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86.狂信者のあとは癒されましょう

さて、迷宮教会というカルト集団と出くわしてしまった僕たちであったが、それ以外は特に問題はなく入り口まで戻ることができ、入り口前でサリアにクリーンの魔法をかけてもらってから、僕たちはようやく地上へと舞い戻る。


「やーっとでたー! つかれたよーウイルくーん」


「確かに、しかし成果は上々です、なんだかんだハッピーラビットも、依頼達成分は集まりましたからね」


サリアは凛とそう言い放つが、その顔には少しばかり疲労が見える。

シオンもティズは言うまでもなく疲れたという表情をしており、きっと僕もこんな顔をしているのだろうなと思う。


当然か、迷宮二階層東と北を一度に踏破をしたのだから。 


「今日は本当に疲れたからね、みんなお疲れさま」


そんなシオン達にねぎらいの言葉をかけ、迷宮から冒険者の道へと帰っていく冒険者たちの列に紛れて、最初はクリハバタイ商店を目指す。


「このカエル、一体いくらで売れるのかしらねぇ」


「魔法無効化の皮ですからね、盾等に刷り込ませれば魔法を受け付けない盾ができるかもしれません」


「なにそれすごいほしい」


魔法に対しては何の抵抗力もない戦士にとって、魔法無効化の盾などのどから手が出るほどほしい一品だ。


「まぁ、あくまで例えばですよ? 何が作れるかなんて、リリムに直接聞いてもみない限りは分かりませんし、ただ十二年間表に出ることのなかった素材ですので、騒動になるのは目に見えているでしょう」


案外簡単に倒してしまったために偉大さが分からないが、思えばこの魔物は十二年間無敗を誇り、同時に幻影で人々から身を隠し続けてきたため誰も知らない魔物なのだ……。


いまさらながら魔物好きとして、殺さずに飼育して生態を調べるべきだったという後悔が沸き上がる。


「まーた一財産稼いでしまうのかぁ」


ティズは幸せそうに蛇行飛行をし、僕の後頭部に衝突事故を起こす。


「ということは今日も宴会だね!!」


シオンはぴょんぴょんと嬉しそうに僕の周りを飛び跳ねる。


数時間前までカエルに浴びせられた泥がくさいと泣き言を言っていたのが嘘のようだ。


「元気ねぇ……この霧吹きガエルよりもよっぽどあんたの方がカエルらしいわよ?」


「げろげーろ? 私はとっても腹ペコなのでーす!」

ティズの軽口にシオンは本気でカエルの真似をして返す。 完全にみんな浮かれている。


「ふふふっ、では丸のみにされる前にさっさと換金を済ませてしまいましょうか」


「シオンガエルだぞー」


シオンはカエルの称号が気に入ったようで、ゲロゲロ言いながらクリハバタイ商店の前へとやってくる。


この時間帯のクリハバタイ商店は冒険者たちがこぞってアイテムの換金にやってくる。

そのため、各ブース合計十あるカウンターのうち九つをすべて買い取りカウンターへと変貌させる。


「わっわわわ!? 押さないで! 押さないで―! こっちですよー! ここまでの人は5番に行ってくださーい!」


「相変わらずねえここも」


扉をくぐると中は押すな押すなのすし詰め状態であり、各ブースの買い取りカウンターへと案内をするミルクさんがあわただしく似つかわしくない大声を必死にあげて、人々を誘導している。


「はわわ!? お客さんはこっちですよ~!? あ、だからお客さんはリリムさんの買い取りカウンターじゃないですって~!」


どうやら何が何でもリリムさんに会いたいという冒険者の人もいるようで、そんな困ったお客さんを相手にミルクさんは必死になって誘導を続けている。


「ぶっちゃけ人選ミスじゃないかしら」


そんな光景を見ながら、ティズはそんなことをいうが。


「いや、あれはあれでいいんだよティズ」


そう僕はティズの言葉を否定させてもらう。


「ほう、流石だねウイル君、して、その心は!」


どうやらシオンも僕の言わんとしていることを理解してくれたのか、瞳を輝かせてそう問うてくる。


ならばもはや答えは一つ。


「かわいいおっとりした女の子だからこそ、頑張っている姿は癒されるし! 応援したくなるじゃないか!」


「ウイル君!」


シオンは僕に手を差しのべ、迷わず僕はシオンの手を取る。


『かわいいは正義!』


シオンとの絆が、さらに深まった。

「……その、マスター……私にはよくわからないのですが」


「いいのよ、放っておきなさい……エロと馬鹿が移るから」


「しかしティズと同じというのも……」


「よーし言いたいことはよくわかった表出ろ筋肉エルフ」


「また最初から並びなおしになってしまいますが、何か忘れ物ですか?」


「むっきー!?」


「はーい、お待たせしましたぁ~」


奇妙な友情が結ばれ、ストリートファイトが勃発しそうになる直前に気が付けばミルクさんの声が近くで響き、僕たちは武器防具のカウンター……リリムさんのいるブースへと案内された。

                   ◇


「あ、ウイル君だー、おかえりなさーい」


「ただいまリリムさん」


運よくリリムさんの買い取りカウンターへと案内された僕らにリリムさんは笑顔で手を振って出迎えてくれる。


あれ? そういえば十人くらいがリリムさんのブースに一緒に案内されていたような気がするが、背後を振り返ると消えている……どこに行ったのