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私のわがままな自己主張(プロット)  作者: とみQ
第1章 私はわがままな人間にはなりたくないのである
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今は5月の下旬だ。最近では5時を回ってもまだ空は明るみが射していた。新学期が始まった頃に比べるとだいぶ寒さも和らぎ、過ごしやすい期間だ。


私の通う明西高校は、自宅からは一駅離れており、最寄り駅の魚ヶ崎駅まで10分の道のりを歩いて電車に乗り、さらに隣の小久保駅から10分程歩いて到着だ。なので家から高校までは長くても30分程の道のりとなる。いつもなら一人の時間を過ごすことに慣れている私だからあっという間に家に着いてしまう感覚なのだが、今日は隣にもう一人いる。さて、と。


「高野。さっきの相談したいことというのは?」


高野とは小学生の頃から一緒なので、当然最寄り駅は同じだ。駅に着いたあとは正直わからないので、まあ相談に乗るといってもせいぜい15分程度になってしまう。私は早々と本題を切り出した。


「実は・・・同じクラスのめぐみちゃん、あ、椎名さんのことなんだけどね」


私はいきなり高野の口からその名前が出てきて心臓が跳ねる思いだった。まさか私が何かしてしまったか。確かにいつも素っ気ない態度を取ってしまっていたのは認めるが。


「あ、ああ。椎名がどうかしたのか?」


私は内心の動揺を悟られまいと、至って平静に返事をした。


「同じクラスの綾小路くんが、・・・最近よくめぐみちゃんに話しかけにくるんだけど・・・。いつもその度にめぐみちゃんをデート・・・に誘ってて・・・。その度にめぐみちゃんも断ってはいるんだけど・・・。なんだか今日とかはもう困ってて・・・。わたしもどうにかしてあげられたらいいんだけど・・・。どうしたらいいかわからなくて・・・。わたし、そういう経験ないから。でも友達だから放っておけなくて・・・って」


・・・。


なるほど。そういうことだったか。確かに綾小路はよく休み時間などに椎名の席に行っているのを見かけた記憶はあるが、そんなことになっていたとは。私には到底真似できない所業だな。


正直高野の話を聞くまではかなり冷や汗を書いていたが、私に対する非難などではなく安心した。とは言うものの、この相談もそれはそれで私にはうまく答えかねるのだが・・・。


「そんなことがあるのだな。しかし、同じクラスでいつも同じ空間にいるというのに全く気づかないものなのだな」


そして一呼吸おいて私はさらに答えた。


「正直私もこの手の話題には疎くて、高野が望むような答えは得られないかもしれないが、まず、高野はどうしたいのだ?」


「え・・・。どうしたいか?」


高野はきょとんとした表情をした。


「うむ。椎名を助けたいのはわかるがどう助けたいのだ?綾小路に直接困っていることを伝えるのか」


「う・・・、それは・・・わたしなんかじゃ・・・」


高野の表情が今度は沈みがちになる。


「そうだな。高野はそんなことを直接相手に言うタイプではなさそうだからな」


「・・・」


ついには高野はうつ向いてしまった。


「だが、それでいいのではないか?」


「・・・?・・・。どういうこと?」


「高野が今私にこうして椎名のことを心配して相談を持ちかけている。椎名が困っているのを見てなんとかできないかと頭を悩ませている。それだけでも既に椎名は助けられているのではないかと私は思うのだよ」


「・・・。そう・・・かな?・・・でも、これじゃあ何の解決にもならないよ?」


「それを椎名は望んだのか?高野に助けてほしいと言ってきたのか?」


「・・・いや・・・。大丈夫だって言ってた」


「なら何も焦ることはあるまい。しばらく様子を見ておればよい。なに、私もそんなことになっているなんて知らなかったのだ。そんな大事でもあるまいよ。そんなに心配ならば、高野が側についていてくれるだけでも椎名は助かるであろうよ。高野が椎名のことを心配してくれているという想いはきっと椎名に伝わっているだろうしな。それでもどうしても高野が椎名のことを助けたいと、何かしてあげたいと願っているのならば」


「願っているのならば?」


「その時は考えるよりも体が勝手に動いているのであろう」


なんだか私が話す度に高野の表情が沈んでいくので、話しづらいことこの上なかったが、大丈夫だっただろうか。そう思ってうつ向きがちな高野の顔をそっと覗きこんでみる。


「そっ・・・か」


ぼそりとそうつぶやくと、高野はようやく顔を上げた。


「君島くんはやっぱりすごいね」


何がやっぱりなのか、何がすごいのかイマイチよくわからなかったが、とにかく高野は最後ににこりと微笑んでくれた。


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