02 ようこそ地上世界へ。
ふわり・・・ふわふわ・・・ スタッ
空から女の子が降ってきた・・・しかも二人。
このパターン・・・
おかしな物語が始まる時の、お約束のアレみたいやな・・・。
そんな事を考えながらタマと名付けられた少女は
チセという名を持つ事になった元神様を抱えながら地上へと降り立った。
「ふぅ・・・到着ぅぅぅ!」
「うむ、ご苦労さまじゃ、タマっ♪
よし! さっそく、らーめんを・・・」
ヒュルルルルー・・・
「いや、いやいやいやいや・・・
それどころでは無いようじゃ・・・
な・・・なんじゃこれは・・・?!」
ガクガクブルブル・・・・
「どれ?」
「また、故障のようじゃ・・・
か、身体が・・・おかしい・・・ぞ・・・
うぅぅぅぅ・・・」
「あー・・・
ひょっとして、“寒い” とか?」
「寒い・・・?
うぅぅぅ・・・
寒いぃぃッッ!!!
ダメじゃ、耐えれぬッ!
タマ! なんとかするのじゃ!」
「えーっと 気温は・・・15度か。
裸足でワンピース1枚じゃ、ちょっと寒いんかな?
でも、15度ってそんなガクガク震えるほど、寒かったっけ?
多分、お空のお家よりあったかいんちゃうの?」
「知らぬ・・・寒いものは寒い、これが事実じゃ。
むしろなぜタマは平気なのじゃ?
やはり、お前は人間の例外で
なにか怪しげな特権が・・・
あ、いや、今はどうでも良い
妾が早速死ぬ前になんとかしろ・・・
うぅぅぅぅ・・・」
「我儘やなぁ? チセさ・・ま・・・?
チセ・・・ちゃんは・・・
ほんまはあかんねんけど、今回だけ特別やで?」
えーっと、こうやったっけ・・・?
ぽぽぽんッ!
「あ、出たでた♪ はいどーぞ。」
「き、貴様やはり神のお友達なのじゃな?
人間は物質を無から生み出す事などできぬはず・・・
あ、いや、それより早くそれを着せるが良い。
どうやって着るのじゃ?」
「世話のやける子やなぁ・・・
なのに、可愛いから困る。
はぃ・・・足あげてー・・・
よし・・・一人で立てる?
次は、お手々広げてー。
はいっ・・・ボタンとめるからチンとしててねー。」
チン・・・
くっ・・・可愛いし・・・
「ふふふっ♪
はい、できたーっ!
あったかいやろー?
ロングコートって言うんやで?
足のんは靴下とブーツな?」
「馬鹿者、それくらいの事は知っておる。
何千年、人間を観察をしてきたと思っておるのじゃ。
ただ、着るのが初めてだっただけじゃ!
まぁ、タイツとスパッツとレギンスの違いは未だに分からぬがな?」
「大丈夫w うちも分からへんからw
ふふっ・・・でも、チセさ・・・ちゃんは何着せても似合いそうっ!
かーわぃッ!」
「むふーんっ♪
良く分からぬが、もっと褒めるが良い。
褒められるのも心地良いが
タマのその顔を眺めるのは、もっと心地よいからのぉ。」
「そ、そんな顔してへんし・・・(///)
あ、でも、じゃぁ、可愛い服とか見つけたら着てもらおかなー?
それはちょっち楽しみやっ!」
「あったかいヤツ・・・じゃぞ??」
「うんっ♪」
◇ ◇ ◇
そんなこんなで、二人の少女に見える良く分からない存在たちは
ラーメンを食べる事だけを目的に行動を開始した。
とはいえ、神様の家があったのは人里離れた地域の上空で
ここは、まわり数十km程は町どころか民家すらない森だった。
「なぁタマ?
妾の記憶が正しければ
あっちへちょっと行けば、小さな村があったと思うのじゃが
この身体でそこまで行くには、どうすれば良いのじゃ?」
「どうするんやと思う?」
「すすーっと移動したいところじゃが
人間ならば・・・道具か?
車とか、あとは、飛行機とかか?
あとは・・・魔法くらいかのぉ?」
「おー、やっぱり魔法とかもあるんや。
まぁ、MPあるしなぁ・・・。
空飛んだりできる人も、うち以外におったりするん?」
「えむぴい? マカの事じゃったか?
