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私のわがままな自己主張(プロット)  作者: とみQ
第1章 私はわがままな人間にはなりたくないのである
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わがまま・・・他人の都合を考えず、自分の都合だけを考えて行動する・こと。


私はわがままにはなりたく無いのである。


いつでも、どんな時でも他人の都合を考え、配慮し、自分を律し、協調性のある人間になりたい。

なので、こんな気持ちは要らないのである。

こんな気持ちがあるから相手の都合を考えず、自分の気持ちだけを優先して行動したくなってしまうのだ。


しかしもちろんのことながら、私にも理性というものがある。

自分の思うがままに行動してしまうと、一体どうなってしまうのか、なんていう事は考えたくも無いのだが、とにかく行動に移すなんて事はしていない。

勿論する気も無い。

ではもうそれでいいではないか。

そんな問題は考えても無駄なだけである。

きれいさっぱり忘れてしまって学生の本分である勉強の一つもしていた方がよっぽど有意義だ。


私も最初はそう思っていた。そしてそういう風に自己完結してしまって勉学に励めればどんなに良かった事か。

そうしようとこの一月程努めてきたのだが、全くもってうまくいかないのである。

心がざわついて何も手につかない。常に心が浮き足だっている。

私は一体どうしてしまったのか。


「君島くん、おっはよー!」


一人物思いに耽っていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

聞き覚えのある、とは何ともわざとらしい形容である。

実際私はその声を聞くだけでその心の全てを持っていかれ、体の神経や五感の至る所が彼女の方を向き、胸中全く穏やかで無い胸騒ぎにも似た淡くも激しい情動に駆られてしまっているのだから。


肩まで伸びた黒い艶のある髪。

制服のスカートの丈は少し短めで、白いすらっとした足が腿から膝下のあたりまで見えて、いつもそこに目がいってしまい、そんな不純な自分が嫌で慌てて逸らしてしまう。

目鼻立ちははっきりしている。そして快活な立ち姿がより一層可愛らしさを引き立てる。

彼女の存在を近くに感じるだけで鼓動は激しく脈打ち、早鐘を鳴らし続け、口の中が急速に渇いていく。

それでも私は、そんな穏やかさの欠片も無い胸の内を悟られないように、自身の有らん限り最大限の努力と一生懸命さを総動員して平静を装う事に努めるのだ。


「む。・・・なんだ、椎名か」


「むむ・・・。おっはよーっ!」


私の一見素っ気なく見える振る舞いに、負けじと眉間に皺を寄せ、おまけに私との距離を更に一層縮めてもう一度挨拶を強要してくる。彼女のパーソナルスペースは一体どれ程狭いのか。最早ミリ単位の計測で充分なのではないかと思ってしまう。私は全く上の空で生きた心地がしないのだ。

この少女は一体何と戦っているのか。何故こうまでして私に詰め寄る理由があろうか。

お願いだから私の事は構わず自分の席に戻ってくれ。


「・・・」


私は次の言葉が見つからず、沈黙を貫いてしまう。というかもう緊張を通り越して高校生の健全な男児としての性が私に言葉を出させなくした、と言った方が正しい。


「こらこら。無視するんじゃないの!せっかくわたしが朝から元気よく挨拶してるんだから、おはようの一つも返してよねー」


そんな私の胸中を全く意に介さないように椎名は尚も私に絡んでくる。そして私は依然として一流の俳優のように平静を装い続ける。


「いやいや、椎名。朝からそんなテンションで来られても、元々私が物静かな秀才だという事は承知の上だろう。いい加減普通に挨拶してはもらえないのか?」


沈黙を無視と取ってくれた椎名。その隙に更ににじり寄って来て捲し立てられて、それでも何とかその羞恥に抗うように、私は体を横に向ける事に成功する。

そうする事により、彼女が完全に視界から外れ、先程よりもほんの少しだけ冷静さを取り戻す。


「く、自分で秀才とか言っちゃう?否定出来ないのがくやしいんですけど!もういいよ!君島くんのばか!」


そう言って挨拶の件は話半ばでぷいっと自分の席へと歩いていってしまった。私はそれで安堵のため息を漏らした。未だ心臓はバクバクと早鐘を打ち続けている。


どうしてだ。

どうして私に構うのだ。

そして私はなぜこんな他愛もない会話に心を掻き乱されてしまっているのか。


こんな気持ちなど無用だ、不必要だ。

出来る事ならば、視界の片隅に映っているノートのように、間違えてしまったのならば、教室の隅のごみ箱にでも破り捨ててしまえたらいいのだが。

認めたくは無い。認めたくは無いのだが。

認めざるを得ない。私、君島隼人は椎名めぐみのことが好きなのだ。



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