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私のわがままな自己主張(プロット)  作者: とみQ
終章 私はわがままなのである
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8月4日


今日は一ノ宮で行われる花火大会の日だ。


昨日電話の最後で椎名に提案されたことがこれだ。


「前回の花火大会のリベンジよ!2人で行ってきなさい!」


ということらしい。

なんだかせっかくの大切な2人の予定を人づてで決めるというのもどうかとは思ったが、椎名がどうしてもだの罪滅ぼしだの言うので、私としては逆のような気もしたが、今回は甘えることにした。

罪滅ぼしするなら、これから友人として付き合っていく中で、いくらでもすればいいことなのだから。


駅の改札を抜けると、駅前の柱のところに、私が最も会いたかった女の子が立っていた。


お互いがほぼ同時にお互いを見つけてしまって、なんだかうまく声が出せなかった。


「あ・・・あの・・・久しぶりだね。今日は浴衣来てきたんだ・・・。」


「あ、ああ。・・・そうだな。せっかくだからな。・・・どうかな?」


私は今日は母親が用意してくれて、群青色の浴衣を着ていた。高野も同じ色の浴衣だったのでペアルックのようになってしまった。


「うん。あの・・・すごくかっこいいです。」


俯きながら顔を赤く染めて言う高野。私は胸の鼓動がかつてない程高鳴っていた。


なんだ、これは。


私は一体どうしてしまったのだろうか。


高野のことを好きだと意識した途端、こんなにも胸が高鳴るなんて。


「・・・私も、・・・その・・・可愛いと思うぞ。」


声を絞り出したが、胸の鼓動は早まるばかりで、苦しくなった。


2人はしばらく顔を逸らしあった後、


「・・・行こうか。」


「・・・うん。」


とばらばらになって歩きだしたのだった。




一ノ宮の花火大会は駅から20分程歩いた先の海岸で行われる。海岸は広い道路に面していて、そこでたくさんの露店が並ぶ。

花火大会は明岩駅の時と同じ7時半からだったので、今回もそれまで何か食べたりしてから見る予定だ。

ここの道路は普段は車が二車線ずつ通れるようになっており、前回と比べるとかなり歩き易かった。さすがに今度は進行が妨げられることはなさそうだ。


「何か食べようか。」


「うん。」


「何か食べたいものはあるか?」


「・・・チョコバナナが食べたいな。」


「そうか。」


なんだか少し違和感を覚えてしまった。今までの高野なら、何でもいいと言いそうだなと思ったりもするのだが、自分の意思を伝えてきてくれるとは。考えすぎだろうか。それとも何か心境の変化でもあったのだろうか。


「きゃっ。」


私がそんなことを考えてしまっていると、私は少し早足になってしまっていたらしい。高野がついてこようとして急いだことにより転びそうになってしまっていた。私は急いで高野の元へ駆け寄る。


「すまない。高野。気付かなかった。」


「だ、大丈夫だよ。私、どんくさいから。」


そんな高野を見て、私は自然と体が動いてしまっていた。


「・・・じゃあこうしようか。」


そう言って私は左手で高野の手の甲を取った。


「あっ・・・。」


照れてしまった私は顔が熱くなりすぎて高野の方を見れなかったが、歩く速度だけはゆっくりにする。

カランコロンと下駄の音を頼りに足取りを確かめるのだった。


チョコバナナを買って高野に渡すと「ありがとう。」と言って嬉しそうに食べ始めた。

私はそんな高野を微笑ましく見つめていた。

チョコバナナを頬張っていた高野は、しばらくすると落ち着きなくこちらをチラチラと見てきた。


「あの・・・君島くん。」


「ん?」


「あんまり・・・見られると・・・食べづらいよ。」


あ、そう言えば前もこんなことがあったな。


「すまない。私はどうも人が食べているところを見てしまう癖でもあるのだろうか。」


目を逸らそうとすると、私の目の前にチョコバナナが来た。


「あの・・・良かったらなんだけど・・・食べる?」


「いいのか?」


「どうぞ・・・。」


そのまま私は高野の持っているチョコバナナに頭からかじりついた。

口の中にチョコとバナナの甘みが広がって、空になった胃に転がり込む。・・・美味い!


「初めて食べたが美味いな。」


そう言って高野の方を見ると、高野も再びチョコバナナをかじるところだった。心無しか顔が赤いように見える。


「ぶっ・・・!ごほっ、ごほっ!・・・ふぇっ!?う、うん!そうだね!私もこれ大好きで・・・!」


何を焦っているのかよくわからなかったがこんな仕草も今となっては可愛くて仕方がなかった。


「あ、そうだ!これ、お金!400円だったよね?」


そう言って繋いだ手を離して財布からお金を出し始める高野。


「いや。構わないぞ。私の驕りだ。」


「え。でも。そういうのって良くないよ。お互いまだ学生なんだし。次またこういう時気を遣っちゃうよ。」


高野は真面目だなと思いながら、これからのことも考えてくれていることを嬉しく感じながら、私はこんな提案をした。


「じゃあこの時計のお礼ということでどうだ?」


そう言って左手にはめた腕時計を見せる。すると高野はしばらく考え込んで、200円だけ渡してきた。


「・・・さっき一口あげたから割り勘にしよ?」


「あ?ああ。そうか。」


高野にしては頑固だなと思いながらそのお金は受け取った。

しばらく高野は黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。


「誕生日・・・。」


「ん?」


「私の誕生日。今度お祝いしてくれないかな?」


そういうことかと思いながら訪ねた。


「あ、ああ。高野。誕生日はいつなのだ?」


「8月26日だよ。」


思ったよりも近くだったので得心がいった。


「ああ。任せておけ。」


私は再び高野の手を取って歩き始めた。


こうして、花火までの時間が過ぎてゆくのだった。

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