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7月1日
朝になって、皆昨日の夜更かしがたたり、午前中はぼーっとして過ごした。
午後からはもう一度気合いを入れ直して最後の詰めを行い、夕方解散となった。
高野とはそのまま家で別れ、椎名と工藤とは魚ヶ崎駅にて解散となった。
なんだかとても色々なことがあったように思うが、私の心は今は一旦落ち着いていた。
駅から10分程歩いて、私の自宅に到着した。
私の家は5階建ての鉄筋のマンションである。築年数が25年を越えており、エレベーターはない。借りている部屋は2階なので、特に不便は感じたことはないが。
私は202号室の前まで来るとドアノブを捻った。部屋は開いていた。
「ただいま。」
「お帰りなさい。隼人さん。」
玄関に入ると、私の母、君島由加里が出迎えてくれた。私の母は隣街の中学校の国語教師をしている。背丈は私より少し低い160センチくらいで、髪を結わえており、背筋もピンと伸びているので、本来よりも高く見える。服は黒とベージュでまとめられており、落ち着いた雰囲気を漂わせている。目鼻立ちも整っており、子供の私から見ても美人な母親だと思う。
「ただいま。お母さん。」
私は玄関で靴を整えながら、返事をする。
「夕飯はまだなのよね?今用意するので座って?」
家はリビングに六畳の部屋がそれぞれ和室とフローリングで2部屋あり、2DKの造りになっている。2人で住むには広すぎる間取りだ。
「あー。今日は少し食べてきたので私は別に構わないのだ。もう少し勉強もしたいのでな。」
私はリビングを通りすぎ、奥のフローリングの部屋へと向かおうとする。ご飯は食べてきた訳ではなかったが、元々そんなに大飯食らいではないし、お腹も減っていなかったので、咄嗟に嘘をついてしまった。
「そう。最近隼人さんは家を空けることが多くなったわね。いいお友達でもできたのかしら?」
「まあ悪い友達ではないのは確かだな。変な所もあるが。」
誰かの君島くんに言われたくないんですけどー!という声が聞こえてきそうだが、それはもちろん心の中に止める。
「もう。相変わらず屁理屈理屈な物言いですね。そう言うところはお父さんにそっくりなのだから。」
「父親の話は止めてもらいたいものだ。気分が悪くなってしまう。」
「あっ・・・ごめんなさい。」
私も反射的に言ってしまったとはいえ、思っていた以上に冷たい物言いになってしまった。
母親もはっとした顔になったが、今さら気まずさを和らげる術を今の私は持ち合わせていなかった。
私はそのまま何も言わず、奥の部屋へと引っ込んだのだった。
母親の視線を背中に感じながら、扉をばたりと、閉めた。