最近は、飛ぶ者などは見かけぬが・・・前はおったな。
随分前に耳の長い種族が飛んだりしておったが
森をめちゃくちゃに荒らしたのでな
妾が沈めてやったのじゃ。」
「ガァーーーンッ?!
い、愛しのエルフちゃんたちがぁぁ・・・」
「あの者たちは、自然と仲良く暮らして
今までで一番見ていてほっこりする良い種族だったのじゃが・・・
残念じゃ。」
「あぁ、だからチセ様の想像した姿はエルフちゃんやったとか?
そのまま、いい発展してたら良かったのに・・・
うぅぅ・・・悲しいなぁ・・・。」
「うむ、あの辺りは森も美しくてな・・・
妾も念入りにお水をまいたり
強くて大きな木へ進化させてやろうと
強めの風とかを吹かせ、特別に目をかけておったのじゃ。」
「そうなんや・・・」
「それをあの耳長どもは・・・
せっかくのお水をダムとかでせき止めたり
風よけのバリケードなどを建ておって・・・」
「・・・?
で? チセ様はどうしたん?」
「そんなもの決まっておる。
妾がダムやバリケードごときに負ける訳がなかろう?
盛大に雨をガンガン降らせ
時にはハリケーンをぶつけてやったに決まっておるわ!」
「・・・。」
神様とは・・・?
「まぁ、その後もどんどんおかしな進化をはじめてしまってな・・・
やむなく沈めたという訳じゃ。
本当に人間には困ったものじゃ・・・。」
「・・・。
これからは、そんな進化はしなくなるかもしれへんなぁ・・・
また、エルフちゃん生まれてきーへんかなぁ・・・。」
「ん? タマは耳長が好きなのか?
まぁ、妾がこちら側に来たのじゃ
次は妾が現場監督してやっても良いがな!」
「もうそのお仕事はええから!
とりあえず、美味しいラーメン食べよっ! な?!」
「そうじゃった!
とにかく今はらーめんじゃ。
話が逸れたようじゃが
結局、ぬしは妾の質問に答えておらぬぞ? タマ?
そのらーめんへはどうすれば良いのかと聞いておる。
車や飛行機はどうやって乗るのじゃ?
魔法でタマや耳長のように空を飛ぶには
どうすれば良いのじゃ?」
ピコピコ♪
何かをアピールしているのか
チセは耳先を指でつまんで、ピコピコ動かしながら
期待を込めた目で、タマに聞いた。
くッ・・・ 可愛いの無料配布、助かるっ!
「ま、魔法なぁ・・・どうなんやろ?
うちは、ちょっち例外ちゃんやからなぁ。
こっちの人にも、M・・・マカあるんかなぁ?」
「何の話をしておるのじゃ?
飛ぶのにマカは関係なかろう??
マカは自然の力、星の力じゃぞ?
今はそんな大そうな話ではない、らーめんの! 話じゃ。」
「あ、はいはい・・・
魔法はおいといて
車や飛行機に乗るにはって事なら
お金をためて買うか、作っちゃうとか・・・?
あとは持ってる人に乗せてもらうとか・・・
あ、自分で動かすには操作方法も覚えなあかんで?
どっちにしても、とりあえずそこそこ発展した
街とかに行へんと無理ちゃうかなぁ?」
「ず、随分と、面倒そうじゃな・・・無理っぽくないか?
もう、飛んで妾を運ぶが良い。
その先の事は、らーめんを食べながら考えれば良かろう?」
「そうかもなんやけど・・・
まず先に、さっきの神様のメッセージを
チセ様にも伝えとかなあかんっぽいかな?」
「あぁ、それじゃ、妾も気になっておった。
エンディングとはなんなのじゃ?
この世界の神とやらは何と言っておったのじゃ?
妾とタマに名を付けさせて、どうしたいというのじゃ?」
「エンディングとはちゃうかったんやけど
どう説明したらええかなー??
ザックリ言うと・・・
チセ様・・・あれ?
チセちゃんを、人間として
この世界で好きに遊ばせてあげて・・・って事らしいんやけどな?
うちのインチキを乱用せん方が
断然、楽しいから・・・ってゆうてた。」
「んん? 要するに妾にどうしろというのじゃ?」
「チセ・・・ちゃんの好きにしろって事なんやけど
自分の力でなんでもしなさいって事みたい。」
「何? 特に人類を導けとかの指令は無いというのか・・・??
