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03 ろぐあうと。


名は体を表す。


そんな言葉が存在するという事は

今日つけられた“タマ”という名前にも

体というものがあるのかもしれない。


その名前で呼ばれてからというもの

どうにもチセという存在が

心の中で大きくなっていくばかりで・・・

タマは困っていた。


“リアル”というこちら側の世界の片隅で。



「はぁ・・・何してんのやろ、うち・・・。」



タマは、リアルという現実に戻りそう呟いた。



受験という戦争にこっぴどく惨敗して

浪人生という隠れ蓑に閉じこもった、引きこもりニート。

それがタマという少女の現実だった。


勉強は嫌いやし、学校も卒業してもたし、予備校とか無理やし・・・

うちが勉強なんかする訳ないやんな?


といった屁理屈をこねながら

ネットで拾った作者も知らないフリーゲームを始めた。



そのゲームの中の世界こそが

チセと出会ったあの世界だった。



オンラインゲームは人と絡むのが面倒だから

オフラインのゲームを当然のように選んだ。


だが、オフラインゲームとはいえ

タマが暮らすこの近未来世界ではAI技術が発達していて

ゲーム内のNPCは、びっくりするほど人間っぽくなっており

人と触れ合っているようなあったかさが感じられた。


制限がもうけられているのか

とんでもなく酷い人格にAIが育つなんて事は稀である。

悪人役のAIは別かもしれないが

本当に、いい人だなぁと思えるNPCが多いし

そこら辺のリアルの人間より個性的であったりもした。


リアル世界よりもよっぽど快適だったりするから

逆にタチが悪いと言ってもいいのかもしれない。


各地で発生するイベントをこなしたりもするが

AI搭載のNPCと好きなように過ごすのが

このゲームの醍醐味みたいなもので

特定のキャラと結婚したり、どこかの国の王になるのも自由だ。


ただ、昔のゲームと違ってAIは賢く、個性的なので

王になろうと思うのであれば

それこそ暴君として力で制圧するのでなければ

リアル世界で人望を集めるのと同様に

人を惹きつける何らかのスキルがプレイヤー自身にも求められる。



そんなんがあるんやったら、こんなヒキニートしてへんし。


・・・である。



そんな現実っぽい所もある

このゲームだったのだが

リアルとは大きく違うところがあった。


それはタマのちょっとした知識でも


“チート” ができた・・・という事だった。


チートとは早い話インチキの事で

ゲーム制作側がわざと作った裏技などを使うのとは訳が違い

不正にデータをいじったり改造したりする行為などをさすのだが

このゲームは、フリーのオフラインゲームだけあって

チートに対しての対策が、それ程されておらず

むしろ、別にチートしたい人はチートして楽しんで?

と感じる程、スカスカのセキュリティだった。


タマは、よくある誰にでも使えそうな

いわゆるチートアプリをネットで拾って持っていて

それを起動させて、ゲーム内の所持金データなどを書き換えたりしていた。


少しどんなものかを説明すると

まず、ゲーム内の所持金が1000の状態で

ゲーム内データの中から1000という値を検索すると

膨大な量の1000というデータがひっかかる。

で、例えば、300の買い物をして所持金が700になった状態で

さっき1000だったデータの中から700に変化したデータを再度検索する。

それを何度か繰り返せば、所持金データの場所がいずれ判明するので

あとはそこに一億と入力すれば、ゲーム内での一億円が手に入る。

一瞬で、あほみたいに簡単に・・・・。 と言った具合だ。


簡単に説明するとそんな感じなのだが

ぶっちゃけ実際の操作はもっと簡単で

そんな原理を理解していなくても

そのアプリがそういった事を自動でやってくれる。


何度か所持金の増減があれば

所持金操作ボタンが勝手にあらわれて

それをクリックして数字を入れれば事は済む。


所持金やHPなどのデータの書き換えはもちろん

攻撃力や守備力をいじろうものなら

無敵のカンフーマスターにだってなれる。


もう少し長い時間使っていれば

最強の装備にあり得ない組合せの特殊効果をつけたり

最大強化値以上に強化されたチート装備を作る事も可能だろう。


しかし、ボスキャラをワンパンで倒して、何か面白い?

