67
花火が終わって、私達は手を繋ぎながら一ノ宮駅の方へと歩いていた。
私達は歩きながら、お互いの顔を見つめあったり、微笑みあったり、言葉数は少なかったが、心は一つなんだと感じることができた。
そうは言っても、私としては、一応きちんと確認しておかなくては。
「あー。高野。」
私は一つ咳払いをして高野に話しかける。
「ん?どうしたの?」
高野は終始屈み気味で、私を見上げるようにして歩いている。その仕草がどうしようもなく可愛いのだが、今は触れないでおく。
「念のため確認なのだが。」
「確認?」
「私達は、お互いの想いを伝えあって、これで晴れて恋人同士という事でいいのだな?」
何だかものすごく情けない質問のような気もしたが、ここはなあなあにはしたくはない。
「え?」
高野は反射的にぽかんとした表情を浮かべたが、次の瞬間上の方を見ながら口に手を当てて考え込むような仕草を取った。
「えー。どうしようかなー。君島くんと付き合うのかー。うーん。」
「え?なっ!?高野?どういうことだ!?」
私も如何せん初めての経験なのでそういうものではなかったのかとあたふたしてしまう。キスまでしたというのに!
「・・・ふふっ。ふふふ!・・・冗談です。」
私の慌てぶりを見るや、満足したのか途端に可笑しそうに笑みを浮かべた。
「・・・っ!そんな冗談はやめてくれっ!」
冷や冷やしてしまったが、高野の愉しそうに笑う顔を見ながら、安いものかと思ったのだった。
しばらくして駅の改札に差し掛かると、予想外の来訪者がいた。
椎名と工藤だ。
「やっほー!」
「・・・よう。」
私達は慌てて繋いできた手を離した。・・・見られたとは思うが。
椎名はいつもと同じようで、工藤は少し気まずそうだった。
「おまえたち。こんな時間にわざわざこんな所で待ち伏せとは。」
「むー。相変わらず人聞きの悪いこと言うわね!待ち伏せじゃなくてちゃんと後つけてたわよ!あなた達がキスするところも!」
「え!?見ていたのか!?」
「え!?キスしたの!?」
「なっ!?・・・!」
・・・墓穴を掘るとはこの事だ。椎名め。覚えていろ。だが、椎名とも色々と合ったが、こんな風に接してくれて、本当に感謝だ。
しかしこちらはそうはいかないだろう。
「工藤。」
私は工藤に向き合った。だが、
「待てよ。俺からだ。」
そう言って工藤は高野の前に移動した。
「高野・・・。」
「はい・・・。」
高野は緊張の面持ちだ。当然だろう。先日告白された相手を前にしているのだ。
工藤は神妙な面持ちで高野の前に直立していたが、やがて、
「ごめん!」
と90度に腰を折って謝罪した。高野は面食らったような顔をした。
「俺、高野の気持ちを全く考えず、いきなりあんなことして、本当に悪かった!許してくれとは言わねーけどさ、せめて謝らせてくれよ!」
工藤の精一杯の謝罪だ。高野はしばらく固まっていたが、やがて工藤の肩に手を置いて、
「工藤くん。顔を上げて?」
「高野・・・。」
「私のことを好きって言ってくれて、ありがとう。」
高野はいつだって優しくて、相手のことを思いやれる。そんな高野の笑顔に工藤は感無量といった表情になり、
「高野!」
そのまま工藤は高野に手を伸ばして・・・おいっ!
「どさくさに紛れてこのバカ!」
椎名がナイスなタイミングで工藤の首根っこを掴んだのだった。
やれやれだ。
さて。
「工藤。」
私は工藤に改めて声を掛ける。工藤もそれは同じ考えだったようで、すぐに私に向き直った。
「ああ。君島ぁ。覚悟はできてんだろな?」
「ああ。」
私は工藤に何度も確認を取られたにも関わらず、高野への想いに目をつぶり、結果工藤を欺いたような行動をした。
ここはケジメとして工藤から拳の一発や二発、喜んでお見舞いされるつもりだ。
工藤も当然その準備は万端といった風であり。
「え!?ちょ!?」
その意図に気づいた椎名も慌てて間に入ろうとするが、
「椎名。これもケジメだ。止めないでくれ。」
私は間髪入れず椎名を静止した。
「っ!・・・あー、ほんと男ってめんどくさい!」
諦めたように椎名も動きを止めた。
そんなやり取りの間、高野は後ろで拳を握りしめて黙って見ていた。
これで私達を阻むものは何もなさそうだ。
「じゃあ歯食いしばれよ。」
ニヤリと笑う工藤。
やがて少しだけ助走をつけて・・・。
次の瞬間、その拳が顔面にヒットするかと思いきや、すっとお腹の方に移動してきて、ドスッと一発だけ小突かれた。かなり体に力を入れていた私は「うっ。」と声を出してはしまったが、もちろん吹っ飛んだり痛みを感じる程の威力でもなくて・・・。
「俺もお前に迷惑かけたんだからよ、これで恨みっこなしだ!」
工藤は親指を立てて私に向けてきた。ニヤッとした顔に少しムカついたが、コイツもやはりいい奴だなと思った。
「ふん・・・カッコつけが。」
まあそれに関しては私もかもしれないが。
「では・・・帰るとするか。」
私達はようやく皆笑顔で改札を抜けたのだった。