第6話 コカトリス
金髪の少女は、バスターソード1本でコカトリスを相手に善戦していた。
しかし、そのままではコカトリスを倒すことができないことも見て取れた。
サロスは、金髪の少女が力尽きる前にコカトリスへと向かう。
その気配に気づいたのか、コカトリスは前足を大きく振るい、少女を吹き飛ばしサロスのほうへ向きを変えた。
アマンは、吹き飛ばされた少女に近づき無事か確かめる。
倒れこんだ少女を抱き起こすと、その華奢な身体に驚くと共に、アマンの気持ちが少しざわめいた。
「大丈夫ですか?」
アマンの問いに対して、少女はアマンの瞳を真正面からじっと見つめ、やがて小さく頷いた。
少女に見つめられたアマンは、どこか落ち着かない気分になった。
「コカトリスは私たちが相手をします。少し下がって、休んでいてください」
アマンは少女の手を引いて、安全な場所まで連れて行く。
そのアマンの顔は少し赤みを帯びていた。
少女を安全な距離まで連れて行くとアマンは杖を構え、コカトリスの様子を見る。
サロスは、危なげもなくコカトリスの前足の振り下ろしをいなし、突かれた嘴を剣で弾く。
サロスの様子に安心したアマンだが、援護のために魔法を唱える。
「「アイシクル・ランス《氷槍》」
アマンの前方に氷の槍が1本出現し、そのまま高速でコカトリスへ飛んでいく。
氷の槍はコカトリスの左から胴体に突き刺さる。
突然の痛みにコカトリスが怒りの声を上げるが、その隙にコカトリスの右側から背後をとるサロス。
目の前で暴れる蛇でできた尻尾を一刀で斬りおとす。
サロスの一撃を受け、コカトリスが後ろを向こうとするとアマンの放った火球の魔法が後頭部で爆ぜる。
自らの頭が炎に包まれ暴れだすコカトリスだったが、敵から意識が離れてしまった。
そんな隙を逃さず、サロスが冷静にその首を斬り落とした。
アマンは、サロスの無事を確認すると安堵のため息をもらしつつ、傍らの少女の方へも目を向ける。
すると、少女はコカトリスのことなど無視して、じっとアマンを見ていたことに気づく。
再び目線が交わり、アマンは自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
2人が黙って見詰め合っていると、コカトリスの討伐証明である鶏冠を切り取ったサロスが近づいてくる。
「おい、そっちは大丈夫だったか?」
慌ててサロスに向き直り、返答するアマン。
「ええ、大きな怪我はないようです」
「そうか。パーティーのメンバーのことは残念だったが、無事で良かったな」
「私たちも、これから冒険者ギルドへ帰るところです。
よろしければ迷宮の外までご一緒しましょう」
アマンの問いかけに、少女が小さく頷く。
「俺はサロス、こっちはアマン。お前はなんて呼べばいい?」
サロスの問いかけに、少女はギルドカードを目の前にかざす。
「エイミーか。よろしくな、エイミー」
サロスが精悍に笑いかける。
「よろしくお願いします、エイミーさん」
挨拶をしたアマンの瞳をまたじっと見つめるエイミー。
アマンは、また顔を赤くしてしまう。
「ほお、冒険者ランクDの『戦士』か。見かけによらず強いんだな」
サロスはギルドカードを見て、そう声をかける。
「その華奢な身体で、戦士ですか…」
アマンは、そう言いながら、先ほど抱き起こした時のエイミーの感触を思い出し赤面する。
「と…とにかく、エイミーさんも心情的に大変でしょうから、早く迷宮から出ましょう」
慌てて言うアマンを不思議そうに見つめるエイミー。
サロスは、アマンに同意の声をかける。
「そうだな。早く戻ろう」
迷宮から帰還する際に魔物との遭遇もなく、無事外へ出た3人。
「俺たちは、これから冒険者ギルドへ行くが一緒に行くか?」
サロスの問いかけに、エイミーがうなづく。
「では、参りましょう」
アマンが少し嬉しそうな様子なので、サロスは首をかしげた。
3人で冒険者ギルドの扉をくぐると、目ざとくアーリンが目線を向けてくる。
騒がれたくないアマンとサロスは、アーリンに向かって歩いていく。
「お疲れ様でした。アマン様、サロス様。そちらの方は、新しいパーティーメンバーの方ですか?」
「いや、魔物に襲われたパーティーが全滅したみたいでな。
この子が1人で戦ってたんで、助太刀したってところだ」
サロスの言葉にアーリンが悲しそうな顔をする。
「そうでしたか…。大変でしたね。でも、命が助かっただけでも幸いと思いましょう」
アーリンの励ましに、特に表情も変えず、うなづくエイミー。
「しかし、おかしな状況だったんです」
アマンの言葉に首を傾げるアーリン。
「おかしな状況とは?」
「この子たちを襲っていたのはコカトリスだったんだ」
サロスの言葉にアーリンは眉をひそめる。
「アマン様、サロス様!まだ第3階層に行くのは規則違反ですよ!
確かにお2人なら問題ないのでしょうが、決まりは決まりです!」
「いえ、私たちはきちんと第1階層で課題に取り組んでいました」
そういって、ギルドカードを見せるアマン。
「あれ?確かに第1階層より下に行った形跡がありませんね?」
混乱するアーリンにサロスが説明する。
「だから、第1階層でコカトリスが暴れてたんだよ」
「えーーー!!!そんな、馬鹿な!!!
コカトリスが結界をくぐってこれるわけが…」
驚くアーリンに、コカトリスの鶏冠を見せる。
「これは本当にコカトリスのものですね…
お2人が嘘をつくとも思えませんし…
…わかりました…この件はギルド長に至急報告致します。
そこで、お願いがあるのですが…」
「なんだ?」
「この件は、まだ口外しないでいただけませんか?
被害が出ないよう対処は致しますが、無用な混乱は避けたいので」
「なるほど、わかりました」
「とりあえず、俺たちはランクアップの手続きをしたんだが」
「かしこまりました。代わりの担当を呼んで参りますので、少々お待ちください。
私は、これからギルド長のところへ行ってまいります。では、失礼致します」
そう言って、駆け出していくアーリン。
しばらく待つと、見慣れない受付嬢が代わりに手続きを進めてくれた。
更新されたギルドカードを確認する2人。
「ようやくランクEか」
「これでようやく第2階層へ行けますね」
「まあ、まだまだアマンの右耳係は続くだろうけどな」
そう言って笑うサロスを憮然とした顔で見返すアマン。
「それで、お前はどうする?常宿はあるのか?」
そうサロスは尋ねるが、首を横に振るエイミー。
「お金は持っていますか?」
アマンの問いにも、首を横に振るエイミー。
「他のパーティーメンバーがお金を管理していたんですかね…」
「なあ、別に金に困ってるわけじゃないし、宿代くらい出してやらないか?」
「ええ、もちろん構いませんが…エイミーさんはそれで良いですか?」
エイミーが頷いたのを見て、サロスが声を上げる。
「よし!しんみりするのは性に合わん。エイミー、今日は旨いものを食って飲んで、忘れよう!」
エイミーが瞳を見つめるので、アマンは優しくうなづく。
「では、宿に戻りましょう」
3人は、いつもの『夕暮れの子山羊亭』へと向かうのであった。
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