いささか拍子抜けじゃな・・・。
逆に、何をして良いか困るのじゃが・・・
遊ぶ・・・ か・・・ ふむ。
しかし、こんな欠陥だらけの不便な身体に入れておいて・・・
自分の力で・・・じゃと?
あぁ、じゃから、この服も特別・・・と言ったのじゃな?」
「そうそうっ チセ様、可愛いのに賢いっ!」
「ふふっ、当然じゃ。
・・・ん?
服も次からは自力で手に入れるのか・・・?」
「できれば・・・ そうかも?」
「服がポンとでてくる
タマみたいな機械がどこにあるのかは知らぬが
まぁ、後じゃ・・・まずらーめんじゃ!
んー、では、とりあえずは・・・なんじゃ?
妾の力であっちへ数十km移動する・・・
・・・・のか?
・・・・・・ん?
車もない、飛行機もない、お金とやらもない・・・な?
歩・・・く・・・?」
チセは人間の肉眼では視界にすら入らない
遥か遠くの目的地方面を見つめながら
頭の中でシュミレーションしてみた・・・
ゴクリ。
「いやいや、それはない。
こんな鈍重な身体で・・・
うむ・・・それだけはないっ!
今も立っておるだけでやっとなのじゃ・・・ありえぬ。
あとは・・・?
うむっ! そうじゃ!
魔法があるではないか!
おい、タマ? 妾も魔法くらいは使えるのであろう?
ほれ! このとおり耳も長いのじゃ!
きっとあの耳長の様に飛べたりするのであろう?」
ピコピコッ♪
チセは再び両耳を指でつまんで
何かをアピールしながらそう言った。
「くぅぅ・・・ピコピコ助かるっ♪
じゃ、じゃなくて!
・・・でも、うちの知識が正しんやったら
ここの人は基本、魔法なんか使えへんのちゃうかなぁ?
街の人とかを見ても、魔法使ってるの見た事ないし
エルフちゃんとかの存在って、けっこうレアなんちゃうかなぁ?
うち、エルフちゃん自体見た事ないし。 チセ様以外。」
「な・・・何??
妾の聞き違ぃ・・・
いや、タマの言い間違いじゃな?
もう一度、滑舌よくハキハキと申すが良い・・・。」
ピコピコ・・・
「多分、魔法なんてあらへん! と思うで?」
「馬鹿な・・・
確かに、最近は見かけぬ気もするが・・・
現にタマだって耳長だって飛んでおったではないか?
そうじゃ・・・全盛期には魔法っぽいもので戦争までしておったはずじゃ!
あ、まぁ、すべて沈めた気もするが・・・。
じゃが、タマ以外の魔法が全滅という事はなかろう?」
「チセ様が滅ぼしちゃったんやね・・・
でも、存在はしてたって事かぁ・・・魔法。」
「ぐぬぅ・・・
にわかに、信じがたいが、念入りに沈めたのも確か・・・じゃな。」
「念、入れちゃったんだ。」
「くっ・・・
タマにも分からぬのであれば
魔法がまだ存在していたとしても
妾が今すぐ飛ぶのは難しいという事か・・・
しかも、タマも飛ばぬというのなら・・・
まさか・・・歩けなどと・・・言わぬよな?」
「走ってもええで? 遠いし。」
「・・・。」
のっし・・・ のっし・・・ ヨロロ・・・
テク・・・ テク・・・
「お・・・がんばれー?」
テク・・・ テク・・・ トトト・・・ ヨロ・・・
「お、重ぉぉ・・・ ハァ・・・ ハァ・・・
いや、いやいやいや・・・
遅過ぎるであろう・・・
ば、馬鹿にしておるのかぁ?
しかも、みるみるだるい。
それに、こんなにも頑張ったのに
全体から見たら進んでおらぬのも同然ではないか!
そもそも、脚を広げたところでせいぜい1mかそこらじゃ・・・
この重労働を何年繰り返せば良いのじゃ・・・
・・・・ハァ??
また、ハァ? ではないか?
人間とはいったい・・・何が悲しくてこんな事をしておるのじゃ?」
「あはは・・・。
けど、チセ様が何ゆうても、この世界の理は変わらへんからなぁ。
うちは、チセ様に楽して欲しいねんけどなぁ~~。」
「ぐぬぅぅ・・・
まさか、らーめんの為に数年歩く事になるとは・・・
ん?
言葉のわりに、なぜか随分と楽しそうではないか、タマよ?
お前まだ、何か隠しておるであろう?
