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工藤くんが君島くんと勉強している頃、私はめぐみちゃんと勉強をしていた。正直今日の午前中は色々ありすぎて、勉強が手につかない状態で。
一番衝撃的だったのは、やっぱり君島くんがめぐみちゃんを抱きしめている所を目撃してしまったこと。
君島くんはやっぱりめぐみちゃんのことが好きなのかな。
君島くんは以前からめぐみちゃんのことを意識しているような気はしていた。めぐみちゃんを前にした君島くんは、なんだか落ち着かないというか、焦っているというか。好きな人を前にして、うまく振る舞えていない人を見ているようだったから。
私も少し前まではそうだった。それに、私はずっと君島くんを見てきたから。なんだか、そうなんじゃないかって、薄々は気づいていた。だけど、信じたくなくて、信じられなくて、少しでも私の方に振り向いてほしくて、自分なりにたくさん頑張ってきたつもりだったんだけど、やっぱりダメだったのかな・・・。
「美奈。どうしたの?なんか考えてるよね?」
めぐみちゃんが、私がペンが止まっているのを見て声をかけてきた。めぐみちゃんは普段から明るく振る舞っているけれど、ホントはすごくみんなのことを見ていて、気遣ったりして、回りの心の機微に敏感なんだと思う。
「うん。・・・ちょっとね。」
「ちょっと?」
私は思い切って打ち明けることにした。
「めぐみちゃん。実は私。君島くんが好きなんだ。ずっと前から。」
「うん。知ってるよ?」
条件反射のように返される。まるでそういうことを言われるって解ってたみたいな。
「え?あ?うん。やっぱり?気づくよね。でもはっきりとは伝えてなかったから・・・。」
そんなに普通に返されるとは思ってなかったな。なんかちょっと恥ずかしい・・・。
「ふふ。美奈ってばわかりやすすぎるんだもん。前お泊まりした時コンビニで君島くんに会った時から気づいてたよ。」
「え!?そんな前から!?」
「え!?気づかれたと思ってなかったの!?逆に!?」
「え!?あ、え・・・と。あの。」
もう少し最近かと思ってた私は完全に出鼻を挫かれてあたふたしてしまう。
「え、と、ごめん。それで?何か言いたいことがあるんだよね?」
めぐみちゃんは優しく笑顔で話を戻してきてくれた。いつだってめぐみちゃんはそうやって私の話を聞いてくれる。そして私が話し始めるのを待っていてくれる。
「あ・・・うん。その。私は君島くんのことが好きで・・・めぐみちゃんは・・・その・・・。」
「うん。美奈。私は、美奈のこと応援してるからね!」
まるで最初から用意されていたように、その返答は早くて、
「え!?めぐみちゃん。・・・いいの?」
私は唐突な応援宣言に少しびっくりしてしまった。
「いいって、何が?」
「いや。その。めぐみちゃんは君島くんに、その、そういう気持ちはないのかな・・・って。」
めぐみちゃんは目をぱちくりとさせた後、私の方に近づいてきて、きゅっと抱きしめてくれた。
「美奈。・・・バカ。私は美奈と君島くんは、すごく合ってると思ってるよ。2人の邪魔する気なんかない。」
なんだかめぐみちゃんはそんなことを言ってくれるんじゃないかって、そんな気はしていたけれど、
「・・・うん。」
すごく温かくて、すごく優しくて。その温もりに浸ってしまっていいのかな。そんな考えを巡らせながら、だけど私にはっきりとした答えはまだなくて・・・。
そしたらめぐみちゃんは急にガバッと離れて、
「あ、ただ、今日のプールでは色々君島くんとお近づきになってしまってごめんって思ってるよ!あと!ウォータースライダーのあと、ちょっとハグとかされて!それも事故による流れみたいなもんだから!気にしないで!」
焦焦とまくし立ててきた。でも、めぐみちゃんの気遣いはすごく伝わってきた。
「めぐみちゃん。・・・ありがとう。大好きだよ。」
私は精一杯めぐみちゃんに感謝の思いを伝える。こんな気持ちで君島くんにもありがとうって言いたかったな。
「ちょっ!ちょっと!今日一番でキュンとしちゃったじゃない!もう1回抱きしめさせろー!」
そう言ってもう一度抱きしめられそうになる。
「だーめ!早く勉強しなきゃっ!ふふっ!」
私はそれを笑顔でピシャリと回避した。
「はーい。君島大先生にも怒られそうだしね!」
そう言って私たちは勉強に戻った。
君島くんはめぐみちゃんのこういうところを好きになったのかもしれないな。
・・・私じゃめぐみちゃんには敵わないよ。
窓の外に風鈴が飾ってあった。お母さんがつけてくれんだろう。だけれどその音が妙に煩く聴こえてしまった。