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07 神様のちょっかい。


食事も朝のトイレも済んだところで

とりあえずの目的地である村へと向かう為

二人は家の外へと出た。



キラキラー



「んーーーっ!!

 今日は良い気候じゃのーーー!

 毎日毎日、些細な事で随分世界は違った顔を見せるものじゃ。

 身体があるというのも、悪くないかもしれぬな!

 うむ、今日はこれはいらぬ、持っておれ。」



チセが脱いだロングコートを受取ってバッグに押し込むタマ。

ついでに、現在気温を確認しようと

久々に、UIユーザーインターフェースを表示させた。


―― 気温20度


20度か・・・

うちには関係ないけど、歩くには丁度ええかも?


ん・・・?


< タマ >

HP  999999/999999

MP  999999/999999

空腹値   000/999


あ、うち・・・ひょっとして腹ペコなん?


気温の他に表示されたゲーム特有の様々な現在の状況を表すデータ。

その空腹値がゼロなのを見てタマはそう思った。


空腹値が0という表現も逆な気もするが

意味的には満腹度だったはず・・・。

それが0なので多分腹ペコ限界なのだろう。


ちなみに、それが0になるとHPが徐々に減るのだが

Lvがとんでもない事になっているタマにとって

少々HPが減ったところで自然回復能力の方が上回っているので

HPが減るなんて事もなく、なんの支障もなかった。


ちなみに酸素値というのもあるのだが

同様の理由で水中でずっと活動しても死ぬような事はない。


なので、空腹値も酸素値もタマにとってはどうでもいい数値だった。


もし、お腹が減るとか、酸欠で苦しいと感じるなら

今、うちのお腹、やばいのかも?

とか思ったが、感じない事など気にしてもしょうがない

・・・放置する事にした。


他にもおかしなところはないかと

UIの様々なデータをながめていると

その中に、今までなかった項目を発見し

タマは目を丸くした。


自分のステータスの下にもう一人分

HPとMPの数値があり

よく見るとその横には “チセ”の名が記されていたのだ。



< チセ > HP:95/100  MP:0/∞



ゲージと数字で、そう表示されていた。



へ? どゆこと? PT? パーティ組んだ状態やんな? これ?



今までタマはUIを表示させる事をあまりしていなかった。

戦闘時以外でHPやMPの心配をする事もないし

表示自体が邪魔な事もあって、UIを表示させるのは

せいぜいゲーム内時間を確認する時くらいだったのだ。


で、気付けばチセのステータスが表示されていたという事なのだが

これの意味する事は、PTを組んでいるという事だった。


いつの間に・・・?

解散ボタンもないっぽいし・・・強制PT?

むしろ、それでええけど・・・???



「ん・・・?

 ぼんやりどこを眺めておるのじゃ?

 何かあるのか?」


「へ・・?! あ、うん。

 えっと、チセ様の体力が5%くらい

 減ってるんやないかなー みたいな?」


「・・・またか。

 流石の妾も、もう、タマの話にはついていけぬぞ?

 そこに妾の体力が分かる何かがあるのか・・・?

 バカバカしい・・・。」


「あははは・・・ せやな。

 気のせいかもー。」



とりあえず適当に話をはぐらかせてタマはもう少し考えた。



とりあえず95のまま減る様子もないし・・・

こんなもんなんやろか??

てか、MP・・・ なんこれ・・・ 最大MP∞ってなん?

999999999999とかならまだしも∞って・・・?

で、なんで現在値ゼロなん・・・?


うちの方が訳わからへんのやけど・・・。

元神様はやっぱ特別なんやろか・・・?


・・・ってか! HP95/100って少なッ!

うちがちょっとデコピンとかしたら死ぬんちゃうの?



とかなんとか考えていると

チセの声が再び耳に届き

そんな事を考えるのは後回しになる事になった。




「タマ??」


「なっ、なに??」


「何か・・・ 変じゃ・・・」


「??? 何かって・・・」



ハッ・・・!?



「ヒヒィーーン・・・・ ブルルル・・・・」


「う、馬・・・?」



その馬は、前方15m程先の木に繋がれていた。

その背中には(サドル)が取り付けられており

飼い主でも近くにいそうな感じで、手綱が木にくくられていた。



「うむ・・・

 そのようじゃが、やはりおかしいぞ?

 あの馬、今、突然、出現したとしか・・・」


「そうなん?」


「音や匂い・・・気配がいきなり現れた様に感じたのじゃ。」


「へぇー・・・

 ひょっとして、何かのクエストやろか?」


「くえすと?」


「何て言えばええんかなぁ?

 イベントって言うか・・・

 んー・・・上手く説明できへんな・・・。

 とりあえず、何か意味がある事やろから

 調べてみよっか・・・。」


「あの馬を・・・か?」


「うん。 なんていうか、神様の仕業やと思う。」


「???」



いまいち状況を把握できないチセといっしょに馬に近付き

周りに飼い主でもいないかとあたりを見渡す。



「うちには周りに動物とか人がいるようには感じぃへんけど

 チセ様、他に何かいる感じとか・・・せーへん?」


「いきなり出現したのはこの馬だけじゃと思うが・・・」


「乗ってけって事・・・やろか?

 サドル装備してる時点で

 そうとしか思えへんのやけど。」


「どういう事じゃ?

 クエストとはなんじゃ?

 神がわざわざ鞍付きの馬をここに出現させた・・・のか?」


「そういう事に・・・ なるんかな?」


「ハァ? じゃな・・・

 タマは、こういった事は初めてではないのじゃな?」


「っていうか、多分、うちが何かすると

 クエストが発生するシステムやと思う。」


「・・・・・・。

 妾は今日もまた ハァ? といえば良いのか?

 もう理解は諦めたが

 タマが動けば、神が何かしらのイベント・・・

 クエストとやらを用意してくる。

 そう、覚えて置けば良いのかぁ?」


「あはは・・・ そんな感じ。

 でもこれ、うちやなくて

 チセ様へのクエかもやけど。」


「何? 神は妾にもちょっかいを出してくるという事か?」


「多分・・・

 だって、このお馬ちゃんかて、チセ様が乗れれば

 村へ早く楽に着くし・・・ チセ様用ちゃう?」


「そうかっ!

 これは神から妾への貢物なのじゃなっ?!

 なるほど、どの苦労がこれになったのかは知らぬが

 苦労した甲斐があるというものじゃっ!」


「うんうんw

 うちもこっちでお馬ちゃんとか乗った事ないけど・・・

 とりあえずサドルに座って

 うちが手綱を引いて行けば・・・いけるかな?」


「歩くのも悪くないが、馬に乗るというのも面白そうじゃな?!

 早速乗って良いか?

 どうやって乗るのじゃ?」


「ちょっち高いね・・・

 持ち上げるから、そこに足乗せれる?」


「よし・・・任せろじゃ。」



そぉーーっと・・・ よいしょ・・・



「い、痛くない? 大丈夫?」


「うむ・・・もう少々上・・・

 よ、よし・・・あとは跨って・・・」



ぽふん・・・



「おー・・・乗れた!

 どう? 平気? 大丈夫そう?」


「うむ! 高いっ!

 ちょっとの事で随分と景色が変わるものじゃな?!

 それに、この鞍・・・ 中々の座り心地じゃぞ?」


「へー・・・

 サドルって硬い物かと思ってたけど

 神様、気ぃ利いてるなぁ?

 よーし! じゃぁ・・・

 カモーン! お馬ちゃん! しゅっぱぁーーつ!」



スタスタスタ・・・・ ビーーン・・・



手綱を引いてちょっと歩いたタマだったが

馬は微動だにせず、手綱だけが伸び切った。



「び、びくともせーへん・・・ このお馬ちゃん。」


「神め・・・ 期待させるだけさせておいて・・・これか。」


「あ! ちょっと待ってな?」



チセと話しているとどうもすっかり

ゲームという事を忘てしまうタマだったが

クエストならば、何かヒントとか出てないだろうかと

UIを開き、眺めてみた。



< ?? > HP:270/300  MP:50/100 空腹値:5/100



チセのステータスの下に一つ増えてた。

が、特にヒントとか説明とかは、何もなかった。



「んー? 説明すらないんや・・・

 でも、とりま、お腹ぺこぺこみたいやな・・・このお馬ちゃん。

 あと、名前がないっぽ。

 チセ様、何か付けてあげたら?」


「また名付けか!

 よし、任せるが良い!

 んー・・・

 ポチ!  いや、あれは犬じゃったか?

 んー・・・」


「あはは、ポチはわんわんちゃんやねw

 ポチとタマじゃ、うちとこのお馬ちゃんが同列みたいで

 うちがますますペットっぽく・・・ あっ 」



< ポチ > HP:270/300  MP:50/100 空腹値:5/100



「ヒヒーーンっ♪」


「・・・・ぇ?」



何がトリガーになったのか・・・

UIの表示では、すでにこの馬の名前はポチとなっていた。



「ふふふっ♪ なんじゃ?

 ポチが気に入ったのかぁ?

 妾はいっこうに構わぬぞー?」


「ヒヒーン♪ ブルルルルー♪」



こうして、3人目・・・

いや、1匹目のPTメンバーとなった馬は

ポチという名を授かった。



   ◇ ◇ ◇



名前を付けられポチとなった馬は

UIの表示が??からポチに変わるとあっさりと動き出し

タマに引かれ、チセを乗せて歩き出した。



パッカ パッカ パッカ パッカ



「ふふっ・・・ んふふっ♪

 ポチ! なかなか良いぞ~♪」


「ブルルル♪」


「そうかそうか。

 おい、タマ?

 もうちょっと速くても良いようじゃぞ?」


「???

 チセ様・・・馬語が分かるん?」


「馬語などある訳なかろう・・・。

 んー、なんじゃ、フィーリングじゃ!」


「そうなんや・・・?

 ほな、ちょっち軽く走ってみるで?」



タッ タッ タッ ・・・


パカラッ パカラッ パカラッ ・・・



「おおぉー! これは爽快じゃのぉ?!」


「へー・・・

 馬って速いんやなぁ・・・

 木がないとこならひょっとして

 車と変わらへんちゃう?」


「ヒッヒーン♪」


「まだ、本気じゃない・・・ と言いたいようじゃぞ?」


「へー・・・ ポチ凄いなぁ?」



パカラッ パカラッ パカラッ!



一行はポチの加入により軽快に進んだ。


・・・が、数分後

ポチの空腹値は 0となり

HPが徐々に減少しだした。



「チセ様、あかん・・・

 ポチ、もうお腹ペコペコのバテバテみたい。」


「うむ、見るからに、その様じゃ・・・

 ここらで一度、休憩じゃな。

 リンゴか梨を食べたりせぬのかのぉ?」


「あ、そっか・・・。」



ということで、バッグから取り出したリンゴと梨を与えてみた。


モゴモゴ・・・ ボリボリ・・・


腹ペコだったとみえてポチは

リンゴも梨もモリモリ食べた。



< ポチ > HP:258/300  MP:50/100  空腹値:0/100


         ↓


< ポチ > HP:277/300  MP:50/100  空腹値:25/100



「めっちゃ食べた割に・・・25%ってとこかな?

 もう、いらんみたいやし

 けっこー面倒くさい子やなぁ・・・。」


「ポチのお腹事情までそっちを見ると分かるのかぁ?

 妾にはタマの方がさっぱり分からぬがのぉ?」


「でも、体力も回復してるみたいだし

 チセ様が楽で楽しいなら、ええか♪」


「ヒヒーン♪」


「ふふふっ♪ じゃな!」



とりあえず、25%とはいえ空腹値は回復するようだし

当面問題ないということにして

チセをポチに乗せた状態での移動を再開する事にした。



だが、タマはそこである事が気になった、反射的に。

UIにポチが表示されたという事は

PTという扱いになっている、という事である。


で、タマが何を気にしたのかというと・・・


“PTにが弱いキャラいるとなぜだか不安!”


・・・という事だった。


理由は知らない、足手まといだったり

回復したりが面倒だとか

いろいろあるのかもしれないが

ヘタレゲーマーなタマは反射的にそう感じたのだ。


ともかく・・・で、何をしたかというと

例のチートで、とりあえずポチの取得経験値も100倍に変更して

様子を見ることにしたのだ。


いきなりLv100とかにしてしまわないってのが

うちって凄いよねー・・・ツウだよねー・・・とか勝手な事を思いながら。


とはいえ、チートで無双していたタマにとっては

クエストで必須な場合を除いては

ソロでしかこのゲームをしていなかったので

馬というPTキャラがどう育つのかなんて事は知る由もない。

知らないが、弱い馬より、強い馬の方がいいに決まっている!

そんな安直な思考でポチの経験値も100倍にした。


例のチートアプリでポチの取得経験値の倍率をピピっと100にしたのだが

その時、あらたな項目が増えている事に気付いた。


それは、PT取得経験値倍率・・・ というものだった。


説明を見るとPTを組んだ状態なら

いちいち個別に取得経験値の設定をしなくても

勝手にPT全員の経験値を増減させられる。

但し、個別の設定と重複しない。みたいな内容だった。


ほほーぅ、こっちのほうが便利やな?


という事で、こちらも100倍にしておいた。


これで、これからは、もしPTメンバーが増えても

自動的に皆100倍の早さで育つ・・・って事やんな?

安心安心、便利便利・・・と、タマはそんなノリだった。



「おい、タマ?

 空中を見つめてお楽しみの様子じゃが

 そろそろ出発せぬか?

 妾もポチも早く走りたくて堪らぬぞ?」


「あっ! ごめ! せやな!

 行こ行こっ!」



こうして、チセとタマとポチの冒険は経験値100倍で再開した。


目的地である村が何やらおかしな事になっている事も知らずに・・・。



   ◇ ◇ ◇



いきなりだが、この世界の神様とは誰の事だろう?

この世界というのを、チセたちが暮らすこのゲームの世界だとするのなら

それはゲームを作った人とか? ゲームを動かしているプログラムとか?

そんな存在が当てはまるのかもしれない。


で、その神様が何をしているかというと・・・?


やる事はたった一つだ。


そう、プレイヤーであるタマの相手をする事である。



オフラインゲーであるこのゲームにとって

タマという存在だけの為に全ては存在している。

そう言ってもいいのかもしれない。


ならば、神はこの世界をタマだけの為に

どうにでもする気満々・・・なのかもしれない。



   ◇ ◇ ◇



パカラ! パカラ! パカラ! パカラ!



「ふふふふふっ♪

 ポチは速いのぅ!

 この分で行けば今日、日の高いうちに

 村へ到着するのではないか?」


「ヒヒーン♪」



途中、チートハウスで1泊したが

チセたちは、今日、ついに村まであと5km程の所までやって来ていた。


ちなみにポチは競走馬並みのスペックにまで成長したようで

急発進や急停止、急旋回の類は逆にチセにとって危険な程で

「優しく走るのじゃぞ?」と言いつけてあり

ポチもそれが理解できている様子で

速度のわりに素晴らしく乗り心地が良い走り方をマスターしていた。



「あ、チセ様、ポチ、ちょっと待ってー。

 もう、結構近くまで来てる思うんよねー。

 マップ見るから休憩しよー!」


「うむ!」 「ブルルルルっ!」



UIを開きマップ画面を立ち上げ現在地を確認。

タマには当たり前の作業だが、チセからすると

カーナビやスマホか何かがタマには内臓されているような

ありえない事をしている訳で

やはりタマという存在は例外ちゃんで

神様のお友達か何かに見えていた。



「あっちへ5kmってとこやな。

 もうちょっとやね! チセ様!」


「目に見えぬ地図で器用なものじゃのぉ?

 じゃが、あと少しじゃな!

 ラーメンにカフェオレ、石鹸

 あとは、魔法とか鳥がおると良いな!」


「うんうん! ・・・ん? 鳥?」


「うむ! 車の代わりにポチが来たのじゃ。

 今度は飛べる魔法か、飛べるお友達あたりを

 神は用意しておるのではないか?」


「なるほろ。

 鳥に乗って飛ぶなんて考えた事なかったなー。

 昔、そんな種族がいたりしたん?」


「・・・いや、そういえば、それは見た事ないのぅ?

 じゃが、飛行機より楽しそうではないか?

 そもそも、車や飛行機はいろいろと面倒なのであろ?」


「どうやろ? 車もかもやけど

 ポチに乗るんも本当は難しいような・・・」


「何が、本当は・・・ なのじゃ?

 ポチは座るだけで思った方へ進んでくれておるぞ?

 別の者が乗るとそうでなくなるとでも言うのか?」



ちなみにポチだが、最初はタマに引かれて進んでいたが

どうも引っ張られるのが気に入らないらしかったので

今日は手綱は引かずにいるのだが

普通にタマの後を追って走るのはもちろんの事

タマを追うだけではなく

チセが気になった方へと寄り道さえしていた。



「んー・・・ここのお馬ちゃんはそんなもんなのかなぁ?

 なら、思い通りに自由に飛んでくれる鳥ちゃんとかもいるかもやね!

 魔法で飛ぶのもええけど、そっちも楽しそうやん?」


「じゃろ? 楽しみじゃな!」


「あーでも、この先の村って、確かすごく小さな村・・・ あれ?」


「ん? どうかしたのか?」


「地図に書いてある村・・・

 なんか妙に大きいなぁって。

 チセ様んとこいく途中

 空からチラっと見たはずなんやけど

 こんなだったかなー???」


「タマには着く前から村の大きさが分かるのか?

 まぁ、聞いても無駄か。

 とにかく行ってみれば分かるのじゃ

 日の高いうちに着くように急ごうではないか。」


「それもそうやね!

 行ってみれば分かるよねーっ。」



   ◇ ◇ ◇



そして、その後数分でチセたちはついに目的地だった村あたりへ到着した。


・・・が

そこには、人間の村なんてものはなかった。


最初に目に入って来たものは山。

そして、その麓にある洞窟。


そしてそして、その入り口にいる


“ゴブリン”の姿だった。



幸いにもタマのとってもイイ目と

チセの鋭い感覚によって

随分と手前でそれに気付いたので

今は、こっそり隠れながら様子を伺っている状態なのだが

人間の村を目指していたチセたちにとっては

完全に予定外の出来事で戸惑うしかなかった。




「おい、タマ?

 妾が上から見ていた村がないぞ?!

 それに、あれは・・・

 人間の成れの果てではないか・・・。」


「成れの果て???

 あれって・・・ ゴブリンちゃうのん?」


「ごぶりん?

 タマはアレを随分と可愛らしい呼び方で呼んでおるのじゃな?」


「そ、そういう感じのリンとちゃうけど・・・」


「とにかくあれは

 かつての魔術戦争で愚かな人間どもが魔法を掛け合った時に誕生した

 人間の成れの果てじゃ。

 互いに呪いを掛け合って生まれた人間の一種で

 妾が全て沈めたはずだったのじゃが・・・」


「ゴブリンってそんな誕生秘話があったんや・・・

 うちの印象やと、どこかの街とかに行くと

 例のクエストってのが発生してな?

