは、怜の膝に座って暖をとっていた。周囲の男子達の怜に向けた視線が痛い。

「重いから、どいて。」

「ひどーい。私、重くないもん」

 みおりが、更に密着してくるので、怜が押しのけようとしていると、担任が見たことのない男子生徒を伴って教室に入ってきた。

「朝のホームルーム始めるぞ。一ノ瀬、堅田、いちゃいちゃするのは家にしろよ!」

 みおりは、ふんっと鼻を鳴らすと自席に戻った。

「転校生を紹介する。姉妹校の聖アンナからの編入だ。」

 担任は、黒板に亜麻井聞人と書き、自分のやや後ろにいた男子生徒に自己紹介を促した。

「あまい、もんと、です。髪がブラウンなのは、地毛です。よろしくお願いします」

 亜麻井は、天然パーマの頭を下げて挨拶した後、顔を上げ、少し微笑んで教室を見回した。

「ちょっと、わりとイケてない?」

「だね。なんかハーフっぽいし」

「なんだよ、女子は。あんなひょろい奴がいいのかよ」

 教室がザワザワする。担任は、空いている席を指して、亜麻井に言った。

「あの、空いている席、えーと、一ノ瀬の隣に座りなさい。まだ教科書が揃ってないから、一ノ瀬に見せてもらいなさい」

「はい。一ノ瀬君、よろしくね」 

 一ノ瀬怜は少し嫌そうな顔をしたが、亜麻井に向かって、よろしく、と呟いた。

「では、ホームルーム終わり」

 少し首を傾げながら、担任は、教室を出た。

『うちのクラスに空き机あったかなー?』


『なんで、嫌そうな顔してるんだよ?』

 亜麻井が怜の脳内に話しかける。

『いや、なんで貴方が来るのかなーと、驚いただけですよ』

『そりゃ、お前が、目覚めたのに挨拶にも来ないからだろ?』

『ご自身で来なくても…』

『やりたいことが、あるんだよね。手伝ってくれるよね?』

『もちろん、アマイモン様のご命令とあらば』

 怜は、自分の上司である東方の王に応じた。

『助かるよ、セーレ。詳しくは、後でね』 


 みおりは、いつものように昼食のため怜を部室に誘った。母親が部活動を許してくれたので、怜と同じ天文部に入ったのだ。天文部は、学祭でプラネタリウムをやる以外に、全く活動していないため、部室に来る生徒は殆どいない。いつもは、怜と2人きりだが、今日は、転校生の亜麻井が着いてきた。

「亜麻井ってさぁ、怜と知り合いなの?」

 みおりの問に亜麻井が答える。

「ふふ、知り合いだよねぇ、一ノ瀬怜くん」

「まあ、そうかな」

「もしかして、あんたも悪魔なの?」

「あれ?察しがいいね、堅田くん」

「私は、怜と契約してるからね!あれ?契約してるってことは、私って魔女なのかな?」

「違うよ。魔女な訳ないだろ?」

「じゃあ、小悪魔?かな?」

「はあ?誰が小悪魔?」 

 2人の会話を遮って亜麻井がみおりに言った。

「ふうん。堅田くんは運がいいねぇ。高位の悪魔と契約できるなんてね」

「そうなの?怜って高位悪魔なの?」

「そうだよ。低位悪魔だと、まともに願いも叶えないで、召喚した人間を食ってしまったりするんだよ」

「そうなんだ。じゃあ、ラッキーだと思っておくよ」

 暫く、黙って弁当をつついていたみおりが、再び口を開いた。

「そういや、今朝、校庭に犬の死骸があったらしいよね。しかも、3匹も」

「へぇ、そうなんだー」

「怜、興味なさすぎ!3匹もだよ、惨殺されてたんだよ?内臓とかぶちまかれてたんだって」

「お前は、よく飯が食えるな、そんなこと話ながら」

「そんなの、目の前で見てる訳じゃないんだから、平気だよ」

「お前は、大体がさつなんだよ」

「がさつって何?」

 怜が呆れて言葉に詰まると、亜麻井が、また話に割って入った。

「それなんだよ、オレがセーレと話したいことは」

「こいつが、がさつってことですか?」

「違う違う。そのメスには何の興味もない。動物が惨殺されてたことだよ」

「メスって!言い方!怜ってやっぱりセーレなの?」

 みおりが絡んできて、話の腰を折る。

「ああ、はいはい。女性の方ね。」

「怜は、セーレなのにイケメンじゃないね」

「アマイモン様、こいつがいない時に話しましょう」

「いやいや、いても全然いいよ。こいつにも、手伝って貰おう。お前と契約してるんだしね」 

「私、ただ働きは、しないよ?」

「どの口が!」

 怜とみおりが口論している間に昼休みは終わってしまった。放課後に天文部の部室です話すことにして、3人は教室に戻った。

 

