04 100倍キャンペーン。
リンゴをお腹一杯食べたチセたちは
ラーメンを求め、冒険を再開した。
スタスタスタッ・・・
「なぁタマ?」
「なーにぃー?」
「妾の歩くスピードが随分と小マシになった様に
感じるのじゃが、そのへんを褒めたくはならぬか?」
「うんうんっ!
見違えるくらいアンヨが上手んなったねっ!
偉いっ♪」
「ふっふっふっ♪ やはりそうか!
この調子なら明日になる頃には
車より速く歩けるのではないか?」
「うんっ! それええね! がんばろなっ!」
「うむ!
ちなみにタマは本気を出したらどれくらい速いのじゃ?」
「んー・・・
歩くんは、ぶつかっちゃいそうやし
本気出した事ないかなー?
飛んだ方が障害物ないし。」
「なるほどのぉ・・・
やはり飛ぶ魔法は復活させたいところじゃな。
耳長を沈めたのは失敗じゃったか・・・。」
「そうやでぇー?
チセ様も今は耳長のエルフちゃんなんやし
今度生まれてきたら、絶対仲良くしよな?」
「ふむ、タマは耳長が好きじゃのぉ。」
「う、うん・・・ チセ様のお耳も・・・めっちゃスコ。」
「スコ・・・?」
ちなみに、車を超える速度というのはムチャな話ではあるが
あながち冗談という訳でもなかったりする。
種明かしをするとタマが甘やかしプレゼントとして
チセに与えたものというのは、100倍楽チンである事。
つまり、タマが気に入っているゆるゆる縛りプレイのアレで
いつでも経験値100倍キャンペーンというやつだ。
なので、チセの入手経験値はチートで常に100倍で
色んな事の上達がめちゃくちゃ早いのである。
しかも、タマのリアル世界よりも
そもそもすべての成長がやや早いというオマケ付きで
丸1日歩けば、歩く:Lv20 とかになるのかもしれない。
上限がいくつで20がどんなLvなのかは謎だが
今日のチセの歩く速さが、中々のスピ―ドなのは事実で
自転車を軽くこぐくらいの速さと思われるスピードで進んでいた。
「なぁタマ?」
「なーにー?」
「妾が自分でリンゴを食べるには
本来ならどうすれば良いのじゃ?」
「いい質問やね! チセ様。」
「当然じゃ、インチキなしで何事もするのであろう?
賢い妾は、タマに任せていては、毎度手遅れじゃと気付いたのじゃ。
腹が減ってからではなく、減る前にリンゴを用意するという事じゃ。
分かるか?」
「う、うん、それもそやな・・・ なんかごめん・・・。
リンゴは、お店で買ったらええんちゃうかな?
あ、でも、お金がいるか・・・。」
「ふむ・・・ では、お金の作り方・・・
いや、お店の者はどうやってリンゴを手に入れるのじゃ?」
「リンゴの木を育てて、実がなったら収穫するとか
野生のリンゴを拾ってくるんじゃないかなぁ?
お店やった事ないから、分かんないけど。」
「じゃよな?
こんな事ならリンゴのある場所をもっと見ておくんじゃった。
その木の隣に住めば食料に困る事はなかろう?
リンゴがあればお金などいらぬしな。」
「んー・・・ 飽きない? リンゴばっかりで。」
「あんなに美味しいのにか?
まぁ仮に飽きたとして・・・?
あぁ・・・ なるほど、だから人間どもはお金を作ったのか。」
「チセ様、賢い! お金の凄さ分かったぁ?」
「うむ、要するにリンゴの木があれば
リンゴも食べれるし、余った分を売ってお金にもなる。
そしてたまにお金で買った別の物を食べる、という事であろう?
全てはリンゴの木があれば問題ない!
リンゴの木が全て! という事じゃ!」
「あ、うん・・・ そう来たか。
間違っては・・・ ないんかなー?」
「当たり前じゃ。
どこも間違っておらぬ。
タマのせいで、食べ物がなくなると
とんでもない事になる事が分かったからな?
今後、食べ物が無いという最悪な状態は
1日以内に速やかに解決する必要があるという事じゃ。
2日はもう無理じゃからな?」
「わ、分かった。」
「で、要するにそう言う事なのじゃが・・・
おそらくあと1日以上はラーメンに届くまい?
という事はじゃ、またあの飢えが襲ってくる・・・という事じゃ。
分かるな???」
「あ、そやな。
どうするん?」
「知れた事! 全力で回避する!
・・・が、どうすれば良いのじゃ?