というと、逆にまったくもって面白くもなんともなかったりする。

戦闘がただの面倒な作業にしか感じなくなってくるのだ。


いろんなチートプレイを何度か試して

やっぱりつまらなくて、チート無しで挑戦したりもするのだが

やっぱり面倒くさいと思ってしまうのも事実で・・・


最大HPだけ999999にしてみようとか?

まぁまぁの剣1本だけ持った状態でやってみようとか?

色々な縛りプレイを試すのだが、ちょっと面倒になるとやっぱり

過剰な強さを持ち出してしまう。


で、無双して、虚しさを味わって・・・萎える・・・。


タマはそんな性格のチートゲーマーだった。


世の中にはアイテムを使わないでクリアを目指したり

パーティを組まずソロでラスボスを倒したり

そんな高度な縛りプレイをする偉大なプレイヤーが

たくさんいるというのに・・・


甘やかす方向の、ゆるゆるの、逆縛りプレイをしてもなお

途中で飽きたり、萎えたりする・・・


要するにタマは・・・


ゲームすらまともにできやしない

ダメっ娘だと言う事であーーーrrrrるッ!



うっさいわ! 


だってぇぇぇ!

何時間もザコ倒して強くなるんに・・・何の意味があるんよ?

って、思うやん?


せやから、取得経験値を100倍にしただけで

ここまでやったうちは頑張った思うし

苦労しただけあって、それなりに楽しめたとも思うねん。


この縛りは中々やったと、我ながら思う・・・ うん、オススメ。


で、経験値100倍だけ縛りでラスボス倒して

もうこのゲームは終わりにしよって思ってたのに・・・


それやのに・・・

そんなうちの行動をぜーんぶ見透かしてたみたいに

そのラスボスを倒したら


訳の分からへん、エンディング? がはじまった・・・



細かい事は覚えてへんけど

大体の内容はこうやった・・・。



それじゃ、全然面白くなかったでしょ?

ちゃんと面白くって

幸せなエンディングを

特別に用意したから、ぜひ、体験してってね♪


なんかそんな感じで

ゲームの物語とかには一切触れず

プレイヤーであるうちに話しかける感じで

AIらしきキャラがそんな事を話してきた。


で・・・


その為に、まずこの世界の裏ボスである

神様に会いに行け・・・。


そう言われた。


胡散臭い・・・

なんかそんな気持ちでいっぱいやったけど

まぁ、たかがゲームやし?

裏ボスがおるって分かったんやったら

倒しとこっかなって・・・ 思うやん?


そこで、神ちゃんと出会った。


今思うと、会いに行くだけで

倒さんでも良かったんかもしれへんけど・・・もう遅い。


最初オートでチマチマ殴っててんけど、何しても完全防御やし

ぶっちゃけ無敵やったからおかしいなぁって思ってんけど

なんか、特別な装備が必要とか言われるんもめんどいやん?

で、つい、神ちゃんのHPを0にしちゃった訳・・・ポチっと。


で、どうやらそれも

このゲームの作者さんはお見通しやったのか

エンディングの代わりに

また長ーいメッセージを頂いて・・・


・・・で、気付いたら、チセと名付けたロリっ娘エルフちゃんに


ご執心・・・  なぅ・・・


だって・・・ずるいやん!

学校時代にちょっとあって、男子が苦手な事とか・・・

昔飼ってた黒猫ちゃんの名前がタマで溺愛してた事とか・・・

アニメやゲームでなぜか綺麗で可愛いエルフちゃんに惹かれちゃう事とか・・・


ことごとく、うちの弱いところを突いてくるとか、反則やろぉ?


今までの正常な感覚やったら、所詮ゲームで、所詮NPCやから

ちょっと嫌いなキャラとかおったら殺したって別に・・・って思ってたし

お気に入りのキャラだって、ちょっと悪戯とかしていじめちゃおうとか

それが普通やったのに・・・


でも・・・

うちが名付けた、この子だけは・・・

うちをタマって呼んでくれる、この方だけは・・・


チセ様だけは・・・幸せにしたいって・・・


ゲームやのに・・・


あああぁぁ! うち何してるんよぉ?! どうしてもうたんよぉ?!