妾の目は節穴ではないぞ?」
「・・・?!
ちょっとびっくり。
流石、おばあちゃんやなぁ・・・鋭いなぁ。
見た目はこんな可愛いロリっ子エルフちゃんやのに。」
「おばあちゃんも、ロリっ子もやめい!
それより、ほれ!
都合の良い話があるのであろう?
分かっておるぞ? タマの顔はそういう顔じゃ!
早くそれを教えるのじゃ!」
「あー、でも、教えてもなんも変わらへんで?
歩く事に変わりないし。」
「何? 結局、歩くじゃとぉぉ?!
馬鹿も休み休み言え・・・いや、いっそ、馬鹿はずっと休め。
らーめんを食べるだけの事に
どれだけ足を無意味にテケテケと動かさせるつもりなのじゃ!
数千年神をするより
こっちの方がよっぽど過酷重労働ではないかッ!!!」
「神様って、めっちゃ簡単なお仕事やってんなぁ?
それに比べて、人間って大変やろぉ?
そうやって頑張ってる人間やエルフちゃんを・・・はぁ・・・。
でも、これからはチセ様も人間なんやから、ちょっと頑張ってみいへん?
100倍、楽にしといたげたから。」
「100倍、楽・・・???」
「うん、100倍!
あ、でも、これ、ここの神様にはナイショやで?
これはうちがこっそりチセ様を甘やかしてるだけやから。
こっそりありがたく思うんやで?」
「意味が分からぬ・・・
タマの話はいつも ハァ? じゃ!
なんだかんだと言っても、結局、歩くのであろう?!
もう良いっ!
妾が死んだら化けて出てやるからなッ!!!」
プンスカプンプン! テク、テク、テク・・・
こうして、元神様のチセは慣れない身体で
はじめて“歩く”はめになった。
で、数分後・・・。
ゼー・・・ ゼー・・・ ハァ・・・ ハァ・・・
「も、もう無理じゃ・・・
ゼー ゼー
千年かかろうと所詮は脚を動かすだけ・・・
どうという事はない・・・
などと思っていた時期が、なつかしく感じるのじゃ・・・。
身体は・・・どんどん重くなるし・・・
それに、さ、酸素・・・
深刻な酸素不足・・・じゃ。」
「大丈夫? いきなり頑張り過ぎちゃったかな?
呼吸とかもまだ慣れない感じなのかな・・・。
早く歩き過ぎると
酸素やエネルギーの供給が追いつかへんから
程良く・・・程よく頑張らなあかんねん。」
「なんという面倒くささじゃ・・・
頑張ったら頑張っただけの褒美を用意せぬか・・・
頑張り過ぎはダメじゃとか、意味が分からぬぞ・・・
これでは・・・ゼー ゼー・・・
そろそろあきらめて、死にたくなってきたぞ・・・。」
「メンタルよっわ!
フィジカルもよっわ!
これは、ちょっと、甘く見てたかも・・・うちも。
このままじゃ、ほんとに死んじゃうかもやなぁ・・・。」
「くぅぅ・・・
らーめんすら食べれず、ここで終わるのか・・・。
せめて、一口くらい・・・無念・・・。」
「それにしても、もうちょっと歩ける気がしてんけどなぁ?
出来立てゆうても、そこそこ大人の身体やん?
やっぱメンタルが、致命的に弱過ぎなんちゃう?
めっちゃ長いこと生きてきたわりに・・・。」
「だ、黙れ・・・
この身体になるまでは
何事にも動じず、海よりもでっかい器だったのじゃ。
くぬぅぅ・・最強のメンタルといっても良いくらいじゃったのに・・・
このちっこい身体に押し込められてから、訳が分からぬ・・・
そもそもなぜ妾が・・・ グチグチネチネチ。」
「んー、それはそうと・・・予定変更しよっか。
ラーメンは一先ずおいといて
今はまず、お水探そ。
どう見ても、喉、カラッカラやろ?」
「ハァ・・・ ハァ・・・
あぁ、そういう事か・・・
酸素だけではなく水分もいるのか・・・。
どうりで、口の中が気持ち悪いわけじゃ。
いろいろと身体が教えてくれるというのは
こういう事か・・・ ハァ・・・ ハァ・・・
なんじゃか、身体の世話をしに来た気分じゃな・・・
そういう事なら・・・
急いで妾の口にお水を注ぐが良い・・・
そろそろ死んでしまうぞ・・・。」
あーーーん・・・
「がんばっ・・・て?」
「あー・・・ん?
