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私のわがままな自己主張(プロット)  作者: とみQ
第2章 私はこんな関係にはなりたくないのである
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6月1日


時間が過ぎるのは早いもので、いよいよ明日は工藤と高野と椎名の3人と出かける日だ。

暦の上では6月に入り、梅雨の時期となるので天候の方も気掛かりではあったが基本的には晴れ時々曇りという予報。私は安心なのか残念なのか何とも言えない微妙な心持ちで前日の夜を迎えていた。

机の椅子に腰掛けて、教科書とノートを広げながら勉強に向かうでも無く斜め上の天井を見つめながら物思いに耽る。

緊張していないと言えば嘘になる。

だが今回は四人での団体行動。椎名と二人きりで出掛けるというわで訳でも無いのでその辺は気楽だ。

そもそも当初の目的は工藤が高野とお近づきになりたいということなのだから、別に気張ってもしょうがない。


ただ先程工藤からメールがあり一言、『明日は気を回せよな!』という事であった。

誰かに気を回す。それは私が最も苦手とする行為だ。

しかも工藤と高野が話せる環境を作るとなると、必然的に私が椎名と話すタイミングを増やさなければならないという事だ。

そんな器用な事が私に出来るのであれば私の周りには普段からもっと多くの友人や知人で溢れているであろう。

その辺りの相手の人となりを見抜くという能力が工藤には欠如していると切に感じる。いや、そもそもそんな事は彼にとって些末で、特に不必要だと思える概念なのだろう。

そんな工藤の人となりに思慮を巡らせ、私は彼を恨む所かある種の羨ましさのような感情を抱いていた。

あんなに真っ直ぐに行動していける工藤は、きっとこの先も変に思い悩む事も無く、どんなにか楽しい日々を送っていけることだろう。


突然部屋の中に鈍い震動の音が鳴り響いた。

そこで私の思考は一時中断させられ、一瞬この音の出所に疑問だけが持ち上がる。

二度三度と一定のリズムで機械的な音が刻まれた所でようやくそれが携帯電話の着信を知らせるものだという事に気づいた。

私は立ち上がりベッドに放り投げっぱなしにしていた携帯のディスプレイを覗き見る。

意外な夜中の電話。普段からこんな時間に誰かと電話するような習慣が無い私に取っては初めての出来事だった。

しかも相手はクラスメートの女の子。

だが私は思っていたよりも気持ちが昂る事も無く、冷静にディスプレイの画面に指を滑らせて電話に出た。


「はい。もしもし」


『あの・・・高野ですけど・・・君島くんいらっしゃいますでしょうか?』


「高野、これは私の携帯だ。私以外が出る筈も無いぞ」


『あっ!そ、そうだよね!私ったら!ごめんなさい!』


焦る高野。緊張しているのだろうか。

電話越しに聞こえる声はいつもの彼女とは別人のように聞こえる。だが電話越しに聞こえてくる彼女の息づかいや間の取り方、電話越しに変な話かもしれないが醸し出される空気感はいつも接している彼女そのものであった。

だからだろうか。番号を交換してから初めてのこの電話も、私はいつも通りの調子で話す事が出来た。


「高野。それで、こんな時間にどうしたのだ?珍しいものだな」


『あ、いや、そのー。明日楽しみだね・・・て。もう寝るとこだった?』


「いや。まだ少し勉強してから寝ようかと思っていたところだ。10時前だしな。」


6月の夜はまだ涼しい。夜勉強するには持ってこいの季節なのだ。


しかし高野は特に用があるわけではないのか?


『そっか。君島くんは勉強できるもんね。』


「いや、できるというか、特にやることもないので基本的に空いた時間を学生の本分である勉強にあてているだけだぞ?普通だ。」


『そんなことないよ。この前の中間テストも学年で3番だったよね?そうやってコツコツ努力できるから、それが積もって大きな結果に繋がるんだと思う。』


「そうか?しかし、1日せいぜい1、2時間程度なんだがな。」


『・・・君島くん。あんまり謙遜されると嫌味になっちゃうのでそこまでにしてください。』


急に高野の声のトーンが下がった。不機嫌になってしまったのか?