・・・ハッ


あれ、また、うち、知らん間にチセちゃんに、様付けして・・・



あ・・・? あれ???



   ◇ ◇ ◇




少し時間を巻き戻して話すと

昨日は夜になったところで

甘やかしポイントで特別に家を建て

そこでタマは、チセと仲良く寄添って話をした。


ゲーム内のキャラに身の上話をするのも変な感覚だったが

自分がこの世界ではちょっと例外的な存在だとか

今まで、この世界でどんな事をしてきたかーとか

神さまだった生活はどんなだったのかーとか

今はどんな感じなのかーとか・・・


知りたい事を聞きあい、それに答え

伝えたい事を伝えあい、それを真摯に受け止めて聞いた。


言葉を交わすほどに

タマはチセに惹かれていき

もっと一緒にいたい・・・。

そう感じる気持ちがどんどん膨らむのを止めれなかった。


タマ、タマと ちょっと偉そうに呼ぶその笑顔に

どうしようもなく心が浮かれてしまった・・・。



そして、そんな満たされた時間を共に過ごしていると

チセが初めて “眠い” という体験をし始め

数分も見ていると、初めての眠りについてしまった・・・



スゥー・・・ スー・・・・



妙にリアルなその寝息をしばらく隣で聞いたあと

タマもゲームを終了させ、PCの電源を落とし

リアルで寝る事にした。



   ◇ ◇ ◇



そして、今日、タマは目覚めとともにPCを立ち上げ

チセに会う為、ゲームを起動した。


ゲームとは認識しつつも

早くも禁断症状を発症させながら

長く感じるロード画面が消えるのを首を長くして待ち

やっとゲームが起動し

愛しのチセを探して周りを見渡すと・・・



そこには、想像もしていなかった光景があった。



「タ・・・マ・・・」


「へ・・・? チセ・・・様?」


「タマ・・・なのか・・・?

 馬鹿者ぉ・・・

 妾を一人にするなど・・・

 いくら殺しても、殺し足りぬぞ・・・」



ゲームに入ったタマは目と耳を疑った。


当然、二人寄添って

チセの寝顔を眺めている状態で

物語は始まると思っていた・・・


らーめんの話とかをしたまま寝てしまったので

お腹減ってるだろうなー とか考え

今日は一緒に、初めての食事をしよう!

そんなノリでインしたのに・・・


チセは床にぐったりと倒れこみ

重そうな頭を引きずるようにしてこちらに向け

疲れ切った顔でタマを見つめたのだ。



「え・・・ 何これ・・・?

 殺すって・・・

 チセ、様・・・?」



データが、壊れた?


今度はタマがパニックを経験する番だった。



「ご、ごめん・・・チセ様

 うちも眠かったから、寝てて。」


「寝てた・・・じゃと・・・

 人間が寝ると身体が消えるなど、聞いておらぬぞ・・・

 それに、タマは寝過ぎじゃ・・・

 丸二日も眠りこけるなど・・・

 妾を殺す気・・・か・・・」


「丸・・・二日・・・?!」



タマがいない間に

二日もゲーム内で時間が経過した・・・??


計算は・・・ 合う。

タマがゲームを離れたのはおそらく約8時間・・・

だが、ゲーム内時間はリアルよりも6倍程早く

確かに、二日に相当する・・・。


しかし、これでPCの電源が落ちているにもかかわらず

ゲームが進行していたという事にもなる。


オンラインゲームでもないのに・・・?

PC内ですべてが動いているタイプのゲームじゃないの・・・?


