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6月2日
さあいよいよ今日はみんなでお出かけの日。
私は昨日緊張で最初眠れなかったのだけれど、思いきって君島くんに電話して、すごく楽しくて、電話を切ったあとすぐに眠ってしまった。
おかげで朝早く目覚めてしまい、午前中は暇をすごくもて余してしまったけど、ようやく待ち合わせの時間になった。
待ち合わせの5分前に駅に到着すると、君島くんはもう来ていた。
「君島くん。」
声をかけると振り向いて、挨拶してくれた。
「おお。高野。おはよう・・・というかもうこんにちはだな。」
「うん。なんかこんな時間から会うの初めてだから変な感じだね。」
私たちは駅に入りながら話始めた。
「そうだな。なんだかお昼からVIP登校という感じに思えなくもない。」
「ふふっ。私は少し罪悪感感じちゃうな。今日は特に朝のんびりしてたから。」
「そうか。昨日はよく眠れたようだな。」
昨日は寝る前に君島くんの声が聞きたくて。思いきって電話したら、私の話に付き合ってくれて、眠れずにいることを気遣うようなことも言ってもらえてとても満たされた気持ちになった。
「はい。おかげさまで。」
「ん?別に私は何もしていないが?少し電話で話しただけではないか。」
これはとぼけているのかな?照れ臭いのかな?
「うん。そうだね。でもなんとなく。ありがとう。」
「変なことを言うのだな。しかし、昨日は高野と初めて電話で会話したので、勝手が違って少し戸惑ってしまったな。」
「ん?どういうこと?」
「いや。声だけだと、高野が今どういう表情をしているかがわからないので、さっきの沈黙はどういうことなのかとか。もしかしたら起こらせたり困らせたりしたのではないかと思ったりしてな。」
そう言われると昨日は沈黙してしまったことも何度かあった気がする。基本的には照れていたんだけど。
「あ、そうなんだ。でも私って普段から表情とか変化が乏しい方だと思うから関係ないんじゃないかな?」
「ん?それはおかしいな。」
「え?どうして?」
「少なくとも私は高野がいつも色々な表情で喋るなと思っていたからだ。」
「え?そ・・・そうかな?」
そんなこと初めて言われた。
「うむ。今だってそうだぞ。微笑んだり、笑ったり、眉を寄せたり、首を傾げたり、目や口の動きが活発で、頬の筋肉もよく動いている。」
なんだか君島くんにそんなに自分の顔を、表情を見られていたのかと思うと途端に顔が熱くなった。そんな顔も見られているかと思うと歯止めがきかなくなってしまいそうだ。
「う・・・あの・・・あんまりそう言うこと言われると・・・恥ずかしいけど・・・。」
「あ!そ、そうか。そういうものか。いや、すまない。」
うあうう・・・まいっちゃうな。
そんなことを話しているうちに学校に到着した。
図書室に来ると私たちは向い合わせで席に着いた。
土曜日は図書委員が担当ではなく、図書委員の担当の先生が受け持っている。私たちは軽く挨拶したけれど、先生は特に何も言ってこなかった。
ひょっとしたらデートかとかからかわれたりするかとも思ったけど、ただの考えすぎだったみたい。
「高野。」
君島くんが席に着くと声をかけてきた。
「ん?どうしたの?」
図書室なので少し小声で話す。
「昨日言っていた数学の勉強を見てほしいというやつな。先にやろうと思うのだが。」
「あ、うん。わかったよ。」
そう思ってプリントを鞄から出して渡した。
「ここ・・・なんだけど。」
そう言ってプリントの3問目を指差す。
「ああ。わかった。高野。向い合わせでは教えずらいので、隣に座ってくれないか?」
「あ。そっか。」
向い合わせでは小声で話すのも難しい。気づかなかった。
私は改めて君島くんの隣に移動した。
そこから君島くんは問題の解き方について話し始めて・・・。
・・・。
丁寧に教えてくれてるのは嬉しいんだけど・・・。
・・・。
距離が近い!?
「・・・ということになるのだが。ここまでは大丈夫か?」
「えっ!?う、うん。それで?」
「でだな。・・・」
確かに小声で話さないと回りの人達の迷惑になるし、隣同士じゃないと、ここで勉強を教わるのが難しいのはわかるんだけど。君島くんのシャンプーの匂いや息づかいがかかりそうな距離で、全然話が頭に入ってこなかった。
けれど、君島くんはノートに計算式や説明を書き綴りながら教えてくれたので、それを見ればなんとか理解できそうだ。
私は最早いっぱいいっぱいだった。
それから問題を教えてもらってから更に2時間程勉強してそろそろ駅に向かおうと言うことになった。
学校を出る直前に他の2人も学校にいるなら一緒に行こうとメールでそれぞれ誘ったけれど、どうやら2人とも部活で汗をかいて着替えたいので一度家に帰っているとのことだった。
私たちはとことこと駅へ向かうのでした。