 放課後の天文部の部室には、やはり3人以外には誰も来なかった。

「つまり、誰かが、低位悪魔を召喚しただろう、ということですか?」

 怜が亜麻井に聞いた。

「怜くん。敬語やめなよ。同級生なのに変だろ?」

「後で怒らないで下さいよ?低位悪魔は、まだ学内にいるの?」

「いないだろ。怜くんには分かるだろ?低位悪魔の気配ないだろ?」 

 怜は、周囲の気配を探った。

「…うん。いないね」

「低位悪魔って、この前、呼んでもないのに来た不細工みたいな奴?」

「あれは、悪魔じゃなくてゴブリン。お前が変なことするから来たの」

 また口論になりかけているのを亜麻井が遮った。

「とりあえず、今回召喚された奴は、犬3匹を食らって満足して帰ったんだろう」

「随分と小物だね。誰が召喚したんだろ」

「誰にせよ、一回呼び出して、望みを叶えられなかったのなら、また召喚するだろう」

「まあ、そうでしょうねぇ。でも、それのどこが問題なのかな?」

「召喚すること自体が問題なんじゃないんだよ」

 亜麻井は、スマホを出して、通販大手のサイトを開き、検索したページを怜に見せる。

「これ見て。アメリカから出品。悪魔召喚キット、8888円。」

「こんなの販売してるんだ。」

「東方は、このアマイモンの支配地域なのに、アメリカから手を出されるのは許せないんだよねぇ」

「出品してる奴をぶちのめしますか?日本では、表示させないようにしますか?」

「そうじゃないんだよ。オレが、通販より楽に召喚できるようにしてやって、西方から手出しさせないようにしたいんだよ」

「どうやって?」

「そこなんだよねー」

 2人の会話の途中で、興味を失ったみおりはスマホのアプリを起動した。

「あ、しまった。今日から新ガチャだよ」

 最近、夢中になっている着せ替えゲームである。お金は怜がなんとでもしてくれるので、躊躇いなく課金ガチャを回した。

「なかなかURどころかSSRも来ないんですけど!」

「際限なく回すなよ。どの服でも一緒だろ?」

 怜が、みおりから取り上げたスマホを亜麻井が奪い、10連ガチャを数回した後で言った。

「ガチャ、か。そうか、それがいいな」

「なんのことです?アマイモン様?」

「敬語やめろって。ガチャで悪魔召喚させればいいんだよ」

「そんなゲーム、既にいっぱいあるよ?」

「いっぱいある中に紛れて、本当に悪魔が召喚できるアプリを提供するんだよ。ごく稀に、本当の悪魔が召喚できる。確率は、0.01パーセントくらいでいいかな?Rでも本物が召喚できることもあるけど、レア度に応じて高位悪魔が召喚できるってことにしよう」

「レア度と悪魔が召喚できる確率は、別ってこと?」

「そうだよ。どこか弱小デベロッパーがリリースしているアプリに悪魔召喚ガチャを組み込もう。」

 亜麻井の考えているガチャだと、高位悪魔が召喚できる確率は、限り無くゼロに近い。大した騒ぎにもならないだろうと思い、怜は頷いた。


 川口は、新たに取り寄せた悪魔召喚キットを使い、校庭に魔法陣を作成していた。届くまで一週間かかってしまい、もう12月になっていた。前回は、醜悪な魔物が出現し、願いを聞くどころか、あやうく殺されそうになった。念のために用意していた犬3匹を食いちらかすと、悪魔は、帰って行った。

