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7月26日
今日は図書室の当番の日で、午後から数日ぶりに学校に登校してきた。
学校があった時と違って、図書室は月曜日から金曜日の1時から5時で開放するが、本の貸し借りというより、受験勉強をするために利用する生徒が主となるので、1人での当番の持ち回りとなり2週間に1、2回程度で回ってくるだけとなっていた。
結局花火大会の日から、工藤とも高野とも連絡を取り合っていない。花火のあと椎名が高野に連絡をしてみたが、連絡はつかずじまいだった。
なので、あの日、工藤は高野に告白をしたのかどうかや、あの2人の関係がどう変化したのかなど、全くわからない。
椎名とも小久保駅で別れてから今日まで、メールも電話もしないままで、なんだか以前よりも関係が疎遠になった気さえしてしまう。
毎日が淡々と過ぎていくようだ。
1学期のような関係にはもう戻れないのだろうか。
それともこの夏休みが終われば、皆何事もなかったかのように普通に毎日を過ごしていくのだろうか。
図書室を閉める時間になり、鍵を職員室に返して下駄箱から出ようとした時、自転車置き場に見知った姿があった。
椎名だ。
工藤も椎名も部活があるので学校には来ているとは思っていたが、まさかこんなバッタリと出くわすとは思ってもみなかった。
私は椎名に声をかけるかけないの問題以前に、椎名の様子に違和感を覚えていた。
他の部員が回りに1人もいないこと。グラウンドの運動部員はまだ残っているので、部活終わりではなさそうなこと、そして椎名が、何か慌てているような、焦っているようなそんな印象を受けた。
「椎名!」
私は思わず周りに目もくれず自転車に股がって行こうとする椎名に声をかけてしまった。
椎名はびくっと肩を震わせ、こちらを振り向いて動きを止めた。
「どうした。何かあったのか?」
椎名の肩が、小刻みに震えており、今にも泣き出しそうに見える。いつもの活発で、元気な面影はどこにもなかった。
「君島くん。・・・お母さんが・・・倒れたって。」
椎名は遂に下を向いて泣き出してしまった。
「さっき、病院から学校に連絡があって、仕事中に倒れて、隣町の病院に搬送されたって・・・。」
椎名は私の胸に顔を埋め、粛々と泣いている。
私は椎名の頭をぽんぽんとやって、その後椎名の肩を掴んだ。
「椎名、まだお母さんが病院に運ばれただけで、詳しいことは分からないであろう。泣くのはまだ早い。きっと、大丈夫だ。」
そう言って私は椎名の自転車に股がった。
「そんな顔ではまともに自転車も漕げないだろう。早く後ろに乗るのだ。」
自転車に股がり前を向く私の背中に、椎名の体重が預けられて、私のお腹周りに椎名の腕がぎゅっと抱きついた。
「行くぞ。」
私は小久保駅に向けて力強くペダルを漕ぎ始めた。