混乱する脳内のデータを必死に処理するタマだったが

力のない目でこちらをみつめ

みるみる弱って消えてしまいそうなチセの顔を見ては

もう、それどころでは無かった。




「ご飯は?! ご飯はちゃんと食べた?」


「少し・・・タマにもらったお水が残っておる・・・。」


「まさか、お水だけで・・・二日・・・」



外に出れば何かの木の実くらい・・・


そう考えながら部屋を見渡し

ドアが目に入ったところで、ビクっと震えた。


この家のドアがオートロックで持ち主がいない状態では

出入りできない仕様になっている事を思い出したのだ・・・


周りを見渡すと、部屋は荒れていた・・・

皺くちゃになったカーペットと

その上に残った、何かが這いまわったような跡。

机に上にあったはずの花瓶は床で砕け・・・

そこに生けてあった青紫の花は

チセに抱きしめられるように握られていた・・・


まるで、縋れるようなものが

それしか、なかったように・・・


その光景がそう訴えているようで

タマの胸に深く鋭い痛みが走った・・・



「おかしいのじゃ・・・

 あんなに怖くて、寂しくて・・・

 タマが帰ってきたら八つ裂きにして

 マグマに沈めてやる事しか考えられなかったのに・・・

 タマの顔を見ただけで・・・

 嬉しくて・・・ 目が、痛いくらい、熱く・・・」


「チセ様・・・」


「タマを八つ裂きにするのはもう良い・・・

 今は・・・ギュッと・・しててくれぬか・・・

 本当に・・・もう・・・

 壊れて、しまいそうなのじゃ・・・」



消えそうに・・・ かすれた声・・・・


ズキ・・・ッ



「ごめ・・・

 ほんとに・・・ごめんッ・・・」



ギュゥゥ・・・



「意味が分からぬ事ばかりじゃ・・・

 あんなに憎く思っておったのに・・・

 もう、どうでも、よい・・・

 最後にタマが・・・傍に、いるなら・・・

 もう・・・ 何も・・・ 」


「やだぁぁッ! ダメッ!! しっかりして!

 うちが! 死なせたりせえへんから・・・

 もうちょっとだけ・・・

 お願いッッ!!!! がんばってッ! 」



カタカタカタ・・・ 空腹値・・・? HP・・・?


違う・・・


こういう事なんかじゃ・・・ 全ッ然ッ・・・



ガサゴソガサゴソッ 



「良かった・・・ッ!

 チセ様これ・・・リンゴ!

 分かる?

 今、うちが持ってる食べ物これくらいしかなくて

 あとで、いっぱい美味しい物食べさせてあげるから

 今はお願い、これをゆっくり噛んで・・・飲み込んで・・・」



バッグにあった、たった一個のリンゴ。


タマにとっては、最下級のHP回復アイテム。

なぜバックにあったのかも分からないくらい

無価値な、ゴミと認識していたもの・・・。


それが美味しいのだろうか、とか

身体に悪くはないだろうか、とか

腐ったりはしてないだろうか、とか

そんな事を考えるなんて思ってもみなかった。


そんな不安を抱えながら

ナイフを装備してそのリンゴらしきものを

はじめて小さく切るという行為を急いでし・・・

チセの命を繋ぎとめて欲しいという願いを

ありったけ必死に込めて、その小さな口の中へと押し込んだ・・・



ぅぅ・・・・


シャクッ・・・ 



「・・・・ッッ!?!!」



ガバッ!!!


ガシッ! ガブッ!! モグモグモグモグッ・・・



「あ・・・あれ・・・チセ様・・・?」


「ぅんまッッ!!!!

 なんじゃこれは・・・モシャモシャ・・・

 お水よりも・・・モゴモゴ・・・

 圧倒的に・・・美味しい ではないかッ?!」



飛び起きたチセはタマから残りのリンゴも奪い取り

無我夢中で貪り食った・・・。


たまに、むせながら・・・。



「あ・・・まぁ、そっか・・・良かった。

 お水があったから餓死とかまではいかない、のかな?

 マジで焦ったぁ・・・

 ほんとに死んじゃうんやないかって・・・」



バチコーーーンッ!!!!



「馬ッ鹿者ぉぉッ!!!

 タマはなんッッッにも分かっておらぬッ!!

 あと、数秒遅ければ死んでおったぞ!!!

