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01 この世界の神様は今日から・・・。


(わらわ)はこの世界の神じゃ。


この星を正しく導き

この星が終わるその時までを、見届ける者。


そのはずじゃった。


それなのに、事もあろうか

たった一人の人間に

たった今、討伐とやらをされた・・・



あらすじとやらを読んだものには二度目となるかもしれぬが

何度叫んでも叫び足りぬ・・・

妾の都合で何度でも愚痴らせてもらうが、何かあるか?



・・・・・・。



意味が分からぬ・・・



ハァ?! ・・・じゃ。


ほんと ハァ?? じゃ。


妾は、神・・・じゃぞ?



この星の悩みの種ともいえる人間を

監視する側の存在じゃ。


今まで人間は、本当に色んな事をしでかしてきた。


科学とやらを熱心に研究していたと思えば

何を思ったか、あわや妾のこの星を壊しそうになった事もある。

まぁ、その時は大陸ごと沈めてやったのじゃが

他にも、魔術戦争とやらを始めた時も酷かった。

魔法やら呪いやらのかけ合いに夢中になったようで

ほとんどの人間が醜い姿、醜い心に変わり果て

大陸は狂った獣に成り果てた新たな人間で埋め尽くされよった。

まぁ、その時は、マグマに沈めてやる事にした。


とにかく、妾がいなければ

とんでもない事になっておったのじゃ。


分かるな??


じゃが、まぁ、そんな人間といえども

意外と可愛いところがないわけでもない。


近頃やっと・・・

やっとまともになってきておったのじゃ・・・。


相変わらずこの星を汚したりもするが

妾が少々掃除をしてやれば済む程度になったのじゃ。


どうしても殺し合いをしたがる様ではあるが

滅亡へと向かう程ではなくなったように見える。


じゃから、ここ数百年は

たまに掃除をするだけで

彼らの営みを静かに眺めておるだけじゃった。


妾にとっての人間というものは

そんな存在・・・


だったはずじゃ。



じゃが・・・

今さっきやって来た人間・・・あれはなんじゃ?


いきなり襲い掛かってきたかと思えば、あんな・・・


イラッ・・・


そもそも、どうやって妾を見つけ

どうやってやって妾のお家にまでやって来たのじゃ?

それに、ちょっと鋭く研いだ金属の棒きれごときで

妾に挑んでくるなど・・・正気か?


とはいえ、まぁ、妾は神じゃ。

そんなものが通じる理などない。

そもそも、物質が当たるような身体ですらないのじゃからのぉ。


で、器のでっかい妾は

しばらくそやつを眺めておったのじゃが

まったく諦める気配もなく

ネチネチネチネチと無駄な攻撃を延々と繰り返すではないか・・・

で、飽きてきたのもあって、仕方なく

特別に声をかけてやったのじゃ


「何をしに来たのじゃ?

 望みはなんじゃ?」


・・・とな?


そして、その人間は口を開いた。


「んー・・・

 裏ボスみたいやし?

 一応、真のエンディング見とかんと

 落ち着かへんやん?」



うらぼす? ・・・えんでぃんぐ?


・・・・・・ハァ?



おおよそ予想していたものとはかけ離れた

意味不明のその言葉を解読する間もなく

次の瞬間、不滅と信じていた妾の身体は消滅した・・・




要は、身体を失った神様は

パニックというものを絶賛初体験中なのである。



「ハァ・・・?

 ほんと、ハァァァ???? じゃ!

 なんなのじゃッ?!

 なんなのじゃこれはッ!?!?

 妾は消えるのか? 無くなる・・・のか?


 あ、いや・・・ そんな事より


 この星はどうなる?

 この星は、妾がいなくなっては、また・・・


 せっかく少しまともな営みをし始めたのじゃ

 きっともっと豊かに、もっと笑顔を浮かべて・・・


 ここでまた、おかしな人間が勢力を伸ばしでもしたら

 この星は・・・ また・・・ 」




「えっと・・・神ちゃん?

