第2話 夕暮れの子山羊亭
イボスの町にある宿屋『夕暮れの子山羊亭』。
多くの冒険者が常宿にしているこの宿屋の1室に、今日冒険者となったばかりの青年が2人泊まっていた。
燦燦と輝く陽光にも劣らない輝く金髪に、黒く日焼けし鍛え上げられた肉体をもった獣人族の青年。
彼の名は、サロス・ロキ・コンコード。
コンコード姓を持つことから分かるように、彼は王族であった。
王位継承権第三位という現国王の第三王子である。
一緒にいる黒髪に少し尖った耳に特徴があるローブ姿の青年。
彼の名は、アマン・ソーサリス。
宮廷魔術団の団長を父とし、諜報部の部長を母とするソーサリス公爵家の次男である。
2人は同じ年に生まれ、共に王立学院で学んだ仲である。
また父親同士が親友ということもあり、兄弟のようにして育ってきた。
奇しくも、彼らの兄弟の中で両親の血をより濃く受け継いだのが、嫡男ではなく彼らだったという共通点もあった。
王立学院でも過去に類を見ない成績を上げた2人。
有能な仕官と目されていた彼らだったが、サロスは自らの力を試してみたいという気持ちを抑えられず出奔。
相談を受けていた親友アマンも、サロスの身を案じ一緒に冒険者となることを決めたのであった。
「初日から酷い目に遭いましたね、サロス」
「ああ、俺たちからすれば大したことはないのだが、どうやら大分驚かせてしまったようだな」
そう言って、2人で笑いあう。
笑いが収まるとサロスが真剣な顔で尋ねる。
「しかし、アマン。お前は本当にこれで良かったのか?
王城で研究しているほうが良かったのではないのか?」
「いいのですよ、サロス。
確かに王城での研究は魅力的ですが、君を1人で行かせてしまっては折角の研究にも没頭できませんからね」
「巻き込んでしまって、すまないな」
「自分で決めたことですから、気にしないでください」
そう言って、アマンは優しく微笑む。
コンコード王国の仕官は、王立学院を卒業しなければならない。
仕官候補生は一般職員と異なり、魔法の水晶球によって学生時代に伸ばしたステイタスを判定される。
具体的には、数値としてのステータスとそれに影響され発生する属性が示される。
属性が判定されると、その属性に見合った配属先が決まるという仕組みである。
これまで属性は仕官のみが持っており、一般職員はもちろん、一般人は持っていないとされていた。
もちろん、属性を得るためには様々な訓練によりステイタスを伸ばす必要があるため、特殊な環境にいない限りは事実そうだったのかもしれない。
しかし、それを覆す存在が現れる。
---迷宮
精霊を封じていた魔石の暴走により生み出される魔物を封じるために建造された迷宮。
この迷宮へ魔物の討伐に向かう者たちが現れ始めたのである。
彼らは、魔物から得られる素材やドロップアイテムと呼ばれる偶然魔物を作り出した魔力が変質した様々なアイテムを求めて、迷宮へ挑戦するようになった。
魔物の素材やドロップアイテムを売却し、生計を立てることが可能だからである。
魔物の素材は、魔法薬や武器防具などの素材として利用されることから、一般的には売却することが多い。
ドロップアイテムは、その出現率の低さとアイテムの質の高さから高値で売却することもできるが、武器防具などのドロップアイテムについては、そのまま装備する者が多かった。
こうして、魔物を討伐していくことを生業としていったため、ステイタスが上昇し潜在的に属性を得る者が出始めたのである。
彼らは冒険者と呼ばれるようになり、やがてギルドを設立する。
国としても有能な人材が仕官してくる可能性もあるため、冒険者ギルドに協力している。
その1つが、判定の儀に使われる魔法の水晶球作成に関する情報の提供である。
これにより、冒険者ギルドでも独自にステータスなどを判定できるようになっていた。
ギルドは提供された知識をギルドカードというマジックアイテムに発展させる。
ギルドカードは、個人を判別することから身分証明にも使えるが、重要なのは能力の表示機能である。
現在のステイタスから、属性はもちろん、冒険者レベルや冒険者ランクなども表示される。
冒険者レベルは実際の戦闘能力を数値化したものであり、冒険者ランクはギルドや国への貢献度を表す。
ギルドからの依頼は冒険者ランクによって分けられているので、一般的にはレベルとランクは比例したものとなっていた。
討伐経験などを重ねていけば、貢献度が上がっていくと同時にステイタスも上がっていくからである。
レベルを上げていけば属性を得ることができるため、属性を得ることが一人前の冒険者として扱われる基準となっていた。
だが、アマンとサロスは一般の冒険者と違い、既に王立学院で様々なことを習得している。
しかも過去に例がないほどの優秀な成績で。
大陸の英雄の血を濃くひく2人である。
その結果が、この日の冒険者登録で騒ぎを起こしたのであった。
「まあ冒険者レベルはともかく、冒険者ランクを上げないと難易度の高い依頼も受けれないし、何より迷宮の深い階層への探索も許されない。
まずは今のランクにあった依頼をこなして、地道にランクを上げていくしかないな」
ベッドに寝転がり、欠伸をしながらサロスが言った言葉にアマンもうなづく。
「まだこの町に来て初日です。焦ることはありません。じっくりいきましょう」
そういうと、アマンは灯りを消して自分もベッドに入るのであった。
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