 思い出したら腹が立っ・・・・

 ・・・って、こんの・・・石頭めぇぇ。

 叩いた妾の手が・・・

 妾の手がとんでもなく痛いではないかぁぁ ><。

 バカぁぁ!!!」



むぎゅぅぅぅ・・・



「ごめんね・・・ごめんね? チセ様。

 もう、一人にしないから。」



ぎゅぅぅ・・・



「うぅぅ・・・バカ・・・

 来るのが・・・

 遅いのじゃ・・・バカ・・・」


クスンッ・・・


「分かっておるのか?

 妾がどれだけ寂しかったか・・・

 どれだけ、怖くて・・・

 どれだけ・・・タマが恋しくて

 どれほど・・・タマを憎んだか・・・

 タマはこの気持ちを・・・

 ちゃんと・・・分かっておるのかぁ・・・?」


グスンッ・・・ グスッ・・・ 


ポタ・・・ ポタポタポタ・・・


「うぅっ・・・うっ・・・

 なんなのじゃ・・・これは・・・

 怒れば良いのか?

 喜べば良いのか?

 タマなんか、大ッ嫌いで、憎くて

 どれだけ八つ裂きにしても気が済まぬのに

 なのに・・・ぎゅっとして欲しい時は・・・

 いったい、どうすれば良いのじゃ・・・

 どうして・・・この水はずっと零れておるのじゃ・・・

 この身体は、いつも、壊れっぱなしではないか・・・」



ぎゅぅぅぅ・・・


ぎゅぅぅぅ・・・



「馬鹿・・・バカッ・・・タマのバカッ!」



ポカッ・・・ ボスッ・・・



「うん・・・ ごめん。」


「うるさい・・・バカッ・・・

 絶対に許さぬのじゃからな。」


「うん・・・それでも、ごめん。」


「うぅ・・・バカッ・・・

 ずるいのじゃバカタマ・・・

 もっと・・・

 ちゃんと・・・

 ぎゅっとしろ・・・ バカぁ・・・」


「うん・・・」



ぎゅぅ・・・



感情というものをおおよそ初めて体験しているチセは

次から次へと湧いてくるそれが

矛盾しながら暴れ回る事に

いいように振り回されるしかなかった。


込み上げてくるそれが

何なのかも分からないまま

それをタマにぶつけるしかなかった。


だが、その矛先のタマすら居ない最悪な時間よりは・・・。




少しだけ落ち着いたのか、疲れ切っただけか

チセはタマの胸に顔を埋め静かになり

心を必死に癒すように、タマの感触を欲しがった。



トクン・・・ トクン・・・


タマの・・・心臓・・・


トクン・・・ トクン・・・


もう・・・よい・・・か・・・


もうこれだけで・・・良い・・・


少し・・・眠ろう・・・


少し・・・消えるが


タマは・・・寂しがったり・・・ せぬかのぅ・・・




「チセ様・・・

 寝ちゃっ・・・た?」



むぎゅ・・・



「タマの・・・ バカ・・・ 」



スゥー・・・ スゥゥー・・・・



寝言・・・?


今も、うちの事、思っててくれてるんや・・・・


ありがと・・・  ごめんね・・・




   ◇ ◇ ◇




・・・ビクッ



チセが眠りについた事で意識がリアルへと移ったのか

自分のリアルの部屋が視界に入り、タマは我に返った。


グジュグジュになった鼻をティッシュでチーンとする事で

ここが、チセがいないリアルの世界だという事を実感する。



また・・・ うち、ゲームなのに・・・


こんな泣いちゃうくらい・・・



ただのAI・・・やんな・・・

夢見るなんて知らんかったけど・・・


なん、これ・・・めっちゃリアル・・・


あんなに、怒ったり、泣いたり

うちよりよっぽど人間してて・・・


綺麗な瞳で、うちの事いっぱい見つめてくれて・・・

可愛い声で、ドキッとするような話して・・・


はぁ・・・


チセ様・・・


こんな気持ちにさせて・・・ どうしてくれるんよぉ・・・



ぎゅぅ・・・・



あぁ・・・ あったかい・・・


柔らかくて、スベスベで・・・  モチモ・・・チ?