ま、まさか・・・
お水すら妾が手に入れねばならぬのか?
歩く事すらままならぬ妾じゃぞ?
それに、お水など、雨や川や・・・
この星のどこにでもあろう?
それくらいは良いではないか・・・」
「どこかに見えるー? お水?」
「・・・???」
キョロキョロ・・・・ キョトン。
「OK、分かった・・・
妾の人間としての生涯はここで終わりじゃ。
もおおおおお 無理じゃ・・・
最後にらーめん・・・
食べたかっ・・・た・・・ ガクッ。」
チャポ・・・
「甘やかされたい人ー?」
ピクッ!! シュタッ!!
「ここじゃ! 甘やかされたい妾はここじゃ!!」
「あははw チセ様けっこう元気やん?
冷たいお水やから
多分美味しい思うでー?
はい・・・どーぞ。」
ゴクゴクッ・・・ゴッ・・・
「ゲホッ・・・ゲホゲホッ!!!」
「ふふっ いちいち可愛いくてまじ助かる♪
慌てて流し込むから気管の方入ったんちゃう?
そっちは酸素入れる方やで?」
「ケホッ・・・ そんな事分かる訳・・・ケホッ!」
「いっぱいあるから。
ゆっくりな・・・」
コク・・・コク・・・ゴクッ
「ぷはぁぁ・・・ッ!!
んまい!! これであろう?
これが・・・ “美味しい” であろ???
これが・・・あの顔の正体か・・・
こんな感覚は・・・初めてじゃ・・・」
ゴクッ・・・ゴクッ・・・ゴクッ!!!
「美味しそうに飲むなぁ・・・ 見てるこっちが幸せやわぁ。
人間でも、お水くらいで、そこまでええ顔はできへん思うで?
ここの神様がゆってたけど
初めてってのは、やっぱ特別なんやなぁ・・・」
「タマは神経がお馬鹿なのか?
これが 美味しい でないのならなんなのじゃ?
全身がこう・・・滾ってくるであろう?
そんな事も分からぬなら、妾に全部よこすのじゃ!」
「あはは・・・どーぞ♪
好きなだけ飲んでええよ?
うち、カフェオレ飲むし。」
「何・・・? カフェ・・・オレ?
あの、豆を焦がしたやつと牛の乳の・・・あれか?
・・・どこじゃ? どこにあるのじゃ?」
「あー・・・えっと、こっちの話・・・?
うちカフェオレ好きやから
どうせならお水やなくて
カフェオレ欲しいなーって・・・あはは。」
「ふむ・・・味覚と嗅覚を手に入れた今となっては
カフェオレとやらの匂いと味を味わってみたいものじゃな。
タマが好む味というものにも興味があるしな。」
「じゃぁ、やる事が増えたね。
ラーメンとカフェオレ。
まずはこれを体験する為だけに、もうちょっと生きてみよっか。」
「うむ・・・ それも悪くないかもしれぬな。
お水のおかげで生き返ったことじゃ
もう少し、歩くかのぉ。
さっきより、身体が重くなったようじゃが・・・
気持ちは軽くなったようじゃ。」
「あ・・・。 ちょっち飲み過ぎちゃう?
お腹、ぽっこり出てもうてるやん??
あぁー、なのに、そこがまた可愛いとか・・・ずるぃ! 困るッ!
助かるッ!」
「タマはお水では喜ばぬのに
お水が入ったこのぽっこりは 美味しい のか?
趣味趣向まで、例外ちゃんとやらにできておるのじゃな?」
「うっ・・・」
「よし・・・ 歩くか。
歩く事にも慣れてきたようじゃし
少し・・・楽しく感じなくもない。」
「うんっ♪」
テク・・・ テク・・・
と、歩く事約1時間・・・。
テケテケ・・・ テクテク・・・
「なぁ タマ?」
「なぁにぃ? チセ様?」
「歩く事は小マシになった様に思うのじゃが
良く見える様にするにはどうすれば良いのじゃ?」
「あ・・・そろそろ夜かぁ。」
「神だった頃には
暗いという事を不便に感じた事など、なかった気がするのじゃが
この身体は、いくら聴覚や嗅覚でおおよその事が分かるとはいえ
視覚が奪われると少々不便ではないか?」
「そりゃそうか、夜は歩かないよねー。
流石に昼にする訳にもいかへんしー
今日はこの辺でキャンプ・・・とか?
