08 例外病。
「ぐぅうぅッ!!! ん”ぅぅう”ッくぅぅぅッッ! 」
そのあまりにも突然にきた
まったく想像すらしていなかった“痛み”に対して
タマは声にならない声を漏らし続けながら
石斧で斬りつけられた両太ももの外側を手で押さえ
リアルで、机の上に倒れ込んでいた。
同様にモニターの中の世界でも
同じ場所を手で押さえながら
地面に転がって、絶賛悶絶中だった。
しかし、突然現れた人間にびっくりして
ややパニックになっていた2匹のゴブリンには
そんな事情など関係ない。
チャンスとばかりに、さらに追い打ちをかけてきた。
タマが膝をついた事で背の低いゴブリンたちは
次は人体の急所ともいえる頭部を狙い石斧を振りかぶった。
ガスッ!!! ゴスッ・・・!!!
「んッッぐぁあ”あぁぁぁッッ!!!!!」
ビクビクッ・・・・
あ・・・ あり得ない・・・ッッ!!!
あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないッ!!!
もう何が起こっているのか
さっぱり理解が追いつかなかった。
ただただあり得ない現実の痛みが今度は頭部を襲い
その考えられない程の激痛が
タマをさらに深い混乱へとつき落とした
もう嫌ぁッ!!ッ!
意味ワカンナイ、何なんよこれぇぇッ!!!
絶対の安全の中でただゲームしていたタマは
この意味不明な理不尽な痛みに、怒りさえ覚えていた・・・
だが、そんな怒りを凌駕する、嫌な感覚がタマを襲った・・・
ゾワゾワゾワ・・・
ビク・・・
でも・・・
このままじゃ、何か、もっと酷い事になって・・・
最悪・・・ 死・・・
そんな恐怖が頭を過り
それがタマに思考させるトリガーとなった。
なッ・・・ 何かしないと、こッ! 殺されるッ!!
何かッ!!
そして、その 何か が
ゴブリンを殺す事だという事に思考が辿り着き
タマは、リアルの首を激痛の中、持ち上げた。
ガバっ!!!
モニターを睨みつけ
タマの身体に続けて石斧を振り下ろそうとしているゴブリンに焦点が合うと
今まで感じた中でもっとも酷かったともいえるその不安と恐怖は
一瞬にして、また、怒りへと変わった。
―― コイツラノセイカアアアァァッ!!!
ゴスッッ!! メキッ!!!!
フーッ・・・ フーッ・・・
一瞬だった。
振り下ろされていた石斧がタマの身体に届く前に
タマの拳は力任せに、2匹のゴブリンの頭部を破壊していた。
怒りのままに握り締めた拳が
頭蓋骨を砕きながらめり込み
その勢いのままゴブリンをなぎ倒し、地面に叩きつけ
2匹はあっけなく動かなくなった。
肉、骨の感触・・・
その温度や湿り気やざらつきが
その一瞬の間に、生々しく拳から伝わってきた。
そして、そのリアルな感触は
タマの心の中を、また違うものへと書き換えた。
それは、不安や恐怖でも、怒りでもなく・・・
殺した
という、初めて味わうドロっとした感覚だった。
◇ ◇ ◇
どれくらいの時間が流れたのか
タマには分からない。
だが、動かなくなったゴブリンの横で座り込み
呆然としていたタマの隣には
気付けばチセが居た。
タマの視線がチセの視線と交わると
チセはタマの様子を伺うように
ゆっくりと声をかけてきた。
「大丈夫か? タマ。」
「チセ・・・様・・・?
うち・・・
うち、ゴブリン・・・ 殺しちゃった・・・」
「なんじゃ? そっちか?
てっきりあまりの痛さで壊れてしまったのかと思ったではないか。
成れの果てを殺すのは、初めてではないのであろう?
頭はもう痛まぬのか?
あんなもので殴られて・・・本当に平気か?」
「頭・・・?
・・・ぃっ痛ぅっ!」
「それみたことか、まだ痛いのであろう?
見ているだけで、妾まで痛くてかなわぬ。
妾も痛いのは嫌いじゃ。
タマが寝ておる時に転んだときなど、酷い気分になった。
何が悲しくてこんな機能があるのか、未だに理解できぬ。
転んだ程度であれじゃ
無事な訳がなかろう・・・」
チセはそう話しながらタマが押さえている
頭を心配そうに眺め
どうして良いか分からないといった様子で
その手をタマの頭の近くで彷徨わせていた。
「うん・・・ 痛かった、めっちゃ。
あり得へんくらい痛かったけど・・・
でも・・・ッ
このゴブリン・・・
死んじゃって・・・
痛いとかやなくて、もう動かへんくて・・・」
カタカタカタ・・・
「震えておるのか?
