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夕方5時。図書室の扉に鍵を掛け、鍵の返却のためそのままの足でいつも職員室へと向かう。
毎週鍵は交代で私か高野が返しに行く。先週は高野が返しに行ったので今週は私だ。
「じゃあ後はやっておくので、帰っていいぞ?」
「う、うん」
扉の前で高野に別れの挨拶を済ませる。何故か彼女は私と少し距離を開けて立ったまま、動こうとしない。鞄を両手でスカートの前に持ち、もじもじと小動物のように動いている。
「それではまた明日」
何か言いたい事があるのかとも思ったが、沈黙したまま二人共に動かないのもどうかと思い、私の方から先に折れ職員室に向かって歩き出した。
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鍵を返して、下駄箱までたどり着いた。靴を履き替えようとしたら、そこに高野がいた。下駄箱にその小さな体を預け、虚空を見つめている。斜陽に照らされてオレンジ色の肌がやけに眩しく見えた。
「どうしたのだ高野、まだ帰っていなかったのか。5月とはいえそろそろ暗くなってくるぞ?」
流石にここで声を掛けないのも失礼だ。声を掛けると高野は振り向いて、一瞬目が合ったかと思うとすぐに逸らしてしまった。
「あの・・・実は・・・君島くんに相談したいことがあって・・・。少し帰りながら話せないかな?」
高野がそんな事を言ってくるとはかなり意外だった。
私も高校二年生だ。同い年の女子と一緒に帰るという事には流石に少し気恥ずかしさもあったりするのだが、高野はそうは思わないのだろうか。
しかし逆に考えれば普段控え目な高野がわざわざそんな事を言ってくるのだから、何か相当困っていたりするのかもしれない。
無下に断るのも悪いし、変に意識し過ぎるのも、それこそ自意識過剰のような気もするし。
私は逡巡した後、至って平静を装って答えた。
「まあ、構わないが。私などでいいのであれば」
「ホント!?いいの!?」
高野は心底意外そうな目を向けてきた。
いやいや、それではまるで断られる前提で頼んできたみたいではないか。
「ああ。ではだいぶ遅くなってきたし、帰りながら話そう」
「あ、うん。そうだね。ありがとう」
私はそう言いながら靴を履き替え、ゆっくりと高野の横へと並び、そのまま追い越す。
高野が「あ・・・」と言ってそのまま少し小走りで私の隣に追い付いてくる。
二人はそれ以上何を話すでもなく、夕暮れで少し黄色掛かった校舎を背に、並んで歩きだした。