あ、眠たくなったりとか、するんかな、やっぱし?」
「“眠い”・・・か、おそらくまだ体験しておらぬな?
どんな感じなのじゃ?」
「んー・・・なんか目が勝手に閉じてきて
ウトウトー・・・コテンッ・・・・って。
寝ちゃうと夢とか見たりするんやけど・・・。」
「ふむ・・・ウトウトーのコテンは
まだのようじゃが・・・
で、視界を確保するにはどうするのじゃ?
タマはよく妾の質問を無視するやつじゃのぉ?
わざとではなさそうじゃが、気をつけろ?」
「あ、ごめん。
でも、それは無理かなー。」
「うむ・・・分かっておる。
妾も期待はしておらぬが
もう少し気を付けて返答するように
心構えだけでも・・・と言ってみただけじゃ。」
「うっ・・・ そ、そっちやなくて・・・・
視界の話やってば。
それ、暗いとこでも目が見えるようになるって意味やろ?」
「ん? あぁ・・・そっちか。
うむ、そうじゃ。」
「ずーーーっと暗闇で生活したら
ちょっとずつ見えるようになるかもやけど・・・。
それより、明かりをつけたりして
周りを実際に明るくするんが簡単で普通やで?
ランタンとかロウソクとか懐中電灯とかで。」
「なるほど、身体ではなく、やはり道具を使うのか・・・
いちいち面倒じゃのぉ。
知れば知る程、いちいち面倒な事ばかりという事か。
やれやれじゃ・・・
まぁ、お水を飲んで“美味しい”と感じたあの感動は
永い神の生活ではなかった感動じゃったし・・・
悪い事ばかりでもないのかもしれぬがのぉ。」
「そっか・・・。
あ・・・思い出した。
お水が美味しいのって、喉が渇いた時だって・・・気付いた?
いつ飲んでも美味しい訳ちゃうって・・・。」
「そうなのか?」
「さっきいっぱい飲んだ時
多分、もういいやーってなったやろ?」
「そう言われれると、そうじゃな?」
「ここの人たちも、身体が欲しがってるものが
美味しく感じるように、ちゃんとできてるんやってー。
要は、沢山歩いたからお水が美味しくなったって事かな?」
「なるほど・・・。」
「ここの神様にいろいろ教えられてん。
ここではそんな事、全然気にしてなかってんけど
それ聞いて、なるほどなーって。」
「ふむ、その話は分かるのじゃが
ここでは、とかはなんじゃ?
タマの話はいつもじゃが、いまいちよく分からぬぞ?」
「あー、うん。 分かんないよね。
うちは例外ちゃんやから・・・
実は・・・なんてゆうたらええかな?
目と、耳・・・だけかな? 感覚があるんは。
味も匂いも感触も、うち、故障してるっていうか・・・。」
「何・・・??
そんな状態で、大丈夫なのかぁ?
ただでさえ、人間は感知能力が低いのに
目と耳だけじゃと?
ああ、だから寒くもないのか?」
「あはは・・・ そうそう。
当たり前ってゆうか、慣れちゃったってゆうか?
あ、でも、いろいろ例外ちゃん機能があるから大丈夫!
それより、チセ様の事考えよ?
今、大変なんは、うちちゃうしさ。」
「妾が大変過ぎてテンテコマイなのは確かじゃが。
・・・
・・・まぁ、良い、で、なんじゃ?
水がいつも 美味しい ではないという話じゃったか?
神はそれで何を言いたかったのじゃ?」
「えっと・・・
さぁ? それだけちゃう?
きっとおいしいお水を飲め・・・っていうか?
飲ませてあげてって事・・・かな?
あと、初めては特に美味しいとか・・・
あとはなんやったっけな?」
「なんじゃそれは・・・
結局、やはり良く分からぬではないか。
タマの話はそこまでじゃ。
妾は今、お水ではなく、明かりの事が知りたいのじゃ
いっこうに話が進んでおらぬ事にそろそろ気付け。」
「あ・・・ なんかごめん。」
「で? 今日の甘やかしポイントはまだあるのか?
明かりを出してくれるとか
キャンプの支度をしてくれたりはせぬのか?
妾はこれ以上まだがんばらねばならぬのなら
そろそろ諦めて死んでしまった方がマシじゃぞ?」
「弱っ・・・
でも、そーやなー、うちもそろそろしんどいし。
今日は特別の特別で、ここにお家を用意してお休みする事にしよっかぁ。
この先、いくらでも、時間あるし
今日はこれくらいで・・・。」
「ふむ・・・?
