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7月28日
部活が終わって、夕方私はある人のことを待っていた。
体育館の前で待つ私の元に、部活を終えた工藤くんが出てきた。
「げ。椎名。」
工藤くんは私を見や否や嫌そうな顔をした。
「何その顔。工藤くん。ちょっとお話いいかしら。」
私はにこっと笑顔で返したのだった。
「なんだよ話って。」
私たちは体育館裏へと移動した。工藤くんはしぶしぶといった風で、私についてきた。
「で?やっぱり美奈にフラれたの?」
「え!?おまえ!なんでそれを!?高野から聞いたのか!?いや、君島か!?」
工藤くんは鎌をかけた私にまんまと騙されて、自分から墓穴を掘った。
「やっぱりそうなのね。詳しく聞かせて。」
「え!?あ!?・・・おまえ!騙したのか!?」
意図を察したのか、工藤くんは顔を真っ赤にした。
「あのね。工藤くんが美奈のことを好きなのはわかってたことじゃん?急にいなくなられたらそうなのかなって思うでしょ。」
「いなくなられたって・・・たまたまかもしんねーじゃんよ。」
「だって君島くんの様子もおかしかったし・・・、ってそんなことは今となってはもうどーでもいいのよ!だから、どうなったの?」
まあ結果は歴然だけど、どんな感じになったのかまではわからない。
「・・・その・・・逃げられた。」
「逃げられた?」
「だーかーら!告白する時に抱き締めたら、突き飛ばされて逃げられたんだよ!多分あの日はそのまま帰ったんだと思う。」
「そう・・・ダサ。」
「ぐはっ!・・・おまえっ!傷つくからやめろよ!」
そんなことを言ったものの、先日私も似たようなものかもしれないとブーメランになる。だけどそんなことはおくびにも出さず話を続ける。
「で?それは君島くんにはちゃんと報告したの?」
「・・・いや。それは・・・まだ。」
やっぱり・・・ね。
「・・・あのね。あなた君島くんに色々頼んどいて結果は報告しないとか。どうかしてんじゃないの?」
「え?あ?色々って・・・何で知ってんだよ!」
「そんなの言われなくても解るわよ!大方美奈とくっつきたいために2人にしてくれや遊びにいこうや裏で言ってたんでしょ?」
「いや・・・あの・・・。」
「とにかく!花火大会の日のことはちゃんと君島くんに報告しに行って。」
「え!?・・・まあ・・・気持ちの整理がついたら・・・。」
「今つけて。この後行って。」
「え!?・・・おまっ!?・・・まじか。」
「まじ。今から君島くんのところに行ってきて。もう遅すぎるくらいよ。」
私は一気に工藤くんに捲し立てる。こういうのは勢いが大事なんだから。特に工藤くんみたいなタイプは。
「・・・わかったよ。先伸ばしにして、いつまでももやもやしてんのも小に合わねーしな。」
工藤くんはやがてあきらめたように言った。
「ん。素直でよろしい。」
仕方ないのでぽんぽんと頭を軽く叩いてやる。
「ちょっ、子供扱いすんじゃねーよ!あほっ!」
「はいはい。その意気よ。じゃあ、行ってらっしゃい。あと、終わったらメールで報告してね!」
立ち去ろうとする工藤くんに手を振りお見送りする。
「わーってるよ。あー、あと、椎名。」
「ん?」
「おまえはそれでいーのかよ?」
「・・・。何よ。それ。」
急に私の方に話題を振ってきた。あんまりそういうことは言わないでほしかったんだけど。
「おまえ、君島のこと好きなんじゃねーの?」
何よ、工藤のヤツ。こんな時だけ鋭いんだから。
「いーの!だってこんなのフェアじゃないじゃない。それに、私は美奈のこと、応援してるし。」
それに、私もとっくにフラれたようなもんだ。
「そっ・・・か。」
「椎名!」
「だから何よ!」
「おまえってけっこーいい女なんだな!」
「・・・っ!うるさい!早く行け!」
バカ。そんなんじゃない。私はただのズルい女だ。