それに、なんて顔をしておるのじゃ・・・
そんな顔をされたら
妾まで・・・
そんな顔になってしまうではないか。」
チセには分からなかった。
タマがなぜ悲鳴を上げる程の痛みよりも
ゴブリンの死の事を考え
身体を震わせるほどの何かを感じている事が。
人間になって間もないチセには、分からなかった。
だが、そのタマの顔がチセの心に
痛みにも似た感情を湧き起こし
胸を締め付けてくる事だけは真実だった。
「ここが、チクッとするではないか・・・
妾はこういう時にどうすれば良いのじゃ?
濡らしたタオルでも額に当てれば楽になるのか?
どうすればタマのその顔を戻せるのじゃ。
その顔は・・・
そんなタマの顔は、ちっとも美味しいではないぞ・・・バカ。」
ギュッ・・・
タマのその歪んだ顔を戻したい・・・
その思いで、チセは両手でタマを抱きしめた。
ビクッ・・・
ぁ・・・
あった・・・・ かい?
やわら・・・かい?
何・・・ これ・・・
めっちゃ・・・
カタカタ・・・・ ピタッ
タマが感じるようになったのは
痛みや、生々しい死の感触だけじゃなかった。
神経から伝わって来る膨大な量の情報は
嫌な感覚だけではなく
大好きなチセという存在を
今までより、ずっとずっと傍に感じさせてくれた。
モニター越しの架空の存在なんかじゃない・・・
今、ここに、確かに、チセは存在していた。
「あ・・・ ありがと・・・ チセ様 」
「良い・・・
妾もタマのぎゅッに助けられたのじゃ。
それに、妾も今はこうしておらぬと
どうもこの辺りがチクチクするのじゃ。」
「そか・・・。
嬉しいな・・・
うちも、今、その気持ち一緒に感じてる・・・
温かくて、柔らかくて
うち、めっちゃ、幸せや。」
「そうか・・・」
・・・ん???
「タマ?
お前、例外病が治ったのか???
痛みもあったようじゃし・・・
今も、妾だけがタマの感触に安らいでおるのではないのじゃな?
タマも・・・ 同じように・・・」
「うん・・・ なんか・・・
痛いのとか、温かいのとか、感じるみたい。
あと、その、やらかいのも・・・」
(//////)
「やらか・・・ ?!
ババッ・・・ 馬鹿者ぉッッ!!!」
バコーンッ!!!
背中から両手を前へ回して抱きついていたチセは
慌てて腕を解き、身体を離した瞬間
タマの後頭部にゲンコツを叩きつけていた。
「「 いッッ・・・痛ぅぅ・・・ 」」
「ふっ・・・ ふふっ♪
この石頭!
妾の手が痛いではないか!」
「う、うちかて痛かったってばぁぁ!!
チセ様の手も心配やけど
うちの頭も・・・ 結構痛いぃぃ。」
「ふふっ♪ 当たり前じゃ!
良かったではないか!
病気が治った証拠じゃ!
やはり、同じ事をしたら同じ気持ちになってもらわぬとな!
妾も治って嬉しいぞ!
じゃが、妾の胸にやたら過剰に反応して
元気になるというのは・・・
そこは、どうも・・・ 複雑じゃ・・・」
「あははは; ごめ・・・。
こんな時にそんな事考えちゃうとか・・・
うち、ほんま末期やな・・・。
でも、うちの身体、どうしてもたんやろ?
新しいパーツ買った訳でもないのに
いきなり感覚が戻るとか・・・ ちょっち、怖いんやけど。」
「パーツ?
人間はタマ以外はこれが普通なのであろう?
痛みを感じるパーツなど標準装備のはずじゃ
やっと機能し始めたという事ではないのか??」
「あぁ・・・うん。
まいっか。
あとで、見てみよ。」
「ふむ・・・?」
タマは自分の身体を手で触ってみたり
抓ってみたり・・・
今までにはなかった感覚を味わっていた
なにこれすげー・・・ な感じで。
流石超高Lvのスーパーボディだけあってか
脚も、頭も、痛みはもう完全に消えている点は、助かった。
で、とりあえず一安心したところで、ふと思いついた。
今なら当然、味覚も感じるのではないか・・・と。
カバンからチートコピーしておいた梨を1個取り出し
おもむろに齧りついてみた。
シャクッ もぐもぐもぐ・・・も・・・ ゴクン。
「うっ・・・
感触はあるのに・・・
味も匂いもせえへんんんんッ! ><。
逆に何食べたんか分からへんくて
なんか気持ち悪ぅ・・・」
「なんじゃ? 完治した訳ではないのか?
