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外に出ると道が濡れていた。
椎名の家にいる間に通り雨が降ったのだろう。
どうせなら今降ってくれれば良かったものを。
どしゃ降りの雨にずぶ濡れになって、こんな気持ちごと洗い流してくれればと思うが、今の私にはそんなわがまますら許されないのだろう。
私は何をやっているのか。
私は本当にどうしたいのか。
ただただ自分の気持ちを押し殺して、自分のわがままに全てブレーキをかけて、結果がこれだ。
もう、戻れない。
また、失くしてしまった。
4人で過ごした時間が、遠い昔のようだ。
これはあの日から私に課せられた呪いのようなものなのだろう。
望んではいけない。
そうだ。望んではいけなかったのだ。
ああ。だが、もう遅い。
全ての歯車が、悪い形で噛み合って、私をまた、孤独へと追いやったのだ。
家に着いて。
リビングに入ると、母親が声をかけてきた。
「お帰りなさい、隼人さん。随分と遅かったのね。またお友達かしら?」
「・・・ああ。そうだ。」
最早この答えが嘘なのか、本当なのか、そんなことはどうでもいいのだが。そのままいつも通りに奥の部屋に行こうとする。
「あ、隼人さん。」
「・・・なんだ。」
なぜこういう時に限って私を引き留めようとする。早く私を1人にしてくれ、開放してくれ。
「8月1日なのだけれど、夕方時間を空けといてくれるかしら?」
「・・・わかった。」
それだけ言って、扉を閉めて、ようやく1人になれた。
もう、眠ってしまおう。
何もかも、全て忘れて。