 うち、今エンディング見てるから、ちょっち静かにしててー?」



 ・・・ハァ?



絶賛初パニック中の神様は、周りが見えていなかった。

が、その声に我に返ると、例の人間は、まだそこにいた。



「きッ・・・貴様ッ!!!! なんて事を―― 」


プツッ・・・ ジジッ・・・


「 ――しでかしてくれたのじゃッ!!」


「あ・・・お待たせっ!

 いやぁ、予想外の展開やったわ・・・」


「何を言っておるのじゃ!

 妾は、どうしてくれるのじゃと聞いておる!

 神がおらぬ世界など、すぐに滅びてしまうぞッ!

 貴様ら人間を野放しにしようものなら

 いつも・・・いつも千年ともたずに

 人類どころか、この星の全てを壊してしまうではないかッ!」


「んー、そうかもやなぁ?」


「なッ?! ・・・わ、分かっておって、しておるのかッ?!」


「んー、どうやろ?」


「どっちじゃ!

 とにかくこのままではこの星は・・・」


「んー、神ちゃんは、まだこの星の事が心配なんや?」


「当ッたり前じゃッ!

 妾という存在はその為に在るのじゃ!

 それを失ったら、妾はもう妾ですら・・・」


「そりゃそっか・・・神ちゃんやもんな。

 でも、この星なら大丈夫やで?

 壊れても滅びても・・・

 何回でも、ちゃんと再生するらしいし。」



ハァ?


またじゃ・・・

また、ハァ? じゃ。


この人間はさっきから、一体何を言っておるのじゃ?

妄想癖でも患っておるのか?

大体、妾はなぜ、こんな人間一人ごときに

いいようにパニックを経験させられておるのじゃ?



「てことで、神ちゃんの存在理由がなくなったところで・・・どないする?

 もう、消滅って事でええ?」


「じゃから、ハァ? じゃ!

 そんな訳にいくか!

 大体、貴様は何なのじゃッ!!

 人間の分際で・・・神である妾を・・・」


「少し・・・落ち着こっか。

 もう、この星の事を一人で背負いこまへんでええから。

 さっきな、この世界を作った・・・

 えっと、神様? からそんなメッセージもろーてん。」


「ハァ?

 この世界を作った神様じゃと?

 いったい何を言っておるのじゃ!

 神とは、妾の事ではないのか?!

 そもそも貴様は何なのじゃ!」


「まぁまぁ、うちの事はおいといて

 まずは、神ちゃんの進路について話そ?」


「・・・ハァ?

 ・・・進路?」



キョトン・・・ パチクリ・・・


続きが・・・あるというのか・・・?



「せやで?

 仮に・・・仮にやで?

 神ちゃんがこの星の神様やったとして

 うちは、この宇宙の神様やったとしたら

 うちに何して欲しい?」



 ニコっ♪



「ば、馬鹿を申せ・・・ そんな訳が・・・」


「仮にってゆうたやん?

 それに、もう死んでもーたんやし

 神様のお仕事は、ここでおしまいにしてー

 神ちゃんは、これから何したい?」


「神を・・・仕舞いに・・・?」


「そそっ♪ もうそんな命令文(プログラム)に従わんでええんよってなったら・・・

 んー、なんてゆうたらええかな?

 例えば、すんごい優秀な後任の神様が来て

 この星の事は、なぁーーんも心配せえへんでええってなったら

 神ちゃんは・・・

 神ちゃんの心は、何をしたがってるん?」



「そんなもの・・・この星を正しく導び―― 」


チッ  ジジジッ・・・


「――い・・・て・・・??? ん?」



「神ちゃんの心は何がしたいって、叫んでるん?」


「妾の心が・・・叫ぶ??

