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7月19日
今日は1学期最後の図書室の当番の日だった。よりによってその当番がこの男と一緒とは。とは言うものの、高野か城之内の二択でしかないのだからしょうがないのだが。
「先輩、この3ヶ月間、色々と貴重なご意見が聞けて参考になりました。ありがとうございました。」
城之内のこのニヤついた顔や、ことあるごとに眼鏡をくいっと上げる仕草など、鼻につくことこの上なかったが、それも今日までと思うと、感慨深いものがあるな。
「しかし、貴重なご意見とは言ったものの、私はお前に意見を言った覚えはほとんどないのだがな。」
毎回城之内からは質問は受けていたが、そのほとんどを回答せぬまま突っぱねていたため、きちんと意見を伝えたことは数える程しかない。恋愛小説を書きたかったようだが、おそらく私の意見などあって無いようなものだろう。
「いえいえ。何を仰いますか。君島先輩から受け取った情報を元に、秋の文化祭に向けて、1冊書き上げて出版しようとしているところですよ。本当にありがとうございます。」
どや顔で眼鏡をくいっと右手で上げる城之内。
「いや。だから私はお前にほとんど何の意見もしていないでと言っている。」
本当におかしなことを言うやつだな。
「いえいえ。ですから、いつもあーだこーだと僕が質問した後、考えていらしたではありませんか。目は口ほどにものをいうと言いますが、先輩の言いたいことはいつも顔に書いてありましたよ?それだけでも僕にとっては十分参考になりましたよ。」
「・・・。」
何とも意味不明なことばかり言う男だ。そんな簡単に人の考えていることなど、解るものではない。
「そんな難しいことでもありませんよ?人が今何を考えているかなんてことは、その人の表情や仕草、一挙手一投足から大体のことは読み取れるものです。先輩はもっと周りの人のことをよく観察した方がいいんじゃないですか?」
「そして城之内はニヤリと笑いながら眼鏡を右手でくいっと上げるのだった。」
「・・・!」
私は心の中で、あれこれ考えない方がいいのかもしれない・・・。