リンゴの木もお金もない場合は・・・。」
「デスヨネー・・・
凄いんか、全然なんか、よう分かれへんなぁ、チセ様は。
お店で買う以外の方法で食料を調達する事になるなんて
思ってもみいへんかったけど、今は必須やんな・・・。
ちょっち食べれそうな物ないか、気ぃつけながら進んでみるぅ?」
「ふむ、まぁ、そんなところか。
人間は何を食べておったかのぅ・・・。
その辺の草や木ではダメなのかぁ?」
「食べてみたら分かるんちゃう?
まずーいとか、お腹痛ーいとか、あるかもやけど。」
「む・・・
ならば、まずタマが毒見をせよ。
そんな事を言われては怖いではないか・・・。」
「そうしてあげたいんやけど・・・
うち、例外ちゃんやから
味も匂いも分かれへんし、毒も平気で気付かへんかも・・・。」
「何ぃ??
あー、そういえば、そんな事を言っておったな。
ん? いや待て、騙されぬぞ?
カフェオレが好きじゃと言っておったのを
妾はハッキリしっかりと覚えておるぞ?」
「あぁ・・・んー・・・・
好きやけど、この世界のは味がしないってゆうかな?」
「この世界ぃぃ?
・・・。
またか・・・ ややこしい顔をしおって・・・
あぁ・・・ もう良い。
どうせ聞いても ハァ? なのじゃろう?
要するに、タマはつかえぬヤツ・・・ という事じゃな?」
「うっ・・・そうかも・・・。」
「やれやれじゃ・・・」
スタスタ・・・ プチッ・・・
モシャ モシャ ・・・・モッ?!
ペッ! ペッ!!!
「ぷっ・・・やばぃw
今の・・・w
めっちゃ可愛いしww」
「ペッ・・・ うえぇぇ・・・
き、貴様・・・
今、知っておったような顔をしなかったか?
ペッ・・・ペッ・・・」
「だって、見るからにまずそうやったしw
でも、実際に食べた事ないし
ひょっとしたら美味しいかもしれへんかなーって・・・ ぷっw」
「ぐぬぅぅ・・・
人間はほんとにいちいち面倒くさいのぉぉぉ!
確率はッ?!
美味しい の確率はどれくらいなのじゃ!」
「確率? ・・・って なん????」
「その辺の、木や草や・・・虫とかじゃ!
手当たり次第に食べて、美味しいに出会う確率じゃ!」
「うわぁぁ・・・ 虫ぃぃ?
あんなん口に入れれるぅ?
けっこうゼロや思うで・・・
虫食べる人もおるみたいやけど
うちは絶対食べたないわぁ・・・。」
「ゼ、ゼロじゃとぉ?!」
「あ、でも、草の中でたまーに美味しいのもあるで!
それでも、生は、ちょっちきついんちゃうかなぁ?
ちゃんと料理せな。
山菜の天ぷらとかはめっちゃ美味しいで?」
「・・・。
ダメじゃ。
妾はきっと村に着く前に
また、あの・・・飢えという地獄を味わう事になる。
死のう・・・ 苦しむ前に、いっそ死のう・・・」
「メンタル弱っ! 諦めないでって!
大丈夫、慣れてくるまで、うちが甘やかせるから!
大丈夫やから、な?! なッ?!」
「リンゴ・・・。
妾はリンゴすら見つける事ができず・・・
ここで飢えるのか・・・
タマに殺されたばっかりに・・・」
チラチラ・・・
「そんな小芝居せんでも、リンゴくらいまたあげるってば。
そんなドケチを見る様な目で見んとってよぉ
それ地味に心にチクチク刺さるから・・・><」
「ふふっ・・・
いやな? 美味しい の顔も良いが・・・
その顔も悪くないと気付いてな?」
「へ・・・?
うちどんな顔してるん??」
「こう、妾のために頭をひねっておる顔・・・?
要するに、妾が好きなのであろう? その顔は?
なかなか悪くないぞっ?」
「べべ、別にそんなんじゃネーシ・・・。
もぅ・・・チセ様は・・・困るなぁ・・・。
お、思ったんやけど、Lv上がるまで
どう考えても無理ゲーだから
暫定でこういう事にせーへん?」
「ん? リンゴの木でもくれるのか?」
「近い! 惜しい!
リンゴだけじゃなくて、手に入れたものは
うちが甘やかして100倍にしてあげる! ・・・みたいな。
ラーメンとか、初めて食べる物とかは
二人で頑張って“ちゃんと”手に入れるって事でさ?」
「・・・ッ!!
リンゴはあと何個じゃ?
まだ99くらいあるのではないか?
あ、お水もか?!