「本当に悪魔がいるなんて。今度こそ、私の願いを叶えられる悪魔を召喚するぞ」

 魔法陣が鈍く光り、山羊のような角の生えた真っ黒な、漫画などに出てくる、いかにも悪魔という姿の魔物が姿を現した。

『お前が、わしを召喚したのか?』

「お、お前は、悪魔なのか?」

『そうだ。だが、最初に言っておくが、金持ちにしろとか、首相になりたいとか、そんな大それた望みは叶えなられないぞ』

「そんなことは望んでいない」

『では、何が望みだ?』

「生徒を解剖したい。解剖しても、罪に問われないようにして欲しい」

『へぇ。それは、いい。その願い、叶えてやるぞ』

 悪魔は、舌なめずりをした。今回も川口が用意していた犬3匹は、契約の証として悪魔に捧げられた。


「また、犬が殺されてたんだって」

「何だろうね、気持ち悪い。」

 教師は、生徒達を動揺させまいと犬の死体がみつかったことを伏せていたが、いつの間にか、生徒の間に噂が広まっていた。

「どうも、また召喚したみたいだね。今回は、まだ帰ってないみたいだ」

 亜麻井の指摘に怜は頷いた。

「そうだね。召喚した奴に取りついてるんだろうね」

「どうしようかな。何をするつもりか、暫く見てようか」

「僕とお爺ちゃんお婆ちゃんとの契約遂行の邪魔になるなら、排除するけど」

「いいよー、それで。ところでさぁ、ガチャが上手く行ってないんだよね。元々のゲームが人気無さ過ぎて、全然回ってない」

 亜麻井がスマホ画面を怜に見せる。絵柄が古臭く、いかにも人気出なさそうなゲームだ。

「何これ?聞いたことないゲームだよ。いっそ、1から新しく作ってリリースした方がよくない?」

「なるほど。じゃあ、ゲーム会社1つ乗っ取って、アスモデウスに社長やらせるよ。半月くらいでゲームをリリースさせよう」

「これから、クリスマスとか正月とかでガチャ回りそうだから、急がなくちゃね」


 チャイムが鳴りクラス全員着席したが、教師が入室しない。生徒達は、私語を始め、教室はザワザワし出した。

 5分ほど経った頃、数学の教師が慌てて入ってきた。

「えー、生物の時間ですが、川口先生が体調不良でお休みなので、数学に差し替えになりました」

 えーっ!と生徒達が非難の声を上げる。居眠りできる生物と違って、数学の教師は当てまくるのだ。

「センセー、すんませーん。腹が痛いので、保健室に行かせてくださーい」

 常々、卒業したら働くから、そんなに勉強しなくていいと豪語している男子生徒、田中が手を挙げて言った。

「お前、出席足りなくなったら卒業できないんだぞ?それでもよければ保健室に行け」

「あざーっす」

 ガムをクチャクチャ噛みながら、田中は出て行った。

「田中、数学の時間、腹痛くなりすぎ」

 生徒達は、クスクス笑いながら彼を見送った。


 田中は、次の授業になっても帰ってこなかった。


「田中、勝手に帰っちゃったのかなー。保健室にもいなかったんだって」 

 天文部の部室での昼食は、3人で摂るのが普通になっていた。

「帰ったんだろ、あいつサボり魔だから」

 みおりに気のない返事をした怜は、弁当のミニハンバーグを頬張った。使い魔が化けている母親は、料理が上手で、弁当のおかずも全て手造りなのだ。

「怜、ミニハンバーグ一個くれよ」

 言うやいなや、亜麻井は、ミニハンバーグの最後の一個をかっさらった。

「やめろよ!自分の弁当の方が豪華なのに!」

「いいじゃん。ミニハンバーグくらい。オレの弁当から好きなだけ食べていいからさ」 

「じゃあ、私も亜麻井の弁当分けてもらおっと」

 みおりは、怜よりも素早く、亜麻井の弁当箱からエビフライを掠めとった。

「堅田にやるとは言ってないのに」

 亜麻井は苦笑しながら、スマホのメールをチェックした。

「アスモデウスからだ。ちょうどいい会社がみつかったので、買収したって」

「悪魔なのにメールのやり取りするの?変じゃない?」

「メールって便利だよねぇ。自分が読みたい時に読めばいいし、聞き間違いなんてのも、ないしねぇ」

「そんなもの?怜って私にメールしないよね?」

「必要ないから。」

「一応、彼氏なんだから、メールくらいしてよね」

「いらないでしょ?何をメールするっての」

 その時、微かに誰かの恐怖が空気の中に流れてきた。怜は、亜麻井の方を見た。亜麻井は、頷いた。

「田中くんには、もう会えないかもねぇ」

長くなりそうなので、何回かの連載にします

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