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9月3日
今日から新学期だ。私は腕時計をつけて、鞄を掴み、玄関の扉に手を掛けた。
「それでは行ってきます。」
「ああ。隼人。行ってらっしゃい。」
母親は30分前に家を出た。いつも私が鍵を閉めて家を出ていたのだが、今は違う。
私は父親に見送られながら、自宅を後にする。
朝から新聞を読む父親の背中が懐かしい。
「ああ。行ってくるのだ。」
私は自然と顔が綻ぶ。私が夢に描いていた景色が現実となっている。
私の父と母は先月再婚した。父親が背負い込んだ多額の借金は、この10年で返しきったらしい。
今父親は一ノ宮にある少し大きめのホテルに勤務している。人のいい父親に素直に合っているなと思えた。午後から夜中にかけての勤務なので、家族の時間はあまり合うことはないが、それでも家族3人が揃って一つ屋根の下に暮らせるようになったことは本当に嬉しかった。
魚ヶ崎駅に着くと、私の恋人が先に着いて待っていた。
「あ、おはよう・・・隼人くん。」
「おはよう。美奈。その髪飾り、付けてくれたのだな。」
「あ、当たり前だよ。隼人くんがプレゼントしてくれたものなのに。」
先日は美奈の誕生日で、その際に花の形をした髪飾りをプレゼントしたのだ。美奈はそれを付けて髪をアップに纏めていた。
白いうなじが見えて私はドキドキしたが、私はそれを悟られぬよう高野の横に並んだ。
「それでは行くとするか。」
私達は電車に乗り込んだ。
電車の中は朝は込み合う。一駅とはいえ私は美奈と完全に密着する形になっていた。
美奈も俯きながら恥ずかしそうにしているが、この角度からだと美奈の首元から制服の中が見えそうになったり、美奈の重量のありそうな胸が当たり、それが押し潰される感触でたった5分程度とはいえ頭が沸騰しそうになった。
だが、それと同時に今までの登校時に、どれだけの男がこの天国にあやかったのかと急に腹が立ってきた。これからは何としても阻止せねば。これからは全て私が受け止めよう!
しかし・・・私はそれに、耐えきれるだろうか。
小久保駅に着いて、歩いて学校に向かう。この頃には周りにも同じ学校の生徒がちらほら歩いていた。私達は付き合っているので、そういう目で見られるかとも思わなくはなかったが、案外皆無関心なようだ。
「隼人くん・・・。」
「ん?」
「ずっとドキドキしっぱなしだったね。」
さすがにあれだけ密着していれば聞こえてしまうか。
「あ、ああ。好きな相手に朝からあんな刺激的なことをされれば仕方ないだろう。」
「・・・好きな相手・・・。」
高野は俯いて顔を赤らめる。とは言っても私も言っておいて顔が熱くなってしまうのだが。
「・・・じゃあ・・・こうしよ!」
何がじゃあなのかはよく分からないが、美奈は私の手を取って、指を絡めて繋いできた。
「み、美奈。さすがにこれは・・・学校も近いしな。」
「こ、校門までだからっ!」
なぜこんなスリリングなゲームに興じているのかよくわからなかったが、これは予想以上にヤバかった。
普通に手を繋ぐのとは違い、この俗に言う恋人繋ぎというやつは、とにかく近いのだ。お互いの体が。なので美奈の人よりも大きなサイズの胸が、私の肘に当たるのだ。さらに歩くことによって肘がその胸に当たったり離れたりを繰り返し、その度に柔らかな弾力を私に伝えてくる。
椎名とも何度か似たような機会が今まであったりしたのだが、この柔らかさは比較にならない。
などと考えてしまっていると、やがて校門に差し掛かった。
私は妙な名残惜しさを覚え、自分から手を離せずにいると、後ろから声を掛けられてしまった。
「こらっ、朝から何やってるの!バカップル!」
振り返るとそこに、先程頭にチラついた椎名その人と工藤が立っていた。何故か私はこんな時なのに椎名の顔ではなく胸に視線を送ってしまった。
私達は慌てて手を離したが、もう手遅れだろう。
「お、おはよう。めぐみちゃん、工藤くん。」
美奈が取り繕って挨拶をする。
「ほんとにあんたたちは、2学期登校初日からそこまでしちゃうなんて、先が思いやられるわ。待ち伏せしといて正解だったわね。」
「おい待て。待ち伏せとは?」
「昨日電話で美奈のノロケに付き合ってたから今日2人で登校してくることは分かってたのよ。・・・君島くんのムッツリ。」
「なっ!?本当なのか?美奈?」
工藤が『美奈』の部分にビクッとしていたが、それは今は触れないでおく。
「あ・・・うん。ちょっと相談に乗ってもらったりしたかな?」
・・・何だかものすごく嫌な予感がする。
椎名はこそこそと私の方へと近づいてきて、こっそり耳打ちする。
「美奈の胸の感触はどうだった?さぞかし良かったんでしょうね?私に会うなり私の胸、見てたもんね?」
「っ!!!」
私はこの先美奈との恋路を椎名の掌の上で転がされるような戦慄を覚えた。
「おい君島!ちょっとやっぱりあの時の分殴らせろ!3発!」
そして相変わらず工藤はやかましい。
「というか工藤。回数が増えているぞ!」
「みんなっ・・・。早く教室に行かないと、遅刻しちゃうよ!?」
こうして私達の2学期が始まった。
1学期の終わりに思い描いていた以上に幸福で、賑やかな2学期が。
どうも初めまして!作者のとみQです!
