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7月21日
「本当にこれでよかったの?」
私は気づいていた。君島くんが美奈と工藤くんを2人っきりにさせようとしたことを。おそらく工藤くんが君島くんに頼んだんだろう。もしかしたら、一緒に花火を見て、告白、なんてこともあるのかもしれない。
「ああ。・・・いいんだ。」
私の問いかけの意図を察したのかそうじゃないのか。君島くんは静かに返答をした。君島くん。気づいてるかな。その態度じゃ、よくないって言ってるのと、同じなんだよ?
そして花火大会が始まった。
私は彼に何かしてあげたくて、彼の手に自分の手をそっと重ねた。
そうしたら彼は、すぐに私の手をぎゅっと握ってきた。
胸がとくんと高鳴る。
もう言い訳はできない。私は君島くんのことを好きになってしまっている。今までなんとか自分に言い聞かせてきたけれど、もう、ごまかしきれそうにない。
でも私はとっくに気づいていたから。
想いを寄せる彼が、本当は誰のことを想っているのか。
今、彼が、私の隣で誰のことを考えているのか。
咲いては消えていく花火を見て、今までの私の恋心のようだと思った。
花火はまだ始まったばかりだ。
7月26日
「もう、帰っていいよ。」
私は冷たい一言を、君島くんに向けて言い放った。
思っていた以上に冷たい声色が出て、自分でも内心びっくりしてしまうほどだ。
彼はしばらく黙ってその場所に佇んでいたけれど、やがて鞄を拾って、ゆっくりと、この場所から去って行った。
コツ、コツ、コツと彼の足音が遠ざかっていく。
「はあ・・・何やってんだろ・・・私。」
その場に座り込んで、1人になった部屋で私は呟いた。
こんなことをして、よかったなんて、言えるだろうか。
「言えないよね・・・。」
君島くんを傷つけてしまったかもしれない。私の事を想って行動してくれた彼の気持ちを踏みにじるようなことをしてしまった。
さらにこの私の行動は、君島くんとのことを応援すると言った美奈に対しても、完全に裏切りだ。
でも私はもう耐えられなかった。彼に優しくされることに。どんどん彼への気持ちに歯止めが利かなくなりそうになっていくことに。
だから彼を遠ざけるようなことをした。
そして、自分の気持ちに気づいてほしかった。
私に気のあるふりをして、蓋をしてしまっている自分の心に。
きっと遅かれ早かれ傷つくことになるのだから。
それならば早い方がいい。
それでも涙はこぼれてしまったけれど。
しばらく茫然と座り込んでいた私は最後に1つ決意をした。