32
結局4人でビーチバレーを始めたんだけど、普段から運動していない私と君島くんは、30分もするとバテてしまって、プールサイドで休憩することにした。
何やらこの後ウォータースライダーに行きたいとめぐみちゃんが言い出したので、とてもじゃないけれどひと休みしないと体が持ちそうにないもの。
めぐみちゃんと工藤くんの2人はというと、動き足りないのでしばらく泳ぐそうで、めぐみちゃんが
「30分くらい泳いでるから、気にしないで2人で待ってて!」
と言って工藤くんを連れて行ってしまった。
残された2人は、パラソルの下に座ってぼんやりとプールを眺めていた。
15分くらいはそうしていただろうか。なんだか、ここに着いてから君島くん、様子が変だな。何が変かはっきりとは言えないけれど、いつもより明らかに口数は少ないと思う。
確かに君島くんはおしゃべりな方ではないし、私もどちらかというと無口、とうか口べたな方だ。そんな2人が揃ったら、15分沈黙しているくらい、珍しいことではないかもしれない。
でも、15分という時間は、学校から魚ヶ崎駅までの、君島くんと帰る道のりの時間だ。今まで一緒に帰って、一言も話さなかったことなんてない。あきらかに、おかしい。
「ねえ、君島くん。」
私は思い切って口を開いた。
「ん?どうした?」
「今日。楽しい?」
あー。なんだか変な質問しちゃった。
「・・・。ああ。こんな経験はあまりないしな。どうしてそんなことを聞くのだ?」
「うん・・・と、何となく・・・かな?」
「高野は楽しくないのか?」
「え・・・と。私も楽しいかな・・・君島くんが楽しいなら。」
う・・・あ・・・何を言っちゃってるんだろう!私ったらっ!こんな大胆なこと!急に顔が熱くなってきてしまった。
「・・・高野。」
「はっ、はい!」
思わず声が上ずってしまった。
「あまりそういうことは言うものではないぞ。私が楽しいなら楽しいなどと、私が楽しくないなら楽しくないなど、高野はきちんと自分で感じたことを感じたように受け止めてくれればいいのだ。そこまで私のことを気にしてくれなくても大丈夫だ。」
別に怒っているわけではないけれど、君島くんに気を遣われたと思われたみたいだ。
「・・・あ。ごめんなさい。」
私、何をやってるんだろう。
プールの水面がゆらゆらと揺れていた。