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私のわがままな自己主張(プロット)  作者: とみQ
第2章 私はこんな関係にはなりたくないのである
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工藤はそのまま四階の校舎と校舎の間にある渡り廊下まで私を連れてきた。


学校の校舎は四階建てで三年生は四階に教室がある。向かいの校舎は図書室や視聴覚室、音楽室や理科室のある校舎で、テスト終わりに利用する生徒は少なく、今この場所は人通りもほとんど無い。他の者に聞かれたくない話をするには打ってつけだとは思うが裏を返せばそういう話だという事だ。一体何の話だろうか。何となく予想出来なくは無いが。


「あのー。君島。一つ確認しときたいんだが。」


工藤は徐に立ち止まりゆっくりとした動作で振り向いた。目を逸らし、人差し指で頬を掻いている。


「おまえ、本当に高野と付き合ったりはしてないんだよな?」


「ん?なんだ。まだ疑っていたのか?そんなことはないと言っただろう。」


やっぱりその話かと私は短いため息と共に答える。工藤は意外にしつこい奴なのだろうか。


「・・・そうか。でもけっこう仲はいいんだよな?一緒に帰るくらいだもんな?」


妙に引っ掛かる言い方だ。そんな言い方をされると仲がいいとは二つ返事では言いづらい。かと言って思い切り否定するのもこの場合却って怪しい気がするし。


「仲は悪くはないが、女子の知り合いの中では普通に話せる程度だが。そんなことを聞いてどうする?」


私はほんの少し思案した挙げ句、そういった文言で逃げ句のように告げる。とにかく今は本題を早く言ってほしい所だが。


「・・・そうか・・・。」


そう呟いたかと思うと工藤は今度はいきなり私の手をガバッと握り締める。反射的に仰け反ったが、運動部のキャプテンだけあって簡単に捕まってしまった。


「頼むっ!おまえを親友だと見込んで!高野とデートの約束を取り付けてくれないか!?」


「・・・は?・・・。」


いきなりの頼み事。しかも工藤の顔がやたら近い。私は内心困惑し、間抜けな声を返してしまう。そんな私の心境など知りもしないという風に二の句を告げていく。


「俺っ、高野のことが好きになっちまったみたいなんだよ!」


「いや、待て待て。なんでいきなりそんなことになった。」


「いや、だからっ・・・」


そうして問いただしてみると、話はこんな感じだ。

昨日のテストの合間の休み時間、工藤がトイレに行った時に、女子トイレから出てくる高野とうっかりぶつかったのだと。その拍子に転倒して二人倒れてしまった。高野はその時眼鏡を落とし、工藤は近距離で高野の素顔を目撃したと。どうやらその素顔に心奪われたようだ。


「初めて素顔を間近で見たんだけど、え?誰ってなって、その時こう頭からズキューンと稲妻が走ったわけよ!アイツ実はすんげーかわいいのなっ!しかもけっこう柔らかくてっ!いい匂いでさっ!・・・」


「ちょっと待て!それ以上は気持ち悪いぞ!」


どんどん発言がエスカレートしてきたので思わず静止した。これ以上工藤の話を聞いていると胸焼けを起こしそうだ。

工藤もそこでようやく居住まいを正し、冷静になったようだ。


「お、おほん!とにかくだ。俺は高野とそんなに面識がないからさ、共通の知り合いのお前が間を取り持ってくれないかって話だ」


「いや、どうして私がそんな面倒なことをしなければならないのだ。大体高野はそんなに面識のないおまえといきなりデートなんて行くわけがないだろう。まずは高野と普段から仲良くなるところからではないのか?」


高野は私の目から見てそんなに男の誘いにほいほいついていくようなタイプでは無い。それがただのクラスメート程度の仲ならば持っての外だ。


「う。それはそうかもしんねーけどよ。あー、じゃあわかった!最初は三人で行こーぜ!あ、なんならもう一人女の子誘ってさ、高野は確か椎名と仲が良かったよな!四人でダブルデートってのは言いすぎだが、親交を深める会しようぜ!」


「・・・。」


いやいや。話が進みすぎだろう。それに・・・正直うまく立ち回る自信がない・・・。

椎名の名前も飛び出して、私は生きた心地がしなかった。

ダブルデートだと?そんなもの、迷惑意外の何物でも無いだろう。


「おーい。君島さーん。聞いてんのかー?」


一人放心状態の依然顔が近い工藤が私の体を揺らす。この男はパーソナルスペースが近すぎではないだろうか。


「あ、ああ。いや!ダメだ!誘ってもおそらくうまく行けることになどならないだろう!とにかくもう諦めてくれ。私では役に立てない」


私は我に返り全力で否定するが、それでも工藤は引き下がらなかった。


「なー!頼むよ!君島!お前だけが頼りなんだ!一回誘うだけでいいから!それでだめなら俺もあきらめるよ!なっ!?このとおりっ!!」


めげすに再び私を拝みたおして食らいついてくる。私は長いため息をついた。


「・・・わかった。では一度誘うだけだぞ。それ以外は私は力になれないからな。」


「え!?まじか!?おまえ!実はホントにいいやつなんだな!わかった!助かるぜ!じゃあいい報告を待ってるからな!あ!言っとくけど言ったけど断られたって報告はすぐバレるからなっ!じゃあな!」


完全に断られると思っていたのか急に瞳を輝かせる工藤。やはり断っておけば良かったか。とは言ってもそんなものは最早後の祭りだ。

承諾した途端に工藤は風のように去って行った。

取り残された私はしばらくその場所に佇む。渡り廊下の風は普段なら心地いいのだろうが、今の私には嵐の前の曇天に吹き荒ぶそれのように感じられた。


こんな事を約束して本当に良かったのだろうか。

万が一行く事になんかなったらどうするのか。

もっと全力で断るべきだったのかもしれない。


次から次へと湧いてくる疑問符達はそれでも胸を締め付けるばかりでは無かった。この感情の正体は私にも解る。けれど私は絶対にそれを認める事などしない。

時間の区切りを告げるチャイムが鳴り自然と思考が現実へと戻される。

私はとぼとぼと校門までの道のりを歩いた。


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