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第5話 異変

宿屋のベッドの中で、アマンは夢を見ていた。


前を歩く父に追いつこうと必死に走るアマン。


その小さな手足を必死に動かし、父の大きな背を追う。


しかし、その父の背中には少しも近づけない…



夜半過ぎ。


目を覚ましたアマンは、ベッドの中で身体を起こした。


かいた汗を布でふき取る。



ため息をひとつつくと、夢の中とは違う大きくなった自分の手を見つめるアマン。


父のことは尊敬している。


魔法使いとしても、人間としても、家族としても。


父は寡黙で温厚な人物だ。


激務の中でも、自分たち兄弟にも、もちろん母にも愛情を目一杯注いでくれる。


子どもながらに、そんな父に憧れた。



王立学院に入り、父がこの大陸で果たした役割を知った。


学院で知った父は、間違いなく稀代の大魔道師であった。


それを誇らしくも思った。



一番上の兄は、父の代わりにソーサリス公爵領の統治に奔走している。


二番目の兄は宮廷魔術団に入り、父の仕事を手伝っている。


では、自分は?



王立学院の卒業が近づくほど、自分の進むべき道を模索し悩んでいた。


そんな時、サロスが迷宮都市での冒険者生活へ誘ってくれた。


正直、自分の身の振り方を考える時間が欲しかったアマンは、サロスの誘いがありがたかった。



父の得た偉大な力は、冒険の中で得たものが多い。


アマンも、その知識を教えてもらっている。


例えば、速攻魔法と言われているソーサリス家の魔法の使い方だ。


これは父が冒険の最中に盟友となった老竜エルダードラゴンから教わった知識を活かしたものだ。


父は、その知識を活かし、様々な魔法を進化させている。


そんな父の一面も知っていたからか、冒険者になることにも抵抗はなかった。



ベッドサイドにある水差しから直接水を飲むと、アマンは再びベッドに横になり目を閉じた。



翌朝、アマンはサロスの声で起こされた。


「おい、アマン。そろそろ起きろ」


「ええ、おはようございます」


「あまり眠れなかったのか?」


「いえ、途中でちょっと起きただけですよ」


「それならいいんだが…。


なあ、ランクアップの件だが、次のランクEに上がるためには、また第1階層の魔物を2人で50体狩るんだよな」


「そうですね、また耳の切り取りです。でも、今度は期限が決まってますからね。


ランクアップに挑戦する申請をしてから1週間以内ですよ」


「まあ、楽勝だな。今回は依頼をこなさなくても良いってんだから助かる」


「昨日は、本当に大変でしたからね。初体験のことばかりでしたし」


「ちゃっちゃとランクEに上がっておこうや。だから早く着替えて申請しに行こう」


「分かりました。少々お待ちください」



身支度を整えた2人は宿屋を出て、冒険者ギルドへと向かう。


今日は非番なのか、アーリンの姿が見えない。


2人して安堵のため息をつきながら、他の受付嬢のところへ向かう。



「すまない。ランクEに上がるための挑戦申請をしたいんだが」


そう声をかけたサロスの美貌に見惚れていた受付嬢であったが、慌てて申請書類を出してくる。


「こちらに必要事項を御記載ください。本日申請ということですので、今日から1週間以内というのが期限となります」


2人が申請書類を書いていると、受付嬢が丁寧に補足説明をしてくれた。



申請が終わり、さっそく2人は迷宮へと向かう。


また大量の耳を切って持ち運ぶことを考え、少しアマンは憂鬱そうな顔をしていたが。



第1階層に降りると、見つけた魔物を次々とサロスが襲っていく。


この表現は、通常魔物側に使われるが、サロスの姿はまさに襲っていくと表現するのが正しいであろう。


ため息をつきながら、証明のために魔物の右耳を集めていくアマン。


前日同様、単調な作業が進んでいた。



目標の50体目の右耳を切り落としたのは、迷宮を訪れてから3時間程のことだった。


大きな腰袋をぶる提げたアマンは、やはり面白くなさそうな顔をしている。


そんなアマンに笑いながらサロスが話しかける。


「そんなにふてくされるなよ。とりあえず、これを持っていけば次のランクに上がれるんだ。


そうすれば、お前と2人で連携しなければならない魔物も出てくるって」



そう言って笑うサロスの声とは別の声をアマンが聞き取る。


急に表情が厳しくなったアマンを見て、サロスが怒らせてしまったかと焦る。


しかし、黙るように仕草を送るアマンを見て、すぐにサロスも状況を把握する。


『暗殺者』でもあるアマンは、索敵能力も非常に高いのだ。



「戦闘音が聞こえます。それも巨大な戦闘音です。


相手をしているのは…5人…6人というところでしょうか。


どうやら魔物のほうが優勢のようですね」


「パーティーが魔物に襲われてピンチというところか」


「ええ、おそらくそうでしょう。どうしますか?」


「もちろん!助けに行く!」


「でしょうね。では、こちらです。付いて来て下さい」


そう言って先導するアマンの足音や気配は完全に消されている。


アマンの静音動作サイレントムーブに関しては、『忍者』の域に達しているとサロスは思っている。



2ブロック先の曲がり角を左へ曲がり、次の曲がり角を今度は右に曲がる。


すると、そこには信じられない光景が広がっていた。



1人の少女が巨大な魔物と戦っている。


少女は戦士系の職業のようで、バスターソードを操り、切れ味の鋭い一撃を相手に与えていた。


しかし、相手が悪かった。


少女1人では、手に余る相手だったのだ。



「おい、あれはコカトリスじゃないか?!」


サロスの詰問に近い問いかけにアマンが応える。


「ええ、大きな鶏のようにも見えますが、尾が蛇になっていますからね。


コカトリスで間違いないと思います」


「講習では、第3階層以下で生息していると言っていたが?」


「そう言っていましたね。ただ、現実は目の前にいる。


どうしますか?逃げますか?」


「馬鹿言え、これ以上の被害者を出すわけにもいかないだろう。ここで倒す」


「わかりました」



サロスがこれ以上と言ったのには、訳があった。


先ほどまで戦っていたのであろう冒険者らしき者たちが5人、床に横たわっている。


皆、既に事切れているのが遠目でも分かったからだ。



アマンとサロスの静かな殺気が放たれ始める。


1人で戦う少女に加勢すべく、サロスは剣を構えなおし駆け出した。


アマンは杖を取り出し、その後から近づいていくのであった。

次回は11/2に更新を予定しております。

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