第7話 新戦力
宿屋のベッドに朝日が差し込み、アマンとサロスはその眩しさに目を覚ます。
「おはようございます」
「おはよう、アマン。いよいよ、今日から第2階層だな」
「ええ、また討伐以外の依頼もありますが、がんばりましょう」
2人で笑顔を交わす。
身支度を整え、宿屋の1階で朝食をとろうと扉を開ける。
すると、そこには華奢な身体に鎧を纏い、真っ白な肌と長い金髪をしたエルフかと思うような美貌の少女が立っていた。
「どうしたのですか、エイミー?」
アマンが声をかける。
「お礼なら別に構わないぞ?困った時はお互い様だ」
サロスが笑いながら、そう言うがエイミーは首を横に振る。
アマンとサロスは困惑の表情を浮かべ、顔を見合わせる。
「もしかして、一緒に迷宮へ行きたいのですか?」
アマンの問いに、初めてうなづくエイミー。
「まあ、俺たちは構わないが…
昨日あんなことがあったばかりだし、少し休んでもいいんじゃないか?」
サロスの言葉には、静かに首を横に振る。
「私たちは今日から第2階層に潜りますが、構いませんか?」
アマンの確認に、エイミーがうなづく。
「まあ、本人が行きたいっていってるんだから、止める必要もないか」
「ええ、ランクDの冒険者ですし、なにかあっても私たちならカバーしてあげる余力もありますしね」
「よし、決まった!じゃあ、まずは朝飯だ!」
サロスの言葉を聞くと、エイミーはアマンを見つめる。
また顔が熱くなるのを感じながらも、アマンは優しく微笑み頷いた。
迷宮へ向かう途中。
3人で街中を歩いているのだが、エイミーはアマンの後ろを歩き、くっついて離れない。
「ずいぶんと懐かれたものだな」
笑いながらサロスがそういうと、アマンは耳が赤くなるのを自覚した。
迷宮に入ると、すぐに第2階層を目指す。
第1階層の最短距離を歩いたため、魔物との遭遇も3回ほどであった。
サロスが余裕をもって切り倒し、念のため右耳だけは回収しておいた。
エイミーとの取り決め…というよりもアマンの提案により、魔物の討伐金はエイミーの取り分を3分の2にしているからだ。
アマンとサロスは金に困っていないが、ランクアップのために魔物を倒す必要がある。
エイミーは既にランクDのため、第2階層で魔物を倒す必要はないが、金を持っていない。
第2階層を一緒に冒険するに当たり、それが互いに一番良いだろうというアマンの提案であった。
新たな階層への階段を見ると、通常の冒険者はこれから更に激しくなる冒険に武者震いと緊張を覚える。
しかし、アマンとサロスは何の感慨もなく、階段を降りていってしまった。
そんな異常な2人の姿もエイミーは特に気にしていない様子だった。
階段を降り、第2階層に到着する。
しばらく探索していると、アマンが魔物の気配を察知する。
「サロス、エイミー。あの曲がり角の先から魔物の集団が近づいています。
6体ほどでしょうか。足音から大型の魔物ではないようですが、注意してください」
「よし、早速お手合わせと願おうか」
サロスがニヤリと笑いながら、そう言うとエイミーもアマンに向かって頷く。
ほどなくして、アマンの言うとおりホブゴブリンの群れと遭遇する。
サロスとともにエイミーもホブゴブリンの群れに向かっていく。
サロスは相変わらず無人の野を行くかのように、ホブゴブリンを真っ二つにしながら進んでいく。
エイミーは速さを身上とした剣のようで、右に左にとフェイントをかけながら、丁寧に1体づつ倒していく。
あっという間にホブゴブリンの群れを倒した2人の後からアマンが追いついてきて、ため息をつきながら右耳を収集していく。
それを見たエイミーも一緒になって右耳を切り取っていく。
「ずいぶんと仲が良いな」
サロスがそう茶化すと、アマンが顔を赤くしながら反論する。
「だったら、サロスも手伝ってください」
そうは言うものの、6体しかいないので2人で早々に切り取り終わる。
エイミーから差し出された耳を受け取るときに、アマンはドギマギする不思議な感覚に襲われていた。
そんなアマンの様子を微笑みながら、サロスは眺めていた。
エイミーは冒険者ランクD、冒険者レベルが28である。
この数値は、2人に比べると大したことのないように見えるが、一般的には場慣れした中堅どころの立派な冒険者といえる。
エイミーにとっても第2階層は苦にならないレベルであったため、昨日よりも早いペースで魔物を倒していった。
2時間ほどで第2階層の魔物50体を倒した3人は、冒険者ギルドへ向かうことにした。
冒険者ギルドの扉をくぐると、まだ昼前ということもあり中は閑散としていた。
したがって、3人の姿はアーリンに一発で見つかる。
「アマン様!サロス様!」
諦め顔の2人は、それ以上アーリンが大声を出さないように、そちらに行くという意味で手を軽く上げる。
「討伐した魔物の確認をお願いします」
アマンがカウンターの上に腰袋を乗せる。
一瞬、アーリンの笑顔が引き攣ったが、2人の存在を別物として念頭にいれたアーリンは営業用の笑顔を保持する。
「確認しますので、少々お待ちください。討伐記録を更新するのでギルドカードをお預かりします」
アマンとサロスがギルドカードを渡すと、アーリンが小声で話しかける。
「昨日の件でギルド長がお話を聞きたいそうです。ちょうど、皆さんでおいでくださって助かりました。
お待ちの間にギルド長に会っていただけませんか?」
「特に問題ありませんよ」
アマンの返答に笑顔を返すアーリン。
「では、あちらからカウンターの中にお入りください。
お部屋までご案内致します」
カウンターの中に入るのは違和感があったが、言われるがままアーリンの後をついていく3人。
奥の階段を昇り、古めかしい扉の前まで案内される。
「ギルド長。昨日報告した冒険者の方々をお連れ致しました」
「そうか、中へ入ってくれ」
部屋の中から野太い声が聞こえてきた。
アーリンが扉を開き、3人を中へ招き入れる。
そのまま一礼して、扉を閉めたアーリンが去っていく。
部屋の中には、現役の高ランク冒険者といった様子の大柄な男性が執務机に座っていた。
「わざわざ、すまないな。そこのソファーに座ってくれ」
強面の顔に精悍な笑顔を浮かべ、そう言う。
3人がソファーに座ると、男性も向かいのソファーに腰をかけた。
「俺が、イボスの冒険者ギルドでギルド長をしているコンガスだ。
早速で悪いが、昨日の件について聞きたいことがある」
コンガスは笑顔を浮かべながらも、その鋭い視線で3人を観察するのであった。
次回は11/9に更新予定です