間幕「その男は、頂きにて」
イフリア大陸のどこか。
大陸の全てを見渡せそうな高い山の頂き。
そこに彼はいた。
「ーーそれにしてもやっぱり、物語っていうのは自分の思い通りに進まないものだ」
山肌を撫でるように吹く、いかにも寒々しい風を背中で受けながら呆れるように深いため息を吐いたのは、大罪教の頂点、『大司教』フェルダーである。
帝都への奇襲作戦が惜しくも失敗してから一週間。いまだ子供のようにグレていた。
彼自身、あの計画は九分九厘で成功すると考えていたのだが……どうやら詰めが甘かったらしい。最後の最後で横槍が入った。
しかも、予想外なのが。
「そりゃあ、彼女が介入することが分かっていたら、僕自ら邪魔に入ったさ。……まあ、それで何秒保つかは知らないけど」
「ーーご謙遜を」
そう言って口を出したのは、フェルダーの背後に立つ謎の幼女だった。
幼女が何者かは定かではない。だが幼女が袖を通す鮮血色に染まったローブは、違えることなく大罪教の物だ。
そんな彼女の一言に、フェルダーは疑問を抱いた。
「何が謙遜なんだい?」
「貴方様は、人智を超えた我々ですら手の出せない存在。そんな貴方様が何秒かなどと……そんな冗談はーー」
「ーー冗談だと思うかい?」
いつもとは違う真面目な口調に、思わずふと面を上げる。
そこでようやく幼女はフェルダーの瞳を見た。そこに写っていたのは、偽りではなく誠の真意だ。表情もいつも通り柔和な微笑みを浮かべているのに、どこか哀愁が漂っている風にも感じる。
互いに言葉は発さない。無言による重圧と、真意のこもった眼差しが幼女の心に、刃を突き立てる。
「彼女はね、本物だ。僕や君のように上っ面だけ真似た贋作ではなく、真作だ。たとえどれだけ真作に迫ろうとも、僕達では彼らの一人にすら劣る」
何故なら、そこに真実は無いのだから。
「例えるなら僕らが模造刀で、彼女が本物の刀といった感じさ。どれだけ外見や質感を真似たとしても、『斬る』という点において模造刀は劣っている」
何故なら、そこに本質は無いのだから。
「どれだあけ完璧に見繕っても、所詮僕たちは模造型でしかないのさ」
「つまり、彼女が例の?」
「ああ、そうさ」
「不死の雌鹿さ」
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