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7月17日
夜10時頃、家で勉強をしていた私の携帯が鳴った。
工藤からだ。
「もしもし。」
『君島。相変わらず勉強してんのか?』
「そう思うならわざわざ邪魔をするようなことをしないでもらいたいものだ。」
相変わらず工藤の物言いには一言言いたくなってしまう。
『あのさ。今日花火大会に行くことになったじゃねーか?』
「ああ。そういうことになったな。」
いつものことながら、私の意見など蚊帳の外で物事が決まってしまう。まあ否定はしないのだが。
『それでさ・・・。俺、その時高野に告白しようと思う。』
「・・・。」
遂に来たかと思った。夏が終わるまでにと言っていたので、夏休みの間にどうにかするのかと思っていたが、まさか夏休み初日にぶつけてくるとは、何とも工藤らしいと言えばらしいが。
『だから、お前に頼みがあんだけどよ。』
「ああ。」
大体想像はついたが私は次の言葉を待った。
『途中高野と2人っきりにしてくれよ。』
やはりそう来たか。
「・・・しかし、椎名はどうする?高野とはぐれたら探そうと言い出すに決まっている。そして電話なりなんなり連絡を取ろうとするだろう?そんなつもりで椎名も皆を花火大会に誘った訳ではあるまい。」
『そこはなんとかしてくれよ。最悪30分とかでもいーからさ。それに、お前も椎名のことが気になってんだろ?いい機会じゃねーか。2人でいたいとかなんとか言えばいーだろ?』
私は心がざわめきたった。
「いや!そっちの都合に私を巻き込もうとするな。私はそんなつもりはないのだからな。」
何故工藤の告白に付き合って、私もそれに便乗したように椎名に好意を示すような言葉を告げねばならないのだ。
『何だよ。煮えきらねーやつだな。とにかく、30分は持たせてくれ。頼むな!』
そう言って一方的に電話は切られた。
かけ直そうかとも思ったが、コールのボタンを押す前に手が止まり、結局やめた。
この後の私は、勉強が手につかず、1時間程ぼーっとした時間を過ごしてしまった。
ただ、この時だけは心がざわついていても、明日にはきれいさっぱり元の心持ちに戻って、皆と普通に接しようとだけは心に決めた。
これ以上、私の心の乱れによって、皆に迷惑はかけたくないのだった。