表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/74

第3話 初級者

翌朝、アマンとサロスの姿は迷宮の第1階層にあった。



「さすがに邪魔になってきましたよ」


アマンの不満そうな声にサロスが返す。


「仕方ないだろう。ランクFへランクアップする条件の1つが第1階層にいる魔物の右耳25個なんだから」


「それは分かっています。あなたが動きづらくなっては意味がないので私の腰袋に入れるのも理解しています。


でも、2人分で50個ですよ?あと3匹倒せば条件を満たしますが、さすがに邪魔になってきたのですよ」


「まあ、そう言うな。あとちょっとだから我慢してくれ」


そう言って、前方を見るよう目線で促すサロス。



少し離れた曲がり角から、丁度ゴブリンの集団が現れたところだった。


ゴブリンたちも2人に気づき、うなり声を上げて寄ってくる。


サロスは、ニヤリと笑うとゴブリンたちに突っ込んでいった。



現れたゴブリンは5体。


知能の低さ故、連携など取れず、数の優位を活かせないままサロスに斬られていく。


森に分け入る猟師が雑草を薙ぎ払うかのように、傍から見ればのんびりと動いているように見える。


しかし、サロスの剣は次々と一撃でゴブリンの命を絶っていく。



ものの10秒ほどでゴブリンの集団を全滅させたサロスは、何事もなかったように振り返り笑う。


「アマン、これで目標達成だぞ」


アマンはため息をつきながら、右耳を3つ切り取った。


「今日、私はこの作業しかしていないのですが…」


「仕方ないだろう。これが1番効率が良いんだから」


そう言って、アマンの肩を叩きながら笑う。



「このまま、下の階層にも行ってみたいな」


「ダメですよ。ギルドカードが各階層の結界に触れた記録を残してしまいますからね。


ランクEになるまでは、第2階層へ行くだけでペナルティを課されてしまいますよ」


「分かっているさ。俺だって講習は聞いていたからな。


しかし、いつまでもこの階層にいては、お前も荷物運びだけだぞ?」



サロスの言葉にアマンが少し不満そうな顔をして返事をする。


「そう思うなら、少しは私に戦闘を任せてくれてもいいではないですか」


「悪かった、悪かった。せっかく課題を1つ達成したんだ。


さっそく冒険者ギルドへ行こう」


ごまかすように笑いながら、出口へと向かっていくサロス。


アマンもため息をつきながら、ついていくのであった。




冒険者ギルドの入り口をくぐると、2人の姿を目ざとく見つけた受付嬢のアーリンが声を上げる。


「アマン様!サロス様!


本日は、どのような御用ですか?」



「おい、アマン。俺たちの身分は知られていないよな?」


「ええ、正確には知られていないと思いますよ。


ただ、やはり私たちのステータスから王立学院を出ていると推察したのではないでしょうか?」


「なるほどな。基本的に王立学院は貴族が通うからな」


2人でこそこそと話していると、アーリンが大きく手を振って呼びかけてくる。


「アマン様~!サロス様~!」



2人は、周りの視線が集まるのが恥ずかしくて、慌ててアーリンの元へ向かう。


「すみません。あまり大声で呼びかけるのは恥ずかしいので控えてもらえませんか」


アマンの抗議にアーリンは涼しい顔で応える。


「だって、他の窓口に行かれてしまっては困りますから」


「はい?」


アマンの困惑した顔を見ながら、アーリンが続ける。


「私、お2人の専属受付になると決めたんです。


だから、他の窓口に行かれては困るのでお呼びしたのです」


「…そんなシステムは聞いていないが?」


サロスの疑問に、アーリンは事も無げに答える。


「ええ、ありません。でも、私が決めたんです!」



これは下手に逆らうと、また騒ぎになる。


目線でアマンに伝えるサロス。


アマンも困った顔をしながら、うなづく。



2人の様子を見て、納得してもらえたと思ったアーリンが再度尋ねる。


「それで本日は、どのような御用ですか?依頼をお探しですか?」


「いや、Fランクに上がるための課題を1つ完了した報告をしにきた」


「あれ?まだ依頼は受けていませんよね?」


「ええ、依頼を5件成功させるという課題は、これからする予定です。


もう1つの迷宮第1階層の魔物の討伐報告です」


「ああ、なるほど。そうでしたか。どの位、進みましたか?


お2人のことですから、もう20体くらいは倒してしまったとか?」


笑いながらアーリンが聞いてきたので、アマンはようやく邪魔だった腰袋を外しカウンターに乗せる。


「右耳50個です。ご確認ください」



アーリンの笑顔が今日も引き攣る。


「あの…。まだ昼前なんですけど?


昨夜から迷宮に潜られていたんですか?」


「いや、今朝になって向かったが?夕方に来たほうが良かったか?」


サロスの問いに、アーリンが堪えられなくなる。


「2、3時間で50体も魔物を倒してきたんすか!?


いや、お2人が強いのはわかりますよ?でも…でも早すぎでしょ!!


物事には限度ってもんがあるでしょ?!」


「いや…そう言われても…」


アマンとサロスが困った顔で互いを見やる。



その様子に我に返ったアーリン。


「…失礼しました。まだまだ私の認識が甘かったようです。


お2人の担当として、異常事態が起こる心構えをしていたつもりでしたが…くそっ」


最後に不穏な言葉が出たような気がした2人であったが、それを指摘する勇気はなかった。



「では、確認をさせていただきます。少々お時間をいただきますので、依頼ボードでも見てお待ちください」


「ああ、そうさせてもらう」



ようやく手続きに入ってもらえて、安心した2人はアーリンの言葉通り依頼ボードへと向かう。



「Gランクの依頼を5件か」


「そうですね。なにか良い依頼はありますかね?」


2人で依頼書を見て回る。



「おい、アマン…」


「はい…」


「ランクGって、冒険者として扱われているのか?」


「いえ、どうやら私たちが認識している冒険者としては扱われていないようですね…」



ランクGの冒険者とは、元々登録したばかりの一般人の集まりである。


そのため、依頼内容は薬草の収集や重い物の運搬などの雑務が主なものとなっている。


通常のランクG冒険者にとって、1番の難関が迷宮の魔物討伐である。


通常は1体づつ倒し、徐々に戦闘力を上げていくため、25体という課題設定がなされている。


この課題により、ランクGを卒業する冒険者は第1階層の魔物を1人で1体は確実に倒せるという認識となるわけである。



そんな事情が分からない2人は、雑務以外の依頼がないか必死に探すのであった。

ブックマーク登録していただき、誠にありがとうございます!


次回は10/28に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