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「ほら!美奈!行くよ!」
私はいつまでも恥ずかしがって動こうとしない美奈の背中を押した。
「うう・・・。やっぱり私、私服で皆が泳ぐの見てようかなって。」
「ここまで来て何言ってるの!」
私たちはとっくに水着に着替えて、君島くんと工藤くんと合流しようとしたんだけど、美奈は自分の水着姿を見て、完全にびびってしまっていた。
2人ともビキニタイプの水着を着ている。私は赤のビキニで美奈は白のビキニに水色のパレオがついたやつだ。
私はいつもこんな感じなので慣れているんだけど、美奈はここまで露出の多い格好は初めてなので、耐えられないみたい。
でも、朝のイメチェンした美奈を見た君島くんの反応を見る限り効果てきめんだったようなので、ここでさらに追い討ちをかけたい私は引き下がるつもりはなかった。
「美奈。大丈夫。すごくかわいいよ。もっと自分に自信持ちなさい。美奈は充分魅力的な女の子なんだから、それをもっと活かさないと。」
「う・・・うう。そういうこと言われるの・・・恥ずかしいってば。」
美奈は私の視線と言葉を受けて、さらに縮こまってしまう。まあそんなところもかわいいんだけど。
「君島くんに、見てもらうんでしょ?さっきだって、似合ってるって言ってもらって、嬉しかったんでしょ?」
美奈は視線を逸らしながら、こくんと頷いた。
「よし!じゃあおいで。一緒に行こう?」
そう言って手を伸ばすと、美奈も手を握ってくれた。
「おまたせー!」
ようやく美奈と手を繋ぎながら、お待ちかねの君島くんと工藤くんに声をかける。なんだか2人の雰囲気が一瞬おかしいような気がしたけど、ちょっと待たせすぎて心配させちゃったかな?
「おっ!おー!お前ら!遅いって・・・。」
私たちを見た工藤くんは言葉を失った。
・・・ぱたっ。
「ちょっ!ちょっと工藤くん!」
工藤くんは私たちを見るなりいきなりニヤケ顔でよだれを垂らしながら倒れちゃった。
「あー・・・ありがとう・・・。」
「だ・・・大丈夫かね・・・。」
「あの・・・椎名。」
気がつけば君島くんがすぐ隣にいた。振り向くと君島くんと目が合った。
「その・・・かわいい・・・と・・・思うぞ。」
「ふぇっ!?」
不意討ちで君島くんがそんなことを言うもんだから、そんなこと全く予想していなかったあたしは変な声を出してしまった。近くにいる美奈がびくっとなったのがわかった。
「あ・・・ありがと・・・。」
なんだろう。どうしよう・・・。なんだこれ?・・・美奈をフォローしなきゃとは思いつつも、私自身も若干頭がぐらぐらしちゃってうまく立ち回れない。
そうこうしているうちに、いつの間にか工藤くんが復活していた。
「よーしっ!まずはビーチバレーでもやろうぜ!」
「あ、ああ。そうだな。時間もそんなにないしな。せっかく来たのだからやろうではないか。」
そう言って君島くんはプールの方に歩いて行ってしまう。美奈もとぼとぼとついていこうとしているところに工藤くんが美奈に追いついて言った。
「あの。高野。めちゃくちゃかわいいぜ!水着もすげー似合ってる!」
美奈はちょっと驚いた顔をした。
「あ、うん。ありがとう。工藤くん。」
美奈。ごめん。私も結局ただの高校生の女の子なんだ。何気ない一言に、浮かれてしまったり舞い上がってしまったり、言ったことと違うことをしてしまったり、思ったようにいかなかったり。みんな色んな想いや考えの中で行動してるから、そんなの当たり前なんだよね。
プールサイドを裸足で歩く音は、ペタペタと小気味いいものなのだった。