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5月19日
今日は中間テスト前の最後の土日ということで、急遽美奈の家にお呼ばれしてお勉強会という名目のお泊まり会(ちゃんと勉強はするよ?)をすることになった。
なぜ急遽なのかというと、こうなるに至ったのには理由があって。
時間は金曜日のお昼休みに遡る。
美奈と机をひっつけて昼食を取っていた私のところに、何回目になるだろうか、また綾小路くんがやって来た。
「やあめぐみ。ご機嫌はどうだい?」
彼はいつものように悠然と私の前に立って話し始めた。
「あ。綾小路くん、どうしたの?」
とりあえずとぼけてみる。
「またそんなとぼけたふりをして、つれないなー。めぐみ、僕とのデートのことちゃんと考えてくれてるかな?」
さあ、今日も来たよ。
綾小路くんは背も高くて、顔も目がスッとしたイケメンで、物腰も柔らかくてクラスの女子にも人気がある。そんな彼に度々今度一緒にどこかに行こうと誘われている。正直悪い気はしない。しないんだけど、なんとなーく乗り気じゃないんだよねー。んー。うまく言えないんだけど、軽々しいというか、私なんかじゃなくてももっと他の娘の方がいいんじゃない?とかなんて贅沢だろうか。一度行ってしまえばいいだけの話かもしれないけど、やっぱりそういうのは好意がある人とがいい。彼が嫌いってわけじゃないけど、好きかと言われると、やっぱり違うって答えるもん。
「なはははは。どーしても行かなきゃだめー?私、こー見えてもけっこう忙しかったりするんだよなー、なんて?部活とか?委員会の仕事とか?勉強とか?」
あー。私ってば何はぐらかしてんだろ。なんだかもやもやしてきちゃうなー。
「気になる女の子を誘うことがそんなにいけないいかな?今はテスト前で土日は部活も委員会もないだろう?勉強もするべきだろうけど、起きてる間ずっと根をつめてやるとか逆に効率も悪くなるんじゃないか?少し休憩がてら土曜日の昼間だけでも付き合ってくれないかな?」
んー。やっぱりここははっきり言うしかないのかなー。ちょっと憂鬱だなー。なんて思っていたら。
「あ、あのっ!」
美奈が急に話に割り込んできた。
「ん?高野さん、君には関係のない話なんだから、口を挟むのは野暮ってもんじゃないかな?」
む。そんな言い方って。私の友達なんだから。
「あ、ごめん。・・・明日はめぐみちゃん、・・・私の家にお昼から来て、そのっ、一緒に勉強して、・・・お泊まりする約束があるから・・・。その・・・無理・・・です・・・。」
美奈は段々とうつむきながら、小さくなりながら、それでも一生懸命と私を助けようとしてくれた。
「そうなのかい?めぐみ?」
口からでまかせだと言わんばかりの表情で私に確認を取ってくる。まあそんな約束はしてはいないんだけど。私の中で、なんか、スイッチが入ってしまった。
「あの。綾小路くん。本当に申し訳ないんだけど、何度言われても綾小路くんのお誘いは受けられない。ううん。受けない。最初からはっきり言えばよかったよね。それもごめん。とにかくさ。もうこうやって誘うのはやめて。迷惑なの。」
言っちゃった。言ってしまった。言いすぎ?ううん。でも後悔はしてない。スッキリした。私は綾小路くんの目をしっかりと見据えた。
「・・・そうか。そうなのか・・・。そうだったんだね・・・。わかったよ。悪かったね。じゃ、じゃあな!」
そう言ってそそくさと行ってしまった。
綾小路くんが激怒するかとも思って、内心ビクビクしたけど、どちらかというと、はっきり言われてようやく気づいたって感じだったかも。はー。よかったー。
「あ・・・あの・・・めぐみちゃん。」
「美奈っ!ありがと!」
「きゃわっ!?」
私は思わず美奈に抱きついてしまった。てゆーかホントに感動した。
「めっ・・・めぐみちゃん・・・いた・・・いよ・・・。」
きつく、ぎゅっと抱きしめる。抱きしめながら、ふと思った。
「美奈・・・。」
「ん?」
「けっこう胸あるんだね。着痩せするタイプか。」
「うん。・・・え!?何言って・・・っ!?」
途端に顔を真っ赤にして慌てふためく。ホントに可愛い。私のために、話すのが苦手なのに、勇気を出してくれて。もうこれは、私の親友確定だ。本当に、この娘のことが、大好きになった。
「あ・・・。でも、・・・余計なこと言ってごめんね。・・・迷惑じゃなかった?」
「何言ってんの!ばか!すごい感動したよ!私こそ余計な気を遣わせてごめん!心配してくれて、すっごい嬉しかったよ!」
そう言うと、美奈は一度、ハッとした表情を見せた後、嬉しそうに、
「そうなんだ。嬉しかったんだ。やっぱり言う通りだった・・・。」
「ん?」
どういうことなんだろ。言う通り?
「ううん。・・・なんでもない。」
そう言うと本当に清々しい顔を向けてきた。まあいっか。と思うと同時にそう言えば、と思った。
「美奈。あのさ。」
「ん?何?」
「さっきの話なんだけどさ。」
「?」
「明日お泊まりに行ってもいいの?」
「あ!・・・。」
ん?急だしやっぱりダメかなとも思ったけど。
「いいよ!」
笑顔で言ってくれた。
こうして私たちは、初めてのお泊まり会をすることになったってわけ!