今更もう驚かぬが、タマはお家まで出せるのじゃな?
もういっそらーめんも出して
終わりにしても良いのではないかぁ?」
「あはは・・・ うちもそう思うねんけどな?
でも、インチキしても
チセ様は喜ばへんって、神様ゆってて・・・
あ、そっか お水と一緒で・・・美味しいラーメン?
ただのラーメンやなくて、美味しいラーメンを食べるには
いっぱい歩くとか・・・そういうんがいるって事・・・?
で、うちの役目は、美味しいラーメンを食べさせてあげる事で・・・
んーっと・・・ボソボソゴニョゴニョ・・・」
「結局、その話がしたいのじゃな・・・タマは。
もうちょっとまとまってから話して欲しいところじゃが・・・
ふむ・・・タマの言いたい事はなんとなく分かるぞ?
参加もせずにトロフィーを貰っても意味がないという事であろう?
運動会のかけっことかのな。」
「へ? 全然ちゃうで? 今は、ラーメンの話してるんやで?」
・・・・・・イラッ
「じゃから!
かけっこに勝ってもらうトロフィーと
運動会に参加もしないでもらうトロフィーとかでは
同じものでもまったく違って感じるのではないのかという話じゃ!
らーめんもトロフィーも一緒であろう!
バカタマがぁ!」
「ラーメンとトロフィー関係ないやん・・・
えっと・・・ラーメン争奪戦とかがあって
それに勝って食べるラーメンは、めっちゃ美味しいって話ぃ?」
「・・・う、うむ。
もう、それで良い・・・それで良いが
妾はもうちょっと高度な事を言っておるという事だけは覚えておけ。」
「わ、分かった・・・。
うちもここでポンとラーメン出して食べちゃうんは
なんか、ちゃうなーって感じるんやけど
チセ様もそう思ってくれたって事?
・・・やんな?」
「・・・うっ」
「あと、ここの神様な?
初めて体験する事は最高に感動するから
初めてを大事にするんやで
初めては1回きりやから・・・
チセ様の色んな初めてを大事にしたってな・・・ってゆってて。
せやから、あんなに食べたそうにしてた
最初のラーメンはやっぱ “美味しい”にしてあげたいなぁ・・・って。」
「ぐぬぅぅぅ・・・
小癪なまねを・・・
そこまで言われてしまっては
初めてのらーめんは最高の物を、最高の状態で食べねば
気が済まぬではないか!」
「そうやんなっ?!
ここの神様、中々奥深い事ゆうてたんやなぁ・・・。
でも、これからどないしたらええんか
うちも、よう分からへん様になってきたなぁ?
チセ様をめっちゃクタクタの、ペッコペコにしたらええの?」
「げ、解せぬ・・・。
あぁ・・・そういえば、タマは何を言われたのじゃ?
妾には好き遊べと言ったらしいが
タマは妾に 美味しい を食べさせろと言われたのか?」
「うん、まぁ、そんな感じ・・・。
チセ様と、一緒に・・・
その・・・幸せになれって。
それがエンディングやからって。」
「妾と一緒に、幸せに・・・?
ふふっ・・・
人間の結婚式で聞くセリフみたいじゃのぉ?」
パチクリ・・・・
「けっ?! 結婚んん?!
チッ、チセ様?!
う、うちらはその、女の子同士やし?!
その、住むとこもちゃうし、あの・・・
あ、でも違うんよ?
チセ様、超綺麗で可愛いし・・・
ちょっとええ感じっていうか・・・
イヤやとかやな・・・く・・・
って・・・あ、あれッ?!
あ、あの、ちゃうねんで?!」
「ぷっ・・・あははははっ♪
なんじゃそれは?
今までで一番の、実に良い顔を見せたのぉ? タマ?
その顔は、妾の大好物じゃっ!
その顔を毎日妾に見せるなら
別にタマと結婚してやっても構わぬぞ?
ぷふっ・・・んふふふふっw」
(////) ボンッ!
「あ、あほぉぉッ!
それ、吹き出しながら言うようなセリフやないし
全然、まったく、誤解やからぁ><。」
すっかり暗くなった森の中
二人のまわりだけはそんな暗さを跳ねのけたようで
二人の顔は、やっぱり 美味しい の顔だった。