第4話 初依頼
冒険者ギルドを出ると、アマンとサロスはそのまま町の外へと出かける。
結局、2人が納得するような依頼はなく、まずは薬草採りの依頼を受けることにしたのであった。
薬草の群生地が記された地図を渡された2人は、町から程近い森の中に向かっていた。
もともとエルフの森であるため、魔力を宿した薬草は多く群生している。
しかし、冒険者たちの需要も高いため、薬草採りの依頼は常時出されているのであった。
地図に示された場所に辿り着くと、すぐに説明された薬草を見つける2人。
黙々と薬草を摘んでいく。
「俺は、こんなことをするために王城を出てきたわけではないんだがな…」
そうため息をつくサロス。
「仕方ないですよ。何事も順序というものがあるのでしょう」
依頼内容は、1人で薬草20本の採取である。
1時間もしないうちに薬草を摘み終わる。
やるせない表情のサロスが、アマンに声をかけようとしたが、すぐに目つきが鋭くなる。
と同時に、少し離れた草むらがざわざわと音を立て始める。
音はだんだんと2人に近づいてくる。
2人が警戒して身構えていると、草を掻き分けて大きな猪が現れた。
ただの獣であることが分かり、警戒を解く2人だが決して油断していたわけではない。
明らかな敵意を2人に向けている大猪に向かって、サロスが駆ける。
大猪は、サロスになにかを仕掛ける前に、その身体を2つに分けられていた。
お金に困っているわけでもないので、荷物になるだけの大猪の死体をそのままにして2人は町へ戻っていく。
先ほどくぐったばかりの冒険者ギルドの入り口を再び通り、今度は大声を上げられる前にアーリンの元へ向かう2人。
「依頼の薬草をとってきた。確認してくれ」
サロスがそう言うと、2人で摘んできた薬草をカウンターへ置く。
「ご無事でなによりです。最近、猪が出るという話だったので、少し心配だったんですよね」
アーリンがそう言うので、サロスが応える。
「ああ、1匹出たな。3mくらいだったか?」
「そうですね。その位の大きさでしたね」
アマンが相槌を打つと、アーリンは驚く。
「え?大猪が出たんですか?それはついてませんでしたね!
…いや、お2人ですもんね。大猪の方がついてなかったのか…」
失礼なことをさらっと言いながら、薬草を確認するアーリン。
騒がれたくない2人は、アーリンの言葉を聞き流すことにした。
「はい。確認がとれました。では、依頼達成の記録をつけておきますね」
「お願いします」
アマンはそう言うと、2人でまた依頼ボードへと向かう。
依頼ボードを眺めながら、サロスがアマンに声をかける。
「なあ、アマン。似たような依頼だし、どうせなら早く終わるものを優先して選ばないか?」
「そうですね。それが良いと思います」
2人の意見が一致したところで、再度依頼を見て回り、荷物運びの依頼を受けることにした。
商人の倉庫にある大樽を6つ運ぶという依頼だ。
依頼を受ける手続きを済ませると、そのまま依頼主の店へと向かう。
町は昼時だが、比較的閑散としている。
町の住民の多数を占める冒険者が、この時間迷宮に潜っていたり、町の外へ出ていたりするからである。
迷宮の中にいても、魔物は夜に活動が一番活発化するため、昼に迷宮に潜るのがセオリーとなっているのである。
ほどなくして目的の商店に辿り着き、依頼を受けた旨を伝えるとそのまま倉庫に案内される。
そこには高さが2mはある大きな樽がたくさん置いてあった。
「ここにある分の樽を店の裏へ運んでおくれ」
商人に詳細な依頼を聞くと、早速運び出す2人。
筋骨逞しいサロスはともかく、線の細いローブ姿のアマンまでも軽々と大樽を運ぶ姿に商人は驚きの声を上げる。
「あんた、そんな身体で良くもまあ…」
さっさと樽を運び終えると、完了のサインをもらう。
「仕事が早くて助かった。また頼むね」
そう声をかける商人に手を振って、2人は再び冒険者ギルドへと戻るのであった。
アマンとサロスは、この後、町の外にある泉から大樽で2つ分の水を汲み、野兎を10羽仕留め、木を2本切り倒して運んだ。
流石に最後の依頼報告を終えたときには日が暮れていた。
「おめでとうございます!これでお2人ともランクFに昇格ですね!
ただいま、ギルドカードを更新していますので、しばらくお待ちください」
2人は精神的にグッタリしており、近くにあったソファーに座りこむ。
「俺たち、今日1日、何してたんだろうな…」
サロスの問いかけにアマンは応える気力を失っていた。
2人がグッタリとソファーに座っている間に、ギルドカードの更新も無事終わった。
カードの内容を確認したが、冒険者ランクはFに変わっているものの、当然ステイタスに変化はなかった。
疲れと安堵のため息をつきつつ、2人は冒険者ギルドを後にして、宿屋へ帰っていくのであった。
次回は10/30に更新を予定しております。