「む。それもそうか。すまない。」


素直に謝っておこう。


『・・・ふふっ。冗談です。』


するとすぐに元の感じに戻って返してきた。なんだかこういう会話は珍しい。


「お。なんだか新鮮だな。」


『え?何が?』


「高野も冗談を言ったり笑ったりするのだな。」


『・・・。』


率直な意見をいったつもりだったがまずかったか?どうも電話越しだと相手の表情が見えないのでどう感じているのか察しにくい。


「・・・?。高野?どうしたのだ?」


『・・・えっと、・・・なんでもないよ。』


「そうか?ならいいのだが。」


高野は普段口数が少ない分表情が豊かなのかもしれない。それによって高野の心情を読み取って話していたのかと改めて気づかされた。


『あ、そう言えば明日は君島くん、駅まで私服で行くの?』


話が急に変わったが高野の心情が不確かだったので救われた気分だ。


「ああ。明日はせっかく学校の近くまで行くので、お昼過ぎに図書室で勉強をして、それから待ち合わせ場所に行こうと思っていてな。だから制服だな。」


『あ。そうなんだね。あの・・・それじゃあ。』


そう言って高野は少し間を置いて


『私も行っていいかな?』


「そうなのか。私は別に構わないが?」


なんだか最近高野との時間が増えた気もするが、どうせ夕方から約束があるのだし、ついでなので構わないかと思った。


『本当?あと、迷惑じゃなければなんだけど、今日出た数学のプリントでわからない所があって、そこ教えてもらってもいいかな?』


色々頼みごとも聞いてもらっているしそれぐらい聞いてもバチはあたらないだろう。


「ああ。構わないぞ。人に教えると自分も理解度が解って勉強になるしな。」


『そ、そう?ありがとう。じゃあ明日は1時くらいかな?』


「そうだな。じゃあ1時に駅で待ち合わせだな。」


『う、うん!なんかいきなり電話して、お勉強教えてもらう約束までしちゃって、ごめんね!?』


「いや。気にするな。明日は映画に付き合わせる形になってしまったしな。実を言うと映画を見たりするより図書室で勉強して過ごす方が落ち着くかもしれん。」


『・・・。そうなんだ。』


しまった!これだと明日行くのが嫌みたいではないか。


「あ、いや!別に嫌というわけではないぞ!?ただ、慣れていないだけでだなっ!?」


『・・・ふふっ。そんなに焦らなくても。・・・実は私もだったりするし。』


高野は思っていたより穏やかに返してくれた。


「う・・・あ?そうなのか・・・。では私たちはまんまと椎名に付き合わされる形になってしまったのだな?」


それが少しだけこそばゆくて、変なことを口走ってしまった。


『ふふっ・・・うん。そうかも。』


「では、明日は飲み物くらい椎名に奢ってもらうべきかもしれんな。」


なんだか子供みたいなことを言っているな。


『え?でもそれを言うなら言い出しっぺの君島くんも奢らないといけないんじゃないかな?』


「う・・・そうか。私が誘ったのだったな。ならば仕方ない。今回はこの話はなかったことにしよう。」


『なかったことにしちゃうんだ。』


「う・・・わかった。では高野にだけは奢ろうではないか。」


『え?いいよいいよ!そうゆうつもりじゃなかったから。それに私も勉強教えてもらうんだから、さらに奢ってもらうなんて悪いもん。』


「そうか。そうだな。・・・あ、なんだか話が逸れてしまったな。すまない。」


なんだかどんどん調子に乗ってどうでもいいような会話をしてしまった。


『ううん。楽しかったよ。・・・じゃあそろそろ切るね。』


「ああ。もう眠れそうなのか?」


『え?どういうこと?』


「最初明日楽しみだとか行っていたのでな。遠足の前の日は眠れないと言うではないか。」


『君島くん。』


「ん?」


『もう私今日はおなかいっぱいだよ。』


「ん?ん?」


長く喋りすぎたということか?やはりまずったのか?


『なんでもないよ。じゃあまた明日ね。』


「あ、ああ。」


『おやすみなさい。』


「ああ。おやすみ。」


なんだか最後はよくわからなかったが、ずいぶんと喋り込んでしまったな。電話で会話するというのは案外難しいものだな。


その後私は1時間程勉強して眠りについた。


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