あれはまだ、大きな1個を飲み終えておらぬとも言えるから
飲み放題で良かろう?!」
「うっ・・・ ><。
うちが飢えさせてもーたばっかりに
こんな、あさまし・・・がめつ・・・えっと・・・」
「黙れ! タマが言うとおり タマのせいではないか!」
「ごめんなさい。 うちが悪かったです。
なので、お詫びという事で・・・
リンゴとお水は、食べ放題の、飲み放題!
これで、どうかなっ?」
「よし許したっ!!!」
「あはは 良かったっ
うちはドケチでも、いぢわるでもなくて
チセ様の為にって思ってしてるんやからなぁ??
あ・・・ あと、さっきの草も食べホでええよ?
出し方分かったから。」
「いや、草は良い・・・。
ん・・・
そういえば100倍楽というのはこの事か?
今、思いついたような口振りじゃったが・・・?」
「それは、そういう事やなくて
なんてゆうたらええかな?
歩く事とかが100倍早く上手になるって事なんやけど・・・」
「・・・ハァ?
妾が“歩く”を上達させる事に
タマが何か関係あるのかぁ????
さっぱり分からぬ・・・ ガチで分からぬわ。」
「ガチ・・・覚えたんやね。」
「確かに歩くのはメキメキと上達したが・・・
タマのせいだというのなら
威張りにくいし、褒めさせにくいではないか・・・。
妾の手柄をとるでないわ。」
「あそっか、黙っとけば良かったね・・・やっぱり。
チセ様が聞くから・・・。」
「よし、忘れよう。
貰っておくが、忘れよう!
妾が妾の力で 歩く が上達した。
うむ、やはりこうでなくてはな!
妾はそれがスコじゃ。」
「うんっ!
てか、スコも覚えたんやね・・・
迂闊な事いえへんなぁ。」
“甘やかし道”とは奥深い・・・タマはそう感じつつ
ついつい出てしまうオタク言葉をやや自重する事にした。
◇ ◇ ◇
タマからリンゴとお水を無限にもらえる事になり
餓死の恐怖から解放されたチセはルンルンで歩いていた。
タマというリンゴの木の隣で暮らすようなものなのだ。
もう、怖い物など何もない!
そんな調子で歩いていた。
しかも、何でも100倍GETキャンペーンが始まった事もあって
ただ進むだけではなく、辺りをキョロキョロ見渡しながら進んでいた。
もしも、リンゴ以外の果物を1つ・・・
いや、余裕をもって2つも拾おうものなら
実質食べ放題と言っていい。
未だ、リンゴは飽きずに美味しいと感じるようではあるが
新しい食べ物への興味もあって
視覚、嗅覚、聴覚をフル活用しながら進んでいた。
クンクン・・・ クンカクンカ・・・?!
「おい、タマっ!」
「なぁにー?」
「何か感じぬか?」
「チセ様のクンクンが可愛いって事以外で?」
「バ・・・馬鹿・・・
それはそれでもっと褒めて良いが
この匂いの方じゃ。」
「匂い・・・?
うち鼻もバカやからなぁ・・・
何の匂い??」
「分からぬ・・・
じゃが、これは 美味しい の匂いじゃ。
間違いない。」
「そういえば、なんで、匂いとか味のパラメータがあるんやろ?
そんな機器に対応してるほど本格的なん? タダやのに。
こっちの住人の為に適当に設定してあるんやろか・・・」
「ぱらめえた? 何を言っておる?
妾は、美味しそうな匂いがすると言っておるのじゃ!
少し寄り道をする! 良いな?」
「うんうん、もちろん!」
「こっちじゃ!」
テクテク・・・ テクテク・・・
結構、歩いた。
「ふっふっふっふっふっ!!
ついに見つけたぞ!
あれじゃ・・・
人間はあれを、なんと呼んでおったかのぉ?」
「おおぉー! 梨やんかぁ!」
「そう、それ、梨っ!
こんな香りを放っておったのじゃな・・・。
神だった頃は、ただの黄色い玉としか見ておらなんだのじゃが
こうして、香しい匂いを嗅いでおると堪らぬな!
これは食べれる、当たりの方であろう?
間違いなく!」
「これが、うちの知ってる梨と一緒なら大当たり!
きっとめっちゃ美味しい思うで!
うちはリンゴより好きやなー!」
「なるほど、食べたくなるものは、食べれる。
そういう事かもしれぬな?
よし、さっそく食べてみるぞッ!
・・・
・・・?
あー・・・なんじゃ・・・
どうやってとれば良いのじゃ?
