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とある喫茶店。まだ5才だった私は両親と共にお昼ご飯を食べていた。
スパゲッティを頬張る私に、まだ私の父親だったその男は言った。
「隼人。元気でな。もうこの先会うこともないだろう。」
私は父親の急な言葉に頭が真っ白になる。
「え?なんで?おとうさん、どこかへいっちゃうの?」
「おまえなど、これから私の子供でも何でもない。赤の他人だ。二度と私の前に現れるなよ。私はおまえなど、大嫌いだ。」
「・・・え、なんで?どうしてそんなことゆうの?ぼくいいこにするから・・・わがままもゆわないから・・・いかないでよ・・・。」
「うるさいっ!だまれ!もう何も喋るんじゃない!」
私はこの男のことが大好きだった。いつも笑顔で、優しくて、私のことを、自分の子供のことを、大切に想ってくれていると感じていた。
だから、父親のその言葉が信じられなかった。
私は涙を流しながら、店から出ていくその男の背中を見つめていた。幸か不幸か、その男の最後の顔は、涙で滲んでモザイクがかかったようにはっきりとは記憶に留まっていない。
母親の、身体を抱きとめる強い感触だけが、私を今も縛り付けている。