ビクッ!!!  キョロキョロ・・・



「へ・・・?」



リ、リアル・・・に、いるよね? うち・・・?


今、チセ様の身体の感触・・・



タマはリアルの自分の部屋を、再びキョロキョロ見渡したあと

モニターの中の自分のアバターと

チセというエルフっぽい少女が寄添っているのを見つめた・・・。



   ◇ ◇ ◇



少し、タマのリアルについて話そう。


このゲーム・・・というか、タマのゲーム環境は

現代と違い、近未来的なところはあるが

アニメとかであるフルダイブシステム?どころか

ゴーグルタイプのモニターをつけて臨場感を味わう

VR的なシステムも揃っていない。


カメラなどのセンサーを通してタマの情報を読み取り

タマの表情とか、ある程度の状態をアバターに反映させたり

マイクから声を拾い、チセと音声によって会話をしたりもするが

この世界ではいたってドノーマルな安いPCを使っていて

ゲーミングモデルとかでもない。


タマが唯一奮発して買った近未来的機器といえばコントローラくらいで

これだけはちょっと現代とは勝手が違って、凄い。

これが無いと、今時のゲームができないので買ったともいえるのだが

どうしても、欲しくて堪らなくなったので買ったともいえ

タマにしては思い切った大きな買い物だったりする。


それがどんな物かというと・・・

身体を動かそうとする脳からの信号をコントローラが受信して

それをアバターに伝達するというもので

従来とは違い“考える”という操作で

キャラを動かせる・・・といったものだ。


リアルの身体とアバターの身体を使い分けるのに

少々慣れが必要なのだが、それ程難しくなく大体2,3日で慣れる。

外見は首に巻く感じで、チョーカーの様な形をしている。


で、そのコントローラと併用して現代で言うところの

キーボードやマウスのような機器を使い

タマはゲームやチートアプリを操作している感じだ。


情報をゲームへと送信するものは多いが

受信する方は少なく、音と映像、イヤホンとモニターぐらいである。

送信する方はゲームをするのに必須なのでコントローラも買ったのだが

受信する方にまでお金を回す余裕がなかったのだ。


その都合で、当然、ゲーム内の味や匂いが感じられることもなければ

もちろん痛みを感じる事もない。


ちなみに受信系の周辺機器はもっともっと存在し

匂いや感触や温度を感じられるような様々な物がある。

もちろんゲーム側が対応してなければ意味がないのだが

どちらにしろ、高価な物ばかりで

貧乏ヒキニートのタマには縁がないものだった。



前置きが長くなったが、つまり・・・

そういった環境でタマはこのゲームをプレイしているので

チセの身体の感触を感じる事などある訳がない。


それなのに、一瞬、チセをリアルに感じ

その温もりや感触を感じる程、のめり込んでいた・・・という事である。



「やばぃ。

 うち・・・末期かも・・・。」



タマはリアルでそう一言こぼし、頭を数回振った。



   ◇ ◇ ◇



チセが眠っている間に、タマはリアルで朝食をとる事にした。

電源を切ると、どうなるか恐ろしくて、画面を見つめながら食事をとった。

8時間ほどゲームを離れただけでこうなったのだ

もし熟睡して半日寝ていたら・・・と思うとゾッとした。


チセの寝顔をモニター越しに眺めながら

インスタントラーメンをすすり

チセがこの味を味わったらなんて言うかなー?とか考えていた。


そこでふと、チセが言っていた事が頭を過った。


「寝てた・・・じゃと・・・

 人間が寝ると身体が消えるなど、聞いておらぬぞ・・・

 それに、タマは寝過ぎじゃ・・・

 丸二日も眠りこけるなど・・・

 妾を殺す気・・・か・・・」


この言葉で、ゲームの進行速度の事とは別に

もう一つ気になる点があった・・・


寝ている間は身体が消える・・・。


この点だった。

