18
映画を見終わって、ショッピングモールから外に出ると雨が降っていた。
私は朝から快晴だったからてっきり雨の心配なんてないと思っていたけれど、6月になって、そろそろ梅雨の時期なので、ちょっと迂闊だった。
「マジか!けっこう降ってんなー!」
隣を歩いている工藤くんが言った。なんだか工藤くんはショッピングモールでご飯を食べ始めた頃から私に色々声をかけてきてくれている。食べる時も隣に座っていて、好きな食べ物、とか趣味はなんだ?とか色々お話をした。
それは別にいいのだけれど、目の前でめぐみちゃんと君島くんが仲良くしているのを見てなんだか落ちつかなかった。
少し歩いて自転車置き場に着いた。
「じゃあそろそろ行くか!」
工藤くんが自転車にまたがった。
「じゃああたしたちは自転車だから、君島くん!美奈をちゃんと送っていってあげてね!」
「それくらいわかっている。ではな。」
とこれで今日は解散という時に工藤くんが「あっ!」と声をあげた。
「なあ。みんなせっかくなんだし番号交換しようぜ!」
と言って携帯電話をポケットから出しながら私の方に来た。
「え。あ・・・うん。別に・・・構わないけど。」
そう言って私も携帯電話を取り出した。
「あー。それもそうね!」
めぐみちゃんも戻ってきて、自転車を止めて、携帯電話を取り出す。
「君島くんのも知らないもんね!」
「ああ。だが、私はあまり携帯電話で連絡をする方ではないぞ?」
「何それ?感じわるぅーい!」
そう言って2人も交換をし出した。なんだか胸がちくんとした。
そうして皆の番号を改めて交換しあった後、本当に解散となった。
「高野。では行くか。」
君島くんが声をかけてきてくれた。
「う、うん。」
なんだかいつものように振る舞えなくなっていた。でも魚ヶ崎駅までだから、気づかれないようにしたい。そう思って歩いていたら、
「高野。傘は持っていないのか?」
私はぼうっとしていて駅までの道で雨に濡れながら歩いていた。
「あっ!あの!駅まですぐだから!いいかなって!」
そう言って私は駅まで走ってしまった。50メートルくらいの距離だったけれど、何やってんだろう。
その後も会話らしい会話はしなかったけれど、幸い一駅の距離だったので、5分もかからなかった。
「そ、それじゃあ!君島くん!また学校でね!さよなら。」
まだ雨は降っていたけれど、傘を忘れたとも言えず、逃げるように立ち去ってしまった。
私、こんなことで、嫉妬して、落ち込んで、バカみたい・・・。
君島くんがめぐみちゃんと仲良くしているのを見るだけで、胸がちくんとして苦しくなって、せっかくのお出かけだったのだからもっと君島くんとおしゃべりしたかったと強欲になって。
楽しかったこともたくさんあったのに、今はさっきのことで落ち込んでしまっている。本当に自分が嫌になる。
「高野。」
ふいに後ろから声をかけられてドキリとした。心臓が跳ね上がるかと思った。
「え・・・?君島くん?・・・なんで?」
君島くんは傘を差しのべてくれた。
「いや。さっきから様子が変だったのでな。傘もさっきの駅から全く差していなかったから忘れているのではないかと思ってな。」
「それで、追いかけて来てくれたの?」
「ああ。迷惑でなければ家まで送って行っても構わないか?」
「え?・・・うん。お願いしてもいいかな?」
「ああ。じゃあ行こう。もう遅いしな。最初から送って行くべきだったな。気づかなくてすまない。」
「そ、そんな!私の家、もうすぐそこだから!」
ああ。やっぱり君島くんは優しいなあ。たったそれだけのことだったけれど、さっきまで落ち込んでしまっていたことが嘘のように元気になれたのだった。
君島くんと家の前でお別れをして、中に入るとお父さんとお母さんがリビングにいた。
「お父さんお母さんただいま。」
「おお美奈。遅かったじゃないか。お父さんは心配したぞ。」
「お父さん。美奈のこの顔は男よ。ついに男ができたんだわ。」
「なっ!?なにぃっ!?美奈!本当か!?本当なのか!?」
なんだか帰ってくるなり賑やかな両親だなあ。
「もう!お母さんはすぐそういうこと言うんだから!やめてよ!お父さんが心配するじゃない!」
「あら。否定はしないのね。」
「美奈!早く否定しなさい!お父さんはまだ心の準備ができていないぞぉっ!?」
「はー。彼氏なんてまだできてま・せ・ん!もう行くよ!」
そう言って自分の部屋へと向かう。
「美奈!ちゃんとできたらお母さんたちに紹介するのよー。」
「・・・!」
ホントに変わった両親だなあ。と思いながらもすごく救われているのも事実だ。
ふと携帯電話に目をやると、メールが届いていた。めぐみちゃんと工藤くんからだ。
2人とも楽しかった、また行こうねという妙にテンションの高いメールだった。あの2人はなんとなく似てるなあと思いつつ、今日のお礼とまた行こうという内容を返信しておいた。
君島くんからはメールはなかったけれど、今はもうそんなことは特に気にならなかった。
ただ、自分から
『今日はありがとう。おやすみなさい。』
とだけ送っておいた。




