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「さて、椎名。よく眠れたか?」
ようやくマンツーマンの勉強会もこれで終わりとなる。この後は4人同じ部屋で自習をして夕食だ。
「む。それじゃあ私が皆が勉強している間、1人寝てたみたいじゃない!」
「ん?てっきりそうだと認識していたが?」
「失礼ね!工藤くんも寝てたわよ!」
「・・・では始めるぞ。」
「・・・は、はい。」
不毛な言い合いは無駄だと悟ったのか、今回は大人しく教科書を広げてくる。どうやら国語がいいようだ。本人曰く、「私ってけっこーがさつで空気読まないとこあって、人の心情とか文章の中から読み取るのとかさっぱりなんだよね!」ということらしい。
今回はさすがにすんなりと勉強出来そうだと思い始めた矢先のことだった。
「君島くんてさ。好きな子とかいるの?」
いきなり直接的な質問で来たものだ。私は今日の色々な出来事のお陰で動じる気持ちも失せていた。
「そんなことを聞いてどうする。今話すようなことではないだろう。もしいたとしても言うつもりはない。」
「だよねー。でも、私は応援するからさ。君島くんて、割りと無口だけど、いい人だと思うから。ってちょっと偉そうだったか。ごめんなさい。でも、私は君島くんのこと、大切な友達だと思ってるよ?」
なんだか最後は力のない笑顔で言ってくるのだった。
「・・・。」
一体どういうつもりでそんなことを言うのだろう。本当に人の気持ちというのはわからない。ただ1つ言えることは、私自身は誰かに好きと伝えたり、付き合ったり、そういった関係になるつもりはないのだから、誰がどうなろうが、どういう行動を起こそうが、関係のないことだということだ。
そうだ。初めからそうなのだ。あれこれ悩む必要などないではないか。初めから、何の心配もいらない。私は、何があろうと私のままだ。これからも、何も変わらないし、変えるつもりもない。
だったらこんな惚れたはれたの問題など、どうということはないではないか。
「椎名。そういう話はもういいだろう。今度こそ、勉強するぞ。」
「・・・はーい。先生お願いしまーす!」
椎名は少しだけ私の顔をじっと見た後、いつもの椎名に戻っておちゃらけるのだった。