まずは、この私のわがままな自己主張を最後までお読み頂き、本当にありがとうございます!
小説を書くのは初めてのことで、かなり悪戦苦闘しましたし、こんなんで大丈夫か!?と思うことも多々ありましたが、まあとにかく、私的に思い描いていた結末まではなんとか辿り着けたので、よしとしてしまいます!w
さて、このお話が始まるきっかけについて話したいと思うのですが、私は普段シンガーソングライター(自称)なんかもやっていたりして、作詞作曲なんかは何百曲と書いてきました。そしてその中に僕のわがままな自己主張という曲がありまして。この歌に込めた想いを主軸に1つの物語を書けないだろうか。と思ったのがきっかけで始まりました。
後は自身の回りの環境が最近急激に変化して、自分がやりたいことって何だろうと考えさせられたというのも動機になりましたが。
とにかくその一曲の歌を書いた時の気持ちを思い出しつつ、やっぱり恋愛小説といえば高校生だよなーと思いつつ、手探りで一文一文書き始めました。
もしかしたら途中でやっぱり無理だなって挫折するかもしれないけれど、やるだけやってみようと。人生なんでもやってみなくちゃ結果はわかりませんからね。w
そうして書いていくうちに、小説を書くことがどんどん楽しくなっていって少しですが感想を書いていただいたり、読者がいることに気づいて、そっからはモチベもかなり上がって、なんとかこの物語をしっかりとした形で完結させたいと思うようになりました。
まあ実際、登場人物が割と勝手に動いてくれて、こういう状況なら私はこう動く、こういう状況なら私はこう言うよ!みたいにアピールしてきてくれたので、助かりましたが。
そんなこんなで、なんとか1ヶ月ちょっとの時間をかけて、本一冊分のボリュームの物語が完成いたしました。
さて、私のわがままな自己主張、いかがでしたでしょうか?暇潰しに読んだ割にはけっこう楽しめたんじゃね?くらいの評価がいだだければ私としては大喜びです。
これからなのですが、執筆活動は続けていきたいとは思っています。個人的にはもう少し小説を書くということを突き詰めたい気持ちがありますので。
ただ、次の作品をどうするかはちょっと迷っています。
候補としてはこの物語の後日譚や、今回語られなかったあの部分、みたいな短編。
後はこの物語のスピンオフ的なお話。
そしてこの物語の続きを書いていく。
まあ異世界ものや、恋愛意外も書いてみたい気持ちもありますが、如何せん私としてはこの物語の登場人物を書き足りない気持ちが強いので、もう少しこいつらと一緒に物語を歩いていきたいかなーなんて思ってたりします。
なんというか、結果としてみんなのことを好きになってしまったんですよね。w
なので、私のわがままな自己主張に出てきたキャラクターは何らかの形でまた登場するとは思います。時系列とか、主人公とか、変えるかもしれませんけど。
長くなってしまいましたが、最後に宣伝を。
エブリスタの方にもこのお話を載せてまして、ちょうどオーディションがあったので、このお話を応募してみようと思いまして。もしよければそちらのページも見ていただき、スターとか飛ばしてくれると助かります!
後ネットでとみQの作った歌が数曲聞けたりしますので、興味を持たれた方がいらっしゃいましたらそちらも見てくださると嬉しいです。僕のわがままな自己主張も聞けます!楽曲の季節感は秋になっているのでこの小説の後日譚のような気持ちで聴いていただけると少し雰囲気がでるかもです!
アドレスは www.audioleaf.com/tomi9 です。
ではでは、こんなところまで読んで下さってありがとうございました!
次回作もよろしくお願いいたします。
また近々、新作でお会いできることを願って!




