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私は夢を見ていた。
まだ小さかった頃の夢。
どこかわからない家の中で、私の知らない男の人とお母さんが言い合いをしている。
私は隣の部屋でおもちゃに囲まれて、その言い合いが終わるのを願って、両手で耳を塞いでいる。
いやだ・・・くるしい・・・なんでおかあさんあんなにおこってるの?・・・わたしいいこにするから・・・けんかしないで・・・。おかたづけもちゃんとするし・・・だいきらいなピーマンものこさずたべるから・・・だから・・・みんなでなかよくくらそうよ・・・。
突然部屋の中にお母さんが勢いよく入ってきて私を抱えながら家から飛び出した。
その男の人は私の顔を見て、悲しいような、申し訳ないような、・・・そんな表情をした気がした。
いやだ・・・いやだ・・・。つれていかないで・・・。
私は泣き叫んでその人を呼んだ。
「-----っ!」
左手をその人の方へ伸ばして、伸ばして、でも届かなくて。
どうしようもなく悲しくて、苦しくて・・・。
ふいにその手が温かく握られた。