自分がゲームを中断した後の状態が

どうなっているのかなんて確かめようがない。


が、ゲーム内の住人であるチセが

タマの身体が消えたというのであれば

タマがゲームを落としている時

アバターも消えているという事になる。


まぁ、そうならばそう、なのであろう。

だが、タマが気にかけた事は、チセの身体の方だった。


もし、眠ったチセの身体が消えたのなら

もしかして、リアルのどこかに存在するかも・・・

リアルではないにしても、どこか別の世界に実在するんじゃ・・・


・・・とかいった中二思考が過ったのだ。


が、まぁ、そんな事がある訳もなく

チセは眠ってしまった後も

やはりモニターの中にいて

1時間も眺めていたら、眠りから覚め活動を再開した。



「ふあぁぁ・・・っふ・・・

 ・・・・・?

 はッ?! タ、タマ?!

 タマはおるか?」


「ここにいるよ。

 おはよ。」


「お、おはよう・・・じゃ。

 ずっと、ここで待っててくれたのじゃな。」


「うん、もちろん。

 よく寝れた?」


「うむ、安心して心地よく眠れたようじゃ。

 起きた時にタマがおるのなら

 寝るのも悪くないかもしれん。

 あの出来事すら、夢だったように感じる程じゃ・・・。

 温かくて、心地良かったのじゃ。」


「そっか。 良かった・・・。」


「しかし、妙じゃな?

 眠ったら消えるというのに

 ずっとタマの体温であったかい感じがしておったような?

 あれが、夢というやつじゃろうか・・・」


「あ・・・寝てる時に消えるんはうちだけみたい。

 チセ様はずっとここにいたし

 うちもずっといたから、あったかかったんちゃうかな?」


「何???

 またか・・・

 また、タマだけの例外病じゃというのか?

 おぬしだけが、寝てしまえば消えるじゃと・・・?

 もう、ハァ? だらけであきれてきたぞ?」


「ごめん・・・。」


「はぁ・・・

 その様子じゃと

 消えたくなくても

 消えてしまうといった感じなのか?」


「うん・・・

 それに、うちが8時間寝ると

 ここでは丸二日過ぎちゃうみたい。」


「ハァァ??

 今のは、今までで一番の ハァ? かもしれぬぞ・・・。

 神であった頃の妾でも、そんな器用な事はした事がない・・・。

 はぁ・・・ もうタマを理解しようとするのはやめじゃ。」


「なんか・・・ごめん。」


「むぅぅ・・・ ごめんばかりではないか。

 もっと反省してへこめば良い・・・が

 その顔は好かぬぞ。

 明るく反省しろ。

 妾に見惚れるとか、褒めたたえるとか・・・

 もっと、美味しい の顔をせよ。

 ちゃんと、妾を見ておるか?

 この姿をみればタマは 美味しい のであろう?」


「うん・・・ごめ・・・あッ・・・

 うち、チセ様の笑ってる顔見たら、いっつもオイシーけど

 でも、悲しい顔とか、辛そうな顔みたら・・・

 うちも悲しくて、辛くなっちゃうから・・・。

 うちのせいでチセ様を悲しい顔にさせちゃった時は・・・

 尚更、悲しくって。」


「悲しいも辛いも感染するのじゃな・・・難儀な事じゃ。

 妾もタマの顔が悲しいじゃと悲しいようじゃ。

 人間というものは・・・ほんとに困ったものじゃ。

 実は本当に故障しておるのではないのか?

 タマと妾だけが故障しておって

 他の人間はもっと気楽だったりせぬか?

 どうにも信じがたい機能ばかりじゃ・・・。」


「そうやったら、ええのになぁ・・・

 どこかで治してもらえるんなら、楽やのに。」


「じゃろ?

 あぁ、じゃが、嬉しいとか、美味しいは・・・

 そのままが良いな?

 仕組みとしてはどれも似ておる気もするし・・・

 困ったところだけ、都合よく治して欲しいものじゃな。」


「あー、ほんとそれ・・・。

 あ、それより、お腹まだ減ってるんちゃう?

 二日でお水とリンゴ一個じゃ足らへんやろ?