 妾の心は・・・」


「心は??」


「・・・

 激辛四川・・・らー・・・ めん?」


「ぷっ・・・w

 食べてみたいん?」


「わッ、笑うでないっ!

 何かおかしいぞ?!

 今までこんな気分になった事など

 ただの一度とて無かったのじゃ・・・

 いや、それだけではない

 さっきからおかしな事ばかりじゃ

 なぜ、こんなに声を荒げて何かを吐き出したくなるのじゃ!

 なぜ、こんなに落ち着かぬのじゃ!

 なぜ・・・らーめんが無性に食べてみたくなるのじゃ!

 そもそも、食べるとは・・・どういう事じゃ?!

 お前、いったい妾に何をしたのじゃ!

 妾は・・・妾はこのまま、どうなってしまうのじゃ・・・」


「んー、それ、実はうちやなくて、ここの神様の仕業でな?

 うちも、よう分かってへんのよ・・・でもまぁ、大丈夫っ。

 それより今は、もっとしたい事をイメージしよ!

 ラーメン食べたいんやったら

 前の神ちゃんの身体じゃ食べられへんやろ?

 せやから、人間になるってゆうんがおススメらしいで?

 まぁ、わんわんちゃんになっても

 ラーメンくらいは食べれるかもやけどな?w」


「に、人間に・・・?

 こ、この妾が、か?」


「わんわんちゃんのがええ?」


「い、犬ではダメじゃ!

 犬では妾の食べたいラーメンに届かぬ。」


「そうなんや・・・?」


「この星にはたくさんラーメンの店ができたが

 それぞれに違う“味”というものがあるのであろう?

 人間は本当に 美味しい味 に出会った時

 実に幸せそうな顔をする・・・

 どの時代の、どの文明でもじゃ。

 しかも、個体毎に美味しい味という基準が違うというではないか

 妾はそれがどういう事なのかを知りたい・・・

 妾はあれが・・・

 あの、幸せそうな笑顔が・・・・・・

 そう! 羨ましいっ!

 うむ、それなのじゃ!」


「あはっ

 美味しいご飯食べるんはうちも好きやなぁ・・・分かる!

 ほんならいっそ、コックさんとかになって

 神ちゃんにしか作れへん

 神ちゃんが一番喜ぶ、究極ラーメンを作ってみるんもええんちゃう?」


「ラーメンを、作る?!

 妾が・・・か?」


「大陸を沈めるより、おもろい思うで?

 大陸を沈めるより、ムズいかもしれへんけど・・・。」


「馬鹿を申せ・・・。

 ラーメンなど大陸を沈める事にくらべれ―― 」


チッ・・・ ジジッ・・・


「――ば・・・ ん? なんじゃ?」


「あッ・・・ やばっ・・・

 神ちゃん、らーめんは後や

 今はまず、なりたい姿を想像しよ!

 もう、身体が・・・

 足が形成されはじめちゃってる!」


「ハァ? 足? 何を言っ・・・ て?!?!」


「神ちゃん、もう・・・人になりはじめてるから

 せっかくなら一番なりたい理想の姿を思い描いて!

 映画に出てくる超美人女優さんとか!

 誰にでもモテモテなイケメン君とか・・・

 あ、でもやっぱり、うちとしては・・・」


「お?! おぉぉぉぉ・・・?!

 おい、お前! 見てみよ!

 妾に脚が・・・

 しかも、物質で出来ておるようじゃぞ?!

 これが・・・ これが人間の身体か・・・」



ゴクリ・・・ きれぇ・・・



「はッ・・・神ちゃん! 凄く順調! ええ感じぃ!

 その調子で、究極の美しさを手に入れちゃお!

 神ちゃんが想像したとおりに生まれ変わるみたいやから

 えっと・・・がんばって妄想してっ!! ガチで! 」


「ガ、ガチ・・・??