鼻や口は変わっておらぬという事か?」
「みたい・・・」
「それは、気の毒じゃな・・・。
その梨は妾が見つけただけあって最高の梨じゃぞ?
これさえあれば何も問題ない。
常に美味しい。
まぁ、リンゴも良いがのぅ?」
「うちも味わってみたかった・・・。」
シャク・・・もぐもぐもぐ・・・ はぁ・・・
「じゃが、少し治ったのは間違いないのじゃ。
そのうち味も匂いも分かるようになるであろう!
しかし、一番の無駄機能の痛覚が治っても
むしろ、迷惑なだけではないのか?
なぜ、そこから治したのじゃ?」
「う・・・ ほんソレ。」
痛みはマジ勘弁とか思いつつも
さっき感じたチセの温もりと
ポヨンとした柔らかさを思い出すと
いや、これは良いものだ・・・
そう思いなおす末期タマだった。
◇ ◇ ◇
そんなこんなでタマのパニックは
一先ずポヨンのお陰である程度は落ち着いた。
落ち着いたところで今のこの状況を思い出す。
横には2匹のゴブリンの死体が目の前にある訳で
その先には、どうやらゴブリンの住処らしき
洞窟がある・・・という状況。
「とりあえず・・・
他のゴブリンが出てくる前に、死体隠そっかな。
もう、痛いのとか勘弁やし。
見つかりたないし。」
「ふむ、せっかく仕留めたのじゃ、食べるか?」
「た・・・食べ?!
こ、これを・・・?!?!
さすがに・・・無理。」
「ふむ? そんなに不味いのか? それとも毒か?」
「心がどうしても食べたくないって言うから無理。」
「ふむ・・・
まぁ、もともと人間じゃしのぅ・・・
それに臭い。
なにより梨の様に、食べたい! とは思わぬな・・・確かに。」
「せやろぉぉ? うちはゼッタイ無理。
それに・・・」
「それに?」
「うちも、牛や豚とかのお肉は好きやけど。
でも、自分で殺した事なんてないし
そんな所を見る事もなかって
だから、さっきのはなんてゆうか・・・
ほんとに命を奪ってしまってんなぁ・・・って
そんなん初めてで・・・」
「この身体に入っている以上
人間をするというのはそういう事なのかもしれぬな。
水や酸素、梨がないと酷い事になるからのぅ?」
「・・・?
でも、ゴブリンは
殺さへんでも生きてけるやん?」
「そうなのか・・・?
妾はこの出来事でこの辺りが
何かで満たされた感じがしたがのぅ。
まぁ、美味しい、という感じではなかったがな。」
「この辺り・・・?」
チセが掌をあてていた胸のあたりに
タマも掌をそえてみたが
チセが何を伝えたいのかは、よく分からなかった。
その後、タマは近くに穴を掘ってゴブリンを埋めたのだが
チセはそれを、黙って見守っていた。
「それで、どうするのじゃ?
どうやら、せっかく長旅をしてきたのに
目的地だった村は無くなっておるようじゃぞ?
これが神のちょっかいなら
ここで、妾たちは何をして、どんなご褒美が貰えるのじゃ?
タマの例外病をちょっと嫌な感じに治す為じゃったのか?」
「さぁ・・・ うちにも意味分からへん。
けど、痛みを感じるようになったんは
クエストとか関係ないやろうし・・・
やっぱし、ゴブリンを殲滅するパターンなんかなぁ。
うち、感触がある以上、叩くのも叩かれるんもイヤやなぁ。」
「殺すのはもう嫌という事か?」
「うん。 あれは、なんかやっぱり無理。」
「ふむ・・・
タマは否定しておるようじゃが
やはり、タマが痛みを感じたり
殺す事への感じ方が変わった事が
このクエストの報酬なのではないか?
ならば、もうこのクエストは終了という事で
もう他へ行っても良いのではないか?」
「他へ行くんは賛成やけど・・・
そういう事やないやろなぁ。
普通クエは、ちゃんと全滅させたら
凄い武器が手に入る・・・とかやで?
うちの、身体や心の感じ方を変える為とか・・・
いくら神様でも、うちがここで痛覚を感じるとか思わへんやろうし
そこまで凄い存在や無いと思うで?
本物の神様とかならまだしも・・・。」
「ハァ? 神に、本物や偽物があるのか???」
「あ・・・ えっと・・・ なんて言うたらええんやろ?」
「まぁーたその顔かっ!
いつも話が進まぬヤツじゃのぉ・・・もう良い。
で? どうするのじゃ?
クエとやらは終わっておらぬのか?
タマの病気を微妙な感じに治すクエストという事で
もう終わった事にせぬか?」
「そんな、曖昧な事やないと思うけどなぁ・・・。
ボス倒すとか、誰かを助けてお礼もらうとか・・・。」
「良く分からぬのー?
ならば、まだクエストが終わってないとして・・・
ここを放っておいて
他の村か街へ行ったら、何かまずい事でもあるのか?
そもそも、妾はらーめんへの旅をしておるのじゃ
成れの果てがおるのは気になるが
わざわざこれ以上、タマが痛い思いをしたり
嫌に感じるようになった争いをする必要などあるまい?
アレを放っておこうが、この星が壊れそうになろうが
後任の神がなんとかすると言ったのはタマじゃぞ?」
「せやな・・・。
ほっとこかぁ。
痛いんも怖いんも、もう、マジ勘弁やし。
誰かに頼まれた訳でもないし・・・
うん・・・
うちももう、こんなんイヤや!」
「じゃろー!
ポチもおる事じゃ、次の街が少々遠くても
まぁ数日で着くのではないか?
神だった頃の感覚がなくなってきたせいか
妾には、いまいちどこにどんな街があったか思い出せぬのじゃが
タマならまた妾には見えぬ地図を広げて
どこに街があるのかも、わかるのであろ?」
「うんうん。 それは任せて。
ほしたら、石鹸とかは残念やけど
また、移動の毎日・・・かな?」
「うむ、妾はらーめんが食べたかっ・・・ 」
ヒュルルル・・・・ ドスッ!
「ヒヒィィーーンッ!!!」
二人がこのゴブリン洞窟をスルーしようと話がまとまったその時
ポチの身体に突き刺さったものがあった・・・
矢・・・だった。
ポチの嘶きに異変を感じた二人は慌ててポチの方を見ると
洞窟の前に数匹のゴブリンが顔を出し
弓矢を構えてさらにポチを狙っているようだった。
が、ポチが脚をガクガクと振るわせた後
地面に倒れ込むとゴブリンたちは弓矢の構えを下ろし
倒れ込んだポチへと歩き始めた。
しかも、最悪な事に、数歩進んだゴブリンの1匹が
今度はタマとポチの存在に気付てしまったようで
次の瞬間、タマとチセに2本の矢が襲い掛かった
ヒュルル・・・ヒュルルルル・・・・
「チセ様ぁッ!!!」
ザスッ・・・ ドスッ!
「くぅッ・・ あ”ぁッッ!!!」
「タマぁぁッッ!!」
―― ティロリン!
咄嗟にチセを庇ったタマの背中には
1本の矢がつき立っていた。
グワン・・・ グワワワワワン・・・
な、何・・・ コレ・・・ き、気持ち悪・・・ クラクラする・・・
てか、今・・・ なんかLv上がった音・・・した?
ゴブリン倒した訳でもないのに・・・ って、あかん、ヤバぃ・・・
今・・・ それどころじゃ・・・
「チセ、様・・・これ、毒矢・・・ かも・・・
気ぃ付けて・・・
うちの後に・・・」
「タマぁぁッ!」
「大丈夫・・・
うち毒とかチマチマしたダメージは平気な・・・ はず。
うん、全然、平気・・・
HP減ってへん・・・から・・・」
大丈夫・・・?
HP減ってへんから・・・?
毒よりも回復量が上回ってるから・・・?
平気・・・なん? ・・・うち???
どこがよぉぉ?!
痛い・・・ッ!!! 気持ち悪い・・・ッ!!!
力も、抜けて・・・ 頭も痛くてクラクラするし・・・
マジ、ヤバイって・・・ これ・・・
こんなん・・・
このゲーム、意味・・わからへん・・・し・・・
「タマ! し、しっかりするのじゃ!」
くぅッ・・・
で、でも・・・ッ チセ様は、守んないと・・・
こっちでのうちは、こんな程度じゃ、死なへん・・・
でも、チセ様は・・・
こんな矢・・・1つでも当たっちゃったら・・・
多分・・・
死・・・
ビクッ・・・・
「そッ・・・ そんなんッッッ!
絶ッ対ッ・・・
許さへんッ!」
ヒュルル・・・ ヒュルルル・・・
ギロッ・・・
バシッ! バシッ!!
続けて飛んできた矢を
タマの生涯で一番の真剣さで
瞬きもせずに見つめ
素手で慎重に、確実に、叩き落す。
この世界での身体が、超人並みに育ってる事に心から感謝しつつ
それでも、気を抜かずに本気でチセを守る。
視界に見えるゴブリンは4匹
2匹が弓矢を構え
残りの2匹は大柄で剣と盾を持っていてちょっと強そうだ。
それでもいつものタマならさっと近付いて
一瞬で倒して終わりだろう。
ただ、今はチセがいる。
矢の1つでもチセに刺さろうものなら・・・
タマはそれが怖くて堪らない。
それに、さっき感じた、殺すというドロっとした嫌な感覚。
それがどうにも、タマの心を締め付けていた・・・。
チセが言ったように罪悪感とかなのか
それとも、単にその感触やグロさが気持ちが悪いのか
理由はともかく、その行為をタマの中の何かは嫌った。
しかし・・・
チセの命とそれを天秤にかけるのなら
答は、迷う事なく決まった。
タマは戦う・・・いや、殺す決心をし
カバンから出した剣を装備し
チセの命を脅かせるゴブリンを睨みつけた。
ヒュルル・・・ ヒュルルル・・・ カカンッ!!
毒矢の影響で相変わらず
クラクラする頭と、重く怠い身体に鞭をうち
飛んでくる矢を剣の側面で丁寧にさらに2つ叩き落とし
次の矢が来る前にまず弓矢の2匹を殺そうと疾走した。
スタタタタッ・・・ スパッ! スパーンッ!
ドサッ・・・ ドサッ・・・
殴るより嫌な感触が少なかったのは救いだった
高速でスパッっといくことで
肉を切る感触もほぼ感じなかった
一瞬で動かなくなって欲しい一心で、首をはねた。
が・・・
ブシューッ・・・
一瞬遅れて、ゴブリンの首から噴き出した
血を浴びる事になり
その生々しい温度と感触に
吐きそうな、最悪な気分を味わう事になった。
ビチャビチャ・・・ ポタボタボタ・・・・
それを嫌がって慌てて噴き出す血を回避するのだが
残った大柄なゴブリン2匹が
そんなことはお構いなしに、剣を振り下ろす
「「 グウォォォッッ!!!! 」」
もうッ こんなん、嫌やぁぁ・・・
そう心から思いながら
振り下ろされた敵の剣を
自分の剣で力任せにはじき返し
そのまま全力でもう2つの首をはねた。
ブシュー・・・ ドサッドサッ・・・
カクン・・・ ドサ・・・
4匹全ての首をはね・・・
タマは膝を地面へ落とし
地面にもたれかかる様に両手を立てた・・・
「う・・ うえぇぇ・・・ 」
気持ち悪ぅぅ・・・
血ぃ・・・ 生あったかくて・・・
気持ち・・・ 悪ぅぅ・・・
うぅっ・・・
毒も・・・ ヤバイし・・・・ もぅ・・・
「タマッ! 大丈夫か??
か、顔が、真っ青じゃ・・・
それに・・・
ポチが・・・」
血を浴びる・・・
そんな事を体験するなんて夢にも思っていなかった。
そのあり得ない感触がタマを襲い
呆けたように現実逃避していたタマだったが
近寄ってきたチセのその言葉で
倒れているポチへと視線を向けた・・・
ブルル・・・ フヒュー・・・ ヒュゥ・・・
おかしな呼吸を繰り返すポチへ視線を送ると
どうやら自分と同じ毒矢にやられたようで
その毒によってみるみる弱っていくのが目に見えて分かった。
単純に矢が刺さった物理的ダメージも当然あり
ポチは、本当に、今にも死んでしまいそうだった。
もう、チートとかそんな事を言ってる場合じゃない。
さっさとチートで解毒剤を出して治療しないと
ポチも、タマ自身も本気でヤバい・・・。
そう感じたタマは次の瞬間
今までで一番の、完全なパニック状態に陥った・・・
「へ・・・
目・・・ 目が・・・
なん? へ?
・・・?!?!」
目が、見えない。
いや、チセやポチは見える。
そうではなく
タマが見えなくなったのは・・・
モニターを見つめているはずの、リアルボディの目だった。