 あいにく、リンゴはあれ一個やから

 食べ物の調達せな・・・。」



きゅるるるる・・・



「うむ・・・忘れておった・・・。

 ずーーーっと空腹じゃが

 これが食べ物を食べればおさまる事を

 すっかり忘れておった。

 限界じゃ・・・故障中でないなら、すぐに対応しろ。」


「はいっ!」



さっそく食べ物を・・・と思ったタマだが

そこでしばらく考え込んでしまった。



んー、どうしよっかな?

チートでご飯を出すのは簡単、うん、イージー。

でも、それじゃ、うちが納得できへん・・・っていうか?

ちゃんとした物? を食べて欲しい・・・っていうか?


ここを作った製作者もチートはせん方がええってゆうてたし

うちもそんな気がしてきてる・・・かも?


さっきのリンゴん時なんか、ビクゥッってなったしなぁ・・・。


チセ様の命がボタン一つで助かるような・・・

そんな軽い物とか・・・

認めたないっていうか・・・


HPとかの数値いじるのと、リンゴ出すんは違うかもやけど

どっちもなんか・・・  なんか・・・やし。


いまいち自分でも、よう分からへんけど。



でも、うちは、“ちゃんと” ・・・したい! してあげたい!



うちの心がそう感じてるって事だけは分かるし

うちはそれには逆らえへん・・・って思う。


何やろ、この気持ち・・・?

てか、ちゃんとって・・・どゆこと?



チセ様的にはどうなんやろなぁ・・・。


お水飲むチセ様も・・・

リンゴをモグモグするチセ様も・・・


可愛かったなぁ・・・  あの顔また見たいなぁ・・・



ここでらーめんとか出したら

あんないい顔してくれるかなぁ・・・?


・・・って、あかんやん!


初めては大事にせなあかんのやった。


うん・・・ チセ様の初めては・・・大事に・・・ (///)ぽっ


って、あほかーっうち!


あぁぁ・・・なんこれ? どないしたらチセ様は一番幸せなんよ?!


これ・・・ 何ゲーなん??




「おい・・・

 おい、タマ・・・?

 タマあぁッ!!!」


「はッ はいはいッ! 何ぃ?!」


「食料を手に入れるといったきり、なぜ何もせぬ?

 空腹限界な妾をいぢめて楽しんでおるのか?

 もしそうなら、沈めてやろうと思うのじゃが、どうなのじゃ?」


「ちゃうちゃうっ! そんな訳ないやん?!

 どうしたら、一番チセ様が 美味しい になるかなぁって考えてもーて。」


「バカか?

 妾の準備は万端じゃ!

 もう、空腹ペコペコで堪らぬ!

 今なら、何を食べても、美味しい の顔ができる自信があるぞ?」


「だよね???

 でも、ラーメンはあかんやろ?

 最高の物を、最高の状態で・・・やん?」


「くッ・・・ またそれか・・・!

 らーめんだけはダメじゃ!

 それはもう決定事項じゃ、思い出させるでない、辛いッ!

 バカタマ!」


「ご、ごめ・・・ん。」


「リンゴ。」


「はい?」


「リンゴもダメなのか?

 この身体で初めて体験する事は、至極感動することは十分に理解した。

 ならば初めてではないリンゴならば良かろう?

 それに、あれ一つきりではリンゴを堪能しきれておらぬぞ・・・。」


「あぁ・・・そっか。

 うんっ! ナイス屁理屈!」


「へっ、屁理屈言うなッ!」



悩んでいた事を微妙な理論であっさり上手に解決してもらったタマは

チートアプリでリンゴをたんまり出した。


リンゴを探したり、買う事も考えたが・・・

チセをこれ以上待たせる事がタマにはムリだったので

中途半端な結論だが、そうした・・・実にタマらしく。


それでも、リンゴを小さく切るくらいはせめてしてあげようと

ナイフを装備したタマだったが

リンゴは小さく切られる前に

チセの小さくてかわいい口にダイナミックにかじられる事になった。



ガブリッ!



「ぅんまッ♪」



ガブッ・・・シャクッ・・・シャクシャクッ!



その嬉しそうな 美味しい の顔を見ながら

タマの心も幸せでいっぱいだった。



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