少々背が足りぬ・・・。」
「木登りするか・・・長い棒かなんかで叩き落すとか?」
「あ、甘やかしポイントはまだあるのか?」
「チセ様の味方のうち的には、もちろんあるけど・・・
どっちがええんかな?」
「ぐぬぅぅ・・・ 小癪なぁ・・・
せっかく妾のこの鼻で見つけたのじゃ
どうせなら自力で口に入れたいところじゃが。
少しがんばって無理そうなら、頼む・・・といったところか。」
「うんっ!」
「ならば・・・ ほッッ!」
その掛け声と同時にチセは梨の木に登り始めた。
この木、それ程大きくならない梨の木にしては
少々立派ではあったが木登り初挑戦には程よい
木だったのかもしれない。
「ふんっ・・・ ほっ・・・ よっ!
ひゃ?! ・・・っとっと。」
「だだ、大丈夫?!
落っこちてもうちが受止めるけど
無理そうなら、諦めていいからね?!
うぅぅ・・・ハラハラするぅぅ・・・」
「あ、侮るでないぞ・・・
妾のお家から落ちる事に比べれば、この程度・・・
この枝の先に・・・あと少しなのじゃ!」
グイィ・・・ ぷるぷるぷる・・・
可愛らしく無理せず登っていたチセだったが
美味しそうな甘い香り食べ放題を目の前にして
形振りかまわず、本気を出した。
「ほッ!!」
そのかけ声と同時に脚を跳ね上げ
手と脚、両方を使って枝にぶら下がった!
ビローーーン・・・
そこでタマは見た・・・。
そして思い出した
チセに着せたのは、ワンピース
そして後からロングコート
あとは靴下とブーツだけである事を・・・。
めくれ上がったワンピースとコートの下から現れた
真っ白で綺麗なお御足様と・・・
その上にあるさらに美しい曲線美・・・
「・・・・ッ?!」
大声を上げて驚かせたり
お尻丸見えな事を気付かせては
慌てて落下させてしまうに違いない!!!
・・・という
完璧な言い訳が瞬時に思いついたところで
タマは無言のまま、そのプリンとしたものを凝視した。
ゴクリ・・・
もし、手を滑らせたら
受止めないと危険だから
目を離したらダメ・・・
チセの手は、脚と違いLv1程度の力しかないはず・・・
今にも落っこちてくる可能性が十分に・・・
と、更に都合のいい理由を思いついたが
その理由が100%タマに都合のいいだけの嘘という訳でもなく
確かにそう思ってもいた・・・。
だから、チセの安全の為に
どうしても目を背けずいなければいけないというのは
本心である・・・。
だが、なぜ、下半身に視線が向かってしまうのかは
タマ自身にも分からなかった・・・。
み、見たいわけやないねんで???
そこに、そんなプリンプリンがあるから、あかんねん!
うちは、勝手に動く眼球を動かす名前も知らへん筋肉に勝てへんだけで
うちが眼球を動かしてるんちゃうからッ!!!
と、誰もいない脳内で
何かに向かっていい訳をしながら
結局はそのお尻を見つめていた・・・。
モギッ!!
「よしッ!! とった!!!!
とったぞ、タマッ!
じゃが、帰りはもう無理じゃ!
受け止めるが良い!!」
タマの返事を聞く気などさらさらない様子で
チセは梨をもぎ取ると同時に枝を離れ
自由落下を始めた・・・。
「わっ?!」
ドサ・・・
「ハァ・・・ ハァ・・・
や、やったぞ! タマ!
100%妾の手柄じゃろ? これは!
妾は梨を一人で手に入れたぞ!!
んふふふっ♪」
「う、うん・・・ やったね・・・」
「プルプルの、ギリギリじゃったが・・・
なんとか・・・
ん? なぜ、もっと盛大に喜ばぬ・・・?」
ナイスキャッチでお姫様だっこ状態になり
タマの腕におさまっていたチセは
喜びの温度差に疑問と不満を抱き
タマの顔をじっと見た。
で、そのタマの視線の先を追っていくと
自分の脚がワンピをめくり上げてビローンとさせていた訳で・・・。
「ばッ・・・ 馬鹿者ぉぉッ!!!」
グシャッ!!!!
味覚の分からないタマだが
顔面で砕け散ったその梨だけは
なんだかとっても甘ーい感じがした・・・らしい。
◇ ◇ ◇
二人して無言のまま
少し頬を赤らめて視線を逸らしあう事約2分。
砕けた梨を記念にモグモグ食べていたタマに
やっとチセが声をかけた。
「まったく・・・
妾の身体ができた時もそうじゃが
タマはなぜ妾の脚を見て
美味しい になるのじゃ・・・。」
「ぅ・・・。」
「美味しい の顔をするのは良いが
そこはダメじゃ、顔とかにしておけ・・・
違いは良く分からぬが
妾が、こう、おかしくなるのじゃ。
大体、人間に限らず交尾の都合で
メスの身体にはオスが興味を示すのが
自然の理だったはずではないのか?