 ゴブリンが街の家畜とかを盗んでっちゃうから

 退治してきて! とか依頼される悪者で

 うちはそれを倒して、街からお礼を受取る・・・みたいな?

 そんな感じの悪いヤツなんやけどね。」


「ということは、タマはあれを何度も見ておるという事か?」


「せやな? まぁ、クエストの時に湧いて出るっていう感じやけど。」


「湧いて出る・・・?

 ポチのようにか?

 ・・・意味が分からぬ。

 これも、神のちょっかいという事か?」


「・・・かも、しれへんな?」



ザッ ザッ ・・・



「ん・・・?

 気付かれたのではないか?」


「あ、ヤバっ!

 ポチがみつかっちゃったっぽいね?!」



タマたちは茂みに身を潜めていたのだが

どうやら、背の高いポチのどこかが見えてしまったらしく

門番っぽい事をしていたゴブリン2匹が

ポチの方へと身を屈めながらコソコソと移動し始めた。


因みに石斧っぽい武器を装備している。



「いつもなら、やっつけちゃうんやけど・・・

 チセ様は、その・・・」


「なんじゃ?

 やっつけたら妾に嫌われるかのぅ?

 とでも聞きたそうな顔じゃな?」


「あ・・・ う、うん、それ。

 一応人間ってことやろ?

 でも、襲ってきそうやし

 チセ様やポチが危険になるんは、うち嫌やし。」


「あれは存在してはダメな種じゃ。

 遠慮などいらぬぞ?

 まぁ、神であった頃程、そうは思わぬが・・・。

 どうみても、襲ってくるじゃろう・・・あれは?」


「だよね? 分かった。

 ほな、チセ様はここに隠れててな?」


「うむ。」



洞窟から50m程離れたポチがいる位置へと

ゴブリン2匹は身を低く構えながら迫って来ていたが

茂みに隠れているタマとチセの存在には、まだ気付いてもいないようである。


洞窟内部にどれくらいのゴブリンの集団がいるのかも分からないので

内部の方へ逃げられたり報告されてしまう事が厄介・・・

タマはノコノコこっちへ来てくれたことは

むしろラッキーと思いつつ行動を起こした。



スタタタタ・・・・



「「 グウォッ?! 」」



だが、タマに作戦なんてものは何もない。

普通に走ってゴブリンの前へ立ちはだかった。

タマにとってゴブリンなど何の脅威もない存在で

それがいつもの当然の行動だった。


で、茂みから突然現れた人間にゴブリンは

当然驚き、目の前まで接近されたことで

慌てて石斧を振りかぶって攻撃に転じた・・・



「「 グワォオォォッ!!! 」」



ガスッ・・・ ドカッ・・・



ゴブリン2匹の斧がタマの身体にヒットし鈍い音をあげる。

が、タマにはそれを避けたりガードするなんて考えなどない。

最下級ともいえる雑魚にそんな事をする理由すらない。

当たったところでタマがダメージを食らう事などありえないのだ。


なので、好きに当てさせて

その後、のんびり武器を取り上げて、何かで縛るとかでもして

2匹のゴブリンを拘束でもしてから

その後の事はそれから考えよう・・・と思っていた。



んがしかし・・・



確かにタマのHPはMAXのままだった。

一瞬1か2か? 減ったかもしれないがすぐに自然回復でMAXに戻った。

私服にしか見えない装備にも傷一つつかず

皮膚に刻まれた浅い傷は、次の瞬間には何事もなかったように塞がった。


・・・が、大誤算が一つだけあった



「痛”ぃッッッたあ”ぁぁーーーッッ!!!!!!」



それはあり得ない事に・・・


 “痛覚” だった。


それを証明するかのように

タマのリアルの部屋の空間にも

その叫び声が響き渡った。


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