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私のわがままな自己主張(プロット)  作者: とみQ
第2章 私はこんな関係にはなりたくないのである
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6月4日


週が明けて、月曜日。今週は木曜日と金曜日にいよいよ球技大会がある。私はスポーツをあまりやらないので、私にとっては体育祭の次くらいにやっかいな行事だが、まあそれでも学校の行事は行事なので、真面目には取り組もうと思う。


今日は珍しく椎名が学校を休んでいた。一昨日の帰りに雨の中自転車で帰ったのが原因だろうか。


椎名がいないので朝の挨拶はなかったが、代わりというかなんというか、高野が私におはようと言ってきた。その後教室に入ってきた工藤も高野と私に挨拶してきた。


一昨日皆で食事をして、映画を観て、工藤と高野は仲良くなったのだろうか。まあそういうことは考えないようにしているが。


それにしても、あまり普段自分から会話をしない私にも朝から挨拶するようなクラスメイトができたのかと思うと、なんだか不思議な気持ちになった。


恥ずかしいというかむず痒いというか。いずれにせよそんなに悪くはない気持ちではあった。


放課後、図書室でカウンター業務をしている時。


「君島くん。今日終わってから時間あるかな?」


高野が急にそんなことを言う。


「私はいつも放課後は時間を空けているぞ?宿題も勉強もあるしな。」


「あの。よかったらめぐみちゃんのお見舞いに一緒に行ってくれないかな?」




という事で、今私は椎名の家の前にいる。椎名の家は一昨日行ったショッピングモールから歩いて15分くらいのところにある2階建ての木造のアパートだった。入り口に『あさひ荘』と書かれており、壁も塗装が剥がれており、築年数20年以上は建っていそうなボロ屋だった。


「ここの2階の右側の部屋だと思う。」


高野が携帯の地図アプリを見ながら言った。


石造りの階段を上がると1メートル四方くらいのスペースがあり、右と左にそれぞれ扉があった。右側の扉の上部に『椎名』と手書きで書かれた表札があった。

扉の右側に丸いブザーのようなボタンがあったので高野がそれを押すとブーッという音が鳴った。


2秒くらい鳴らしたが、返事はなかった。


もう1度鳴らしてみても返事がなかったので帰ろうかとも思ったが、せっかく来たので念のためドアノブだけ回してみたら、カチャリ、と音がして扉は奥に動いていった。


「開いて・・・るね。」


高野がそうっと中を覗きこんだ。高野の頭の上から私からも家の中が見えた。


中はすぐフローリングのリビングになっていて六畳くらいの広さの部屋にさらにキッチンと風呂トイレが付いており、奥にに襖に隔てられた部屋がもう1つあるようだ。


1DKという造りだろうか。

襖が15センチ程開いており、奥の部屋に布団が見えて、布団が微かに上下していた。


椎名か?急に動悸が激しくなった。


「めぐみちゃん・・・寝てるみたいだね。」


「高野。勝手に入ってはさすがに駄目だろう。寝ているならそっとしておこう。」


「そうだね。あ、学校のノートだけ置いて、後でメールしておこうかな。」


「そうだな。」


高野は今日の授業のノートのコピーを玄関に置いて、扉を閉めようとした。


「ごほんっ!ごほんっ!・・・ううっ!・・・はあ・・・はあ・・・。」


奥から椎名の苦しそうな声が聞こえてきた。


「大丈夫かな。他に誰もいないみたいだし。前にめぐみちゃんが言ってたんだけど、お母さんと2人暮らしらしくて、お母さん早く帰って来ればいいけど。ちょっと私、様子だけ見てくるよ。」


「あ、おい。」


そう言って高野は襖の奥の部屋に入って行った。

しばらくしてから中で高野の声がした。


「君島くん!すごい熱だよ!ちょっと来て!」


私も後ろめたい気持ちはあったが心配なので部屋に上がってしまった。部屋に入ると椎名は苦しそうな表情で大汗をかいており、息を切らしてうなされていた。


高野は私と入れ替わるようにしてリビングに行き、冷蔵庫の中を見始めた。

やっていることは不法進入だが、椎名が心配なのだろう。


しばらくすると氷をタオルにくるんだものと洗面器を持ってきた。


「君島くん!悪いんだけどそれでめぐみちゃんのおでこを冷やしてあげて!私、薬とお粥の材料でも買ってくるね!すぐ戻るから!」


「え?あ、おい!」


私の意見も聞かず、さっと出て行ってしまった。なんということだ。今家の人が帰ってきたらまずいぞ。

しかし、苦しそうな椎名をほっとく訳にもいかず、椎名のおでこにタオルを当てた。


「ん・・・。」


心臓がどくんと跳ねた。気がつくと椎名の唇を見ていて慌てて視線を逸らしてしまった。

しかし、さっきよりは息づかいも穏やかになった気がする。


私は部屋の空気を入れ換えようと、タオルをおでこに乗せて、窓を開けて部屋に置いてあった扇風機をつけて椎名に当てた。

6月は暦の上では夏なので、そろそろ暑さも出てくる頃だ。今は7時前だがそこまで涼しいわけではなかった。


椎名の隣に戻って1度溶けた氷を流すためタオルを絞ってまた椎名の額に当てた。


「すう・・・。」


少し落ち着いたか。相変わらず汗ばんでいるが息づかいは安らいだようだ。

それはそれで安心するが、今度はこの状況に対して冷や汗が流れた。

高野はどこまで行ったのか。近くにコンビニはあったが、スーパーや薬局だとショッピングモールまで行ったかもしれない。そうなると早くても30分くらいかかるのではないか?


どうするか。このまま帰ってしまって後でメールでもするか。待ち続けるのはどうにも気まずいな。


「う・・・ん」


その時椎名が寝返りを打ち、ショートパンツから健康的な左足が見え、左手が私の右手の上に乗ってしまった。


・・・。


動けないな。


動悸が一層早まる。顔が熱くなって私まで熱にうなされるような気持ちになった。


・・・。


そのまま私は椎名の左手をそっと握った。

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