第9話 エイン
盗賊団討伐の依頼は、複数のパーティーを組んで依頼を受けるのが普通である。
しかし、アマンとサロスには、その気が全くない。
なぜならば、単独パーティーで盗賊団討伐の依頼を達成した場合は、その貢献度の高さから特例があるためである。
単独パーティーには、Cランク課題1件分もしくはEランク課題2件分として認められる。
一気に課題を片付けたい2人だからこそ、この依頼を選んだのである。
「サロス様。こちらの依頼を受けられるということでよろしいですね?」
冒険者ギルドの受付嬢アーリンの確認にサロスは端的に応える。
「ああ、間違いない」
「では、他のパーティーの方に募集をかける準備を致しますので、しばらくお待ちください」
テキパキと話を進めるアーリンにアマンが割って入る。
「私たちは、単独でこの依頼を受けますので、その手続きは結構です」
アマンの言葉がいつものようにアーリンの笑顔を引き攣らせる。
「盗賊団討伐依頼の難易度は、ご存知ですよね?」
「ええ、もちろんです」
「…そうですよね。お2人のことですものね。分かりました。分かりましたよ」
語気が荒くなっているアーリンが、エイミーに問いかける。
「あなたもそれで大丈夫ですか?危険性を十分に理解していますか?
このお2人は、はっきり申し上げて規格外です。
しかも冒険者としての経験が少ない分、余計にたちが悪いです。
あなたは、その危険を分かっていますか?」
かなり失礼な言葉が混じり始めたアーリンの言葉に、エイミーが静かに頷く。
「…ぐっ!…承知…いたしました。
では、依頼者であるエインの町長への書類を作成しますので、少々お待ちください」
手続きをしてくれるということで、安堵するアマンとサロス。
しばらくして、アーリンから依頼達成書がアマンに手渡された。
「まず最初に、こちらを依頼者であるエインの町長に見せて依頼の着手を報告してください。
そして依頼が達成できましたら、この書類へ依頼者のサインをもらってください。
サイン入りの依頼達成書を冒険者ギルドが確認することで、依頼完了となります」
「わかりました」
「相手は低級な魔物と違って知性もあります。油断せず、くれぐれもお気をつけて」
なんだかんだで、面倒見の良いアーリンにアマンは感謝の言葉を返す。
「わかりました。ありがとうございます」
イボスの町を出た3人は、地図に従ってエインの町を目指す。
イボスからエインへは、街道に沿って半日も歩けば着く距離である。
街道周りの害獣も討伐依頼により駆除されており、エインには何の問題もなく辿り着くことができた。
日も暮れており、町長に会いに行くのは明日にして、まずは宿を探すことにした3人。
エインは小さな町である。
ほどなくして、中心部に1軒の宿屋を見つけた。
幸い部屋も空いており、ここで一泊することとなった。
「あんたら3人で旅かい?いまここらには盗賊団が出るからね。
南へ向かうときは気をつけるんだよ」
人当たりの良さそうな宿屋の女将が心配して声をかけてきた。
アマンとエイミーは、傍から見れば一般の旅人にしか見えない。
かろうじてサロスが駆け出しの冒険者に見える程度なのだ。
旅のために装備品を身に着けている若者たちと女将は思ったのであろう。
確かにアマンとサロスは駆け出しの冒険者である。
しかし、こと戦闘力に関しては、むしろ盗賊団が気の毒になるほどの高さがある。
アマンとサロスはお互いを見やり、自分たちの外見に苦笑いしつつ、部屋へと向かうのであった。
翌朝、女将から場所を聞いた町長の屋敷を訪ねる。
門番にとがめられるが、ギルドからの依頼書を見せると怪訝な顔をしながらも中へ通してくれた。
屋敷の応接に通された3人が、使用人に薦められたソファーへ腰をかける。
ほどなくして恰幅の良い男性が部屋に入ってきた。
しかし男性は、入り口の近くで驚いた顔をして固まってしまった。
「町長様でしょうか?」
アマンの言葉に正気を取り戻したように、男性が3人の座るソファーへ近寄ってくる。
「ああ、私がエインの町の町長をしているギスカーだ」
「盗賊団を討伐する依頼着手の報告をしに来た」
サロスの言葉に怪訝な顔を浮かべるギスカー。
「君たちが依頼を受けたのか?冒険者ギルドは何を考えているんだ?
こんな若者たちをみすみす死なせるわけにはいかん」
ギスカーの言葉に、苦笑いを浮かべながらアマンが応える。
「外見は頼りなく見えるかもしれませんが、ギルドに依頼を受けた冒険者です。
ギルドカードをお見せしましょうか?」
そういって、自分のギルドカードを見せる。
ギスカーは疑わしげな顔でギルドカードに目を落とすが、冒険者レベルを見て驚愕の表情を浮かべる。
「これは何かの間違いではないのか?レベル57!?
上級冒険者並みのレベルじゃないか…。にわかには信じられん」
「正真正銘、本物の冒険者だ」
サロスも自分のギルドカードを見せる。
「君もレベル55だと?」
「ご納得いただけましたか?」
アマンの問いかけに、まだ驚きの表情を浮かべていたギスカーであった。
「とりあえず座ったらどうだ?」
サロスの言葉に、ようやく我に返ったギスカーがソファーに座る。
「このレベルが本物なら、これほど心強いことはない。
…しかし、本当に大丈夫なのか?」
「ご心配には及びません。盗賊団の者については、生死を問わないのでしたね?」
「ああ、中には冒険者くずれの強者もいるそうだ。無理に捕獲する必要はない」
「かしこまりました。では、盗賊団を討伐次第、またご報告に上がります」
そう言って立ち去る3人を呆けた様子でギスカーは見送るのであった。
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