タマはそのあたりも例外ちゃんなのか?」
「ぅぅ・・・ そんな事ない・・・ つもり。」
「まぁ、妾もメスのタマに見られて・・・
なぜかドキドキと、変な気分になったかもしれぬが・・・。
あぁ、そう言えば、タマはメスでよいのあろう?
名付けの時も確かそう言っておったはずじゃが。」
「え・・・ そんな程度の認識やったん?!
うち、けっこうちゃんと女の子してるつもりなんやけど。
おっぱいだって・・・ほらぁ。」
ぷるん・・・
「う、うむ・・・
仕方なかろう?
タマだってありんこの集団を見て
誰がオスでメスかなど、分からぬであろ?
それと似た様なものじゃ。」
「ガーン・・・
そ、そんな、感覚なん?!
なんか、めっちゃショック・・・。」
「いや、少々盛ったかもしれぬが・・・
まぁ、安心しろ、タマだけはもう他と間違う事はないと思うぞ?」
「そ、そうなんや・・・ありがと。」
「ふむ、まあ良い。
妾もまた故障して、取り乱したようじゃ。
その梨でチャラという事にしようではないか。」
「うん・・・うちの目が、ごめんな。
あ、甘やかしって訳でもないんやけど
パンツとブラくらい出すから
これからは、ちゃんとつけとこな・・・。」
「・・・ん?
・・・パ???????
タ、タマ・・・
お前、まさか・・・脚だけではなく・・・」
「しまっ・・・」
バッコーーーーーンッッ!!!
今度は梨ではなくゲンコツがタマの顔面に炸裂した。
その後、タマの顔ではなくチセのゲンコツの手当てをし
さらに、タマに梨をあるだけ全部回収させ
ちゃんとパンツとブラも装備した・・・
が、チセは不機嫌なご様子のままだった。
「おかわりじゃ!」
「はぃ・・・どぞ。」
シャク・・・シャク・・・モグモグ。
「ふんっ・・・
別にタマは悪くないぞ?
妾が、お・・・お尻を勝手に出したのじゃろ?」
「ま、まぁ・・・」
「じゃが、どうしてこうも酷い故障が起こるのじゃ?
ここには、何か重大な秘密でもあるのかぁ?
少々見られただけで、なぜこうも・・・
はぁ・・・ 堂々巡りじゃな。
さっきから同じ事を繰り返して疲れたのじゃ。
しかも、故障中では
せっかく完璧な方法で手に入れたはずの梨の味さえ
いまいち味わえておらぬ気がするぞ・・・。
確かに美味しいのじゃが・・・どうも味覚に集中できぬ。」
「美味しいって、難しいんやね・・・。
初めての梨やったのになぁ。
いっぱいとったから
美味しいって思える時にまた食べよなぁ・・・。」
「そうじゃな。
それだけとったのじゃ、梨ももう食べ放題で良かろう?」
「うん、もちろん。
あっ・・・でも、やっぱり一個一個味って違うんやろ?
うちがインチキで出すんは
多分どれも一緒の味になっちゃうんやないかなぁ・・・。
せっかく二人で頑張ってとったのに。
一応、ここになってた梨は全部回収して
腐らない効果付きのバッグに入れといたけど
20個・・・くらいかな?」
「ふむ・・・そうなのじゃな。
リンゴはどれも同じだからといって
不満に感じた事はないぞ?
そこはどうでも良いのではないか?
そう考えてくれたタマの気持ちの方が
妾には美味しいぞ?」
「そ、それなら・・ ええけど。
何か感じたら教えてな?
うち、チセ様ともっと幸せになるんが
ここでのお仕事やし・・・
ええ事も、ヤな事も、全部、教えて欲しいなーって・・・。」
「もちろんじゃ。
妾の相手はタマしかおらぬのじゃ
嫌だと言っても世話をさせてやるから
安心するが良い。
また2日もさぼる事があったら沈めてやるのじゃからな?」
「うんっ。」
「ふふっ♪」
シャクッ・・・
「ぉ・・・?
さっきより梨が 美味しい になったぞ・・・?!」
「そっか♪」
美味しそうに梨を頬張ったチセの顔を見ながら
タマは、一番大事な物が何なのかに気が付いたような・・・
そんな感じがした。