 あ、いや、じゃが、それどころではないのじゃ・・・

 身体が出来てくる程、神だった時とは違う何かが

 妾の中から込み上げてくるのじゃ。

 どんな姿かなどに、構っておれぬ・・・

 早く全身を手に入れて、まずはらーめんを食したい気分じゃ!」


「この非常時に、どんだけラーメン食べたいんよ?!

 ・・・って ・・・きゃッ!!」



チラ・・・チラ・・・ (////)



「よ、良かった、女の子や。

 うち、男子はどうも苦手やからな

 でも、こ、これは・・・」


「ばッ・・・馬鹿者ぉぉッ!

 どど、どこを見ておるのじゃぁッ!!」



キラキラと光りだした神様は

足から徐々に新たな姿を現し

その新しい身体は、光が集まって作られていくようで

キラキラと、おへその上あたりまで

美しい曲線が出来上がっていた。


その姿を、見つめる側の人間は

顔を赤らめながらぼーっと見惚れ・・・

見られる側の神様は

身体を隠す手すらまだないからか

背を向けてモジモジする事しか出来ずにいた。



「お、お尻もかわゆすなぁ・・・

 てか、神ちゃんでも裸はやっぱし恥ずかしいんや?」


「ししし、知らぬっ! 妾にも分からぬっ!

 とッ、とにかく見るでないッ!

 馬鹿者ッ、おーしーりぃーもーじゃッ! ><。

 なんなのじゃこれはッ?!

 神であった時は、こんな悲惨な感覚を味わう事などなかったぞっ!

 それにさっきから、訳の分からぬマカが妾の中に流れ込んできて

 妾はもう・・・何がなんだか・・・」


「マカ・・・?

 あ、MP・・・?

 この世界では不思議なエネルギーの事を

 マカって呼ぶんやったっけ?」


「マカはマカじゃ!

 それよりも、なんとかするのじゃッ!

 妾を人間にするつもりらしいが、失敗しておるっ!

 お尻を見られるだけでこんなにも頭が混乱するなど

 明らかに大大大失敗じゃ!

 お前は神のお友達か何かなのであろう?!

 早く神とやらになんとかさせるのじゃ!

 妾はこんな、狂った何かなどに、なりたくないッ!」


「無理。

 ここの神様とは、うち、会った事もないねん。

 でも、順調や思うで?

 よぉ思い出してみぃ?

 神ちゃんがずっと見てきた人間の女の子はみーんな

 お尻やおっぱい隠してたやろ?

 その理由が、今、神ちゃんが感じてるソレやん。」


「なッ?! 馬鹿な・・・これが標準機能じゃと?」


「そうやで? 人間の女の子の事思い出してみぃ?」


「はっ・・・では・・・

 スカートをめくられたメスが真っ赤になるのも

 めくったオスをどつき回すのも・・・

 妾のこの気持ちと同じで・・・

 人間として、正常・・・じゃと言うのか?」


「そそっ! それ! もう、その気持ち分かるやろ?」


「なるほ・・・いや、いやいやいやいや!

 辻褄はあうかもしれぬが・・・信じられぬ・・・

 こんな機能に、なんの意味があるというのじゃ!?」


「そんなしょーもないスカートめくり1つで

 喧嘩したり、恥ずかしがったり・・・

 時には戦争したり、恋に落ちちゃったり

 そんな訳わかんない不思議生物・・・

 それが、今から神ちゃんが始める新しいお仕事

 人間・・・やで。」


「か、考えられぬ・・・

 ただお尻を見られるだけでいちいち正気を失っていては

 何をするにもパニックに・・・

 しかも、これが標準機能じゃとぉ?!

 ・・・んッ?!

 いや待てっ! それは危険じゃ!

 こんな身体を持ってしまっては、今度は妾が・・・

 妾が、この星を壊してしまうような事をしてしまうかもしれぬ!

 そんな事は・・・ それだけはッ!」


「ゆうたやろ?

 どれだけ壊したって、この星はちゃんと再生するって。

 安心していっぱい壊して、好きなだけラーメンも食べたらええんやって。

 神ちゃんはただ、心のままに遊ぶだけでええんよ。」


「そう・・・なのか・・・?

 お前・・・いったい何者なのじゃ・・・

 いや、問題はそこではないか

 妾はもう、神ではなくなる、という事なのじゃな・・・」


「うん、今まで、いっぱい、いーっぱい、ご苦労さま・・・・ってさ。

 これから・・・ わっ?!」


「ん? 今度はなんじゃ?

 妾に何か・・・ ひゃぁあッ?!」


「あ、あの・・・ こ、これ・・・ 着て。」



バサッ・・・・



「お前、今これをどこから?!

 あ、いや・・・ 助かった・・・のじゃ。」



モゾモゾ・・・ ゴソゴソ・・・



身体の形成が進み、胸部から更に手、顔が作られ

その出来立てほやほやの真っ裸に赤面した人間は

どこからともなくとり出したシンプルなワンピースを神様に差し出した。


一方神様は、理由はなぜか分からないが

裸体を晒すことがとんでもなく恥ずかしいと感じてしまう事に戸惑いながら

慌ててその身を隠すため、その服を頭からかぶり

生まれてはじめて服というものを着た。



「も、もう良いぞ・・・。」


「う、うん・・・ ちゃんと着れた?」



チラっ・・・・


「ゎぁぁぁ・・・ エル・・・フ?」



全身が出来上がった新しい神様の姿を

改めて見たその人間は、その一言をこぼした後

言葉も忘れ、その姿に釘付けになってしまったようだった。



美味しい物を食べ

幸せに浸っているような表情(かお)・・・じゃな。



その人間の表情は、神様にはそう見えたらしく

少し小恥ずかしいそうでもあったが、嬉しそうだった。



「おい?

 お前は、妾のこの新しい姿を見るだけで・・・

 その・・・ “美味しい” なのか?」


「へ・・・!?

 あッ ごめ、えっと。

 びっくりするくらい綺麗で、見惚れてて・・・」


「そ、そうか・・・。」


「そんな綺麗なん見ちゃったら、うん、オイシーかも・・・。」


「ふふっ・・・そうかっ。

 お前のその良い表情も、美味しい であったぞ?

 その顔をもっと見せるのであれば、好きに見ても構わぬ。

 あッ・・・お尻や胸はダメじゃぞ?!

 そこは、なぜか妾が故障する仕組みになっておるからな・・・。」


「あははっ

 うちもほんとの身体でおっぱい見られたら

 めっちゃ恥ずいから、一緒やで?

 それ、故障ちゃうから。」


ほんとの身体・・・?


「でも、良かったっ!

 神ちゃんの新しい身体、とっても綺麗で、可愛くってさ。

 いわゆるエルフちゃんやんな?

 初めて見たなぁ・・・

 耳が長くて・・・瞳も神秘的で・・・

 めっちゃ、可愛いんやけどっ♪」


「うむ?

 耳・・・は知らぬが・・・

 この胸の膨らみを見るに

 若いメスになったようじゃな?

 どうやら妾の目では顔が見えぬようじゃが、まぁ、どうでも良い。

 それより、どうも心がウズウズして落ち着かぬのじゃが・・・

 とりあえず、ちゃんと鼻も目も耳も動いておるようじゃ。」



神様は目を左右へめいっぱいに動かしながら

見えない耳を手で触りながら

はじめて感じる五感からの情報に戸惑っていた。



「エ ル フ かぁ ・・・ ずるいッ!

 流石こっちの世界・・・

 ちょっとロリ入ってる気もするけど、それもまたっ!

 綺麗かつ可愛いとか・・・

 うん、これはあかん、反則なヤツや・・・。」


「何をブツブツ言っておるのじゃ・・・。

 しかし、身体があるだけで

 まるで世界が別のものになったようじゃ・・・。

 空気に重さを感じ、この星の香りも囁きも心地よい。

 これなら、きっとらーめんもちゃんと感じる事ができるはずじゃ。」


「結局ラーメンなんや・・・

 でも、良かった!

 うんうん・・・やっぱりとっても綺麗で可愛いぃぃ♪」


「そんなに何度も言う程、気に入ったのかぁ?

 良く分からぬな・・・

 人間など、どれも似た様な姿で区別がつかぬではないか。

 まぁ、触ってみると、確かにスベスベのモチモチで

 心地良くて楽しくはあるな・・・?

 ふふっ、これはちょっと良いものじゃな?」


「スベスベの? モチモチ? ・・・くぅぅぅ!

 あ、でも・・・五感も働きだして

 もうすっかり人間になっちゃったって事は・・・

 そろそろ、ここは危険かな?」


「ん? 何がじゃ?

 ここは妾の自慢のお家なのじゃ、危険な物な・・・どっ?!

 なッ? ・・・何ッ?!

 お・・・おいッ?! お前!

 お、落ちッ!!」



ばふっ・・・・



「おっと・・・大丈夫?

 よいっ・・・しょっと。

 生まれ変わって早々死にたなかったら

 ちょっち我慢しててな?」


「う、うむ・・・

 驚いたのじゃ・・・

 ビクッって・・・なったぞ?

 ビクゥッって・・・

 まさか妾の身体にまで重さがあるとはな・・・

 まだ、ドキドキがおさまらぬ・・・

 もしかして、妾は、宙すら飛べぬのか?」


「空を飛ぶ人間なんて見た事あるぅ?」


「今、見ておるな・・・」



神様は自分をとっさにお姫様だっこしたまま

空中に浮く人間の顔を見ながら

少し恥ずかしそうにその腕の中に納まっていた。


と同時に、引力に引かれて落下してしまう身体と

遥か下に見える大地に恐怖して

身体が勝手に震え出していた。



「うちは、その、人間の例外ちゃんってやつ?

 それより、平気?

 ちょっと下は見ない方がええかも。

 ずっと見てきて知ってるとは思うけど

 その身体、すぐに死んじゃうからな?

 高い所から落ちてもあかんし。

 火に入ってもあかん。

 水の中では呼吸できへんから気を付けるんやで?

 ちゃんと呼吸・・・できてる?

 あと、危険な事は身体が教えてくれたりするから

 身体の声をよく聞くようにってここの神様が・・・」



カタカタカタカタ・・・



「いきなり、そんな事を言われても無理じゃ・・・

 お、お前は・・・妾を下に下ろしたら行ってしまうのか?

 頼む、妾を一人にするでない!

 なんなのじゃ・・・人間とは・・・

 こんなに脆弱な身体で・・・

 その上、心までこんなに脆くなってしまっては・・・

 こんな、些細な事で身体が震える程怖いなど・・・

 1分の時を過ごす事すら

 永遠の様に長いではないか・・・」


「そんな、感じなんや・・・

 でも、大丈夫。

 ちゃんと、うちが神ちゃんの傍にいるから・・・

 神ちゃんをその身体にしてもうたんは、うちやからな・・・」


「そうじゃ・・・そもそもなぜ妾を殺したのじゃ。

 妾が、うらぼすじゃったからか?

 エンディングとはなんなのじゃ?

 なぜ、妾はこれから人間をするのじゃ。」


「神ちゃんを殺したんは・・・ごめん。

 理由なんてないねん。

 ちゃんとした理由でもあったら、まだ良かってんけど・・・

 この世界に来て、もう、大してする事も無くなってもたから。」


「ははっ そうか・・・。

 妾は神か何かに、暇つぶしに殺されて

 人間をはじめるのじゃな。」


「うん、ごめん。 それで間違ってへん。

 でも、うちと神ちゃんのエンディングはまだやねん。

 それを、うちと神ちゃん二人で作りあげろって・・・

 ここを作った神様から、そう言われてん。」


「ここを作った神様・・・か。

 身体をもったからか、飛べなくなったからか

 もう、随分と遠い存在に感じる言葉じゃ。

 手の届かない、妾とは関係のない

 そんな存在のようにしか、もう感じぬ。」


「これからは、それでええんやと思う。

 それが人間って事やないかな。」


「お前は・・・

 あ・・・

 お前、名は・・・ないのか?」


「あ・・・そうやった、丁度いいや。

 神ちゃんには名前あらへんって・・・ほんまなん?」


「妾か?

 妾の存在を知り、妾を呼ぶものは現れなかったからのぉ・・・

 妾は神・・・それだけじゃな?」


「そっか・・・ずーっと一人やってんな・・・。

 じゃぁ、ここの神様に言われた通り

 神ちゃんに人間としての名前をつけるね?」


「妾に・・・名を?」


「うん・・・

 ここの神様がこの名前をつけて

 そう呼んであげて欲しいって・・・。」


「神が・・・

 分かった・・・。」


「じゃぁ、今日この瞬間から神ちゃんは・・・


 “ チセ ”


 この名前を受取って・・・。」


「妾は・・・ チセ・・・」



トクンッ・・・・ トクンッ・・・



「不思議じゃ・・・

 また故障したみたいに

 何か、心が騒がしいのじゃが

 妾にはこの感覚が何なのか良く分からぬ。

 体温が少し上がったような感じがして・・・

 さっきまでの恐怖が、大人しくなっていくようじゃ。

 この名、確かに受け取った・・・」


「気に入ってくれたら、嬉しいな。

 それで、うちの名前なんやけどな?

 うちは神ちゃ・・・あ・・・

 チ、チセちゃんに名前を貰えって・・・言われててな?

 チセちゃんも、うちに名前つけてくれへんかな?」


「そうなのか?

 お前も今まで名がなかったのか?」


「んー、そんなとこかな?

 ああああ(仮)とか名前ちゃうしなぁ・・・。

 まぁ、とにかくチセちゃんに

 ちゃんとした名前を貰わなあかんねんって。」


「ふむ、良く分からぬが・・・

 妾は名など付けた事ないぞ?」


「ボッチやったみたいやし

 そうやろなぁ・・・。」


「ぼっち・・・?

 しかし、名付けか・・・何かワクワクするのぉ?

 任せておけ!

 そうじゃな・・・

 んー、何が良いか・・・

 らーめん・・・ めんま・・・ 唐辛子も良いな・・・」


「待って?! 人の・・・うちの名前やからなぁ?!」


「知らぬ! 妾は真剣じゃ。

 ちゃんとこの世の素晴らしい物を選んでおるではないか。

 そもそも、人間用とかそうでないとか、ピンと来ぬのじゃ。

 仕方なかろう?」


「そうなのかもやけど・・・

 じゃぁ、せめて

 うちをその名前で呼んだ時、しっくりくるん考えてよ・・・。

 ラーメンとか、変やろ?」


「そうか、その名でお前を呼ぶ事になるという事か・・・

 ふむ・・・」


じぃぃぃぃ・・・・ あっ。


「ふふっ・・・

 喜べ、とっておきを思い出した。

 遠い昔の事じゃが・・・

 とても愛し合っておった者が

 愛しそうにその名で相手の事を呼んでおった。

 その名を呼ぶ人間の幸せそうな顔が

 今でもなぜかずっと消えずに妾の中に残っておるのじゃが

 お前を見て、その名を思い出した。」


「おぉ、期待できそうな感じやん?

 あッ・・・でも、それ、男の子ちゃうやろね?

 うち、可愛い名前希望やで?」


「性別か・・・そこまで覚えてはおらぬがメスだった気がするぞ?

 それに、これ以上のものは他に思いつく気がせぬし

 なにより、妾が気に入った。

 お前をそう呼んだら、なんだか楽しくて、幸せな気がするのじゃ・・・。」


「そっか・・・

 そんな風に呼んでもらえるんやったら

 うちも、嬉しいかも。」


「そうであろう?

 決定じゃな・・・

 よし、今日この瞬間からお前は・・・


 “タマ” じゃッ!!


 ふふふっ・・・どうじゃ?

 注文通り文句なく可愛い響きであろう?」



ドクンッ・・・



「あ・・・うん・・・

 確かに・・・可愛いで?

 でも、チセ様・・・

 それ、ニャンコちゃんやなかった?」


「いや? 人間のメスがそう呼んでおったのじゃぞ?

 あー ・・・ん?

 猫に向かって、じゃったかもしれぬな・・・?

 真っ黒じゃった気もするしのぉ。

 じゃが、そこは問題ではなかろう?

 本当に幸せそうだったのじゃ!

 そう、羨ましい・・・だったのじゃ。

 その時も、多分妾は羨ましいと・・・感じたのじゃ。

 じゃから今でも覚えておってじゃな。

 タマでは・・・ダメか?」



腕の中に抱かれ、少しすねた様に唇を尖らせ

上目遣いでそう言ったチセの破壊力は、パなかった。



「その顔ずるいしぃぃ・・・

 もおぉぉぉ・・  ええか。

 その代わり、ちゃんと愛情込めて呼ばなあかんで?

 うちも、チセ様の事、愛情込めて・・・

 あの、うん・・・ 呼ぶし?」


「ふふっ・・・ 名とは不思議なシステムじゃな?

 チセと言う波形の空気の振動が鼓膜を揺らすだけで

 なぜだか、お前を・・・

 タマを、近くに感じるようじゃ・・・。

 もう一度、妾を呼んでくれぬか・・・タマ。」


「・・・チセ。」 (////)


「タマっ♪ ・・・んふふっ♪ 」


「うぅぅ・・・ なんかペットっぽく聞こえるのに

 なぜだか嬉しくなっちゃうのが、なんかイヤやぁぁ><。」


「人間とはややこしいのぉ・・・

 嬉しいのであれば良いではないか・・・?

 まぁ、もう他人事ではないのじゃが。

 それより、タマと呼んでみて感じたのじゃが

 実にシックリじゃった!

 注文どおり! じゃろ?

 のぉ? タマっ♪」


「うぅぅ・・・ シックリきちゃいそうでイヤやぁ ><。」


「ふふっ タマもやはり、人間なのじゃな。

 空も飛べる癖に、そんな些事で動揺したりもする。

 妾の新しい姿を見た時もよい顔を見せおったし。

 そんな顔をされては・・・

 妾の心が、可愛いと 叫んでしまうではないか。」



なでなでっ♪



「う・・うぅぅぅ・・・・

 タマって呼ばれてから

 なんか扱いも、ペットっぽくなってへん?!」


「そんな事はない。

 妾はタマを近くに感じられて、ただ嬉しいだけじゃ。

 こういう時は喉をゴロゴロしたら

 機嫌がなおるのじゃったか?」



ゴロゴロゴロ・・・・



「うぅ・・・もう・・・何なんこれぇ・・・

 てか、そろそろ地上に着くからっ!

 き、聞いてる? チセさ・・・ま?

 ・・・・?!

 あ、あれ、今うち・・・なんて・・・?」


「よしよし、良い子じゃのぉ! タマっ♪」


「うぅぅ・・・><。」



神様の家だった場所を後にして

地上へとゆっくりと下降していく二人の少女の姿を

西からはお日様、東からはお月様が見守っていた。


チセという人間になった元神様の顔をお日様が照らし

そのペットと化しそうな空さえ飛べる人間のタマの顔をお月様が照らしていた。


その光が照らす二人の顔は、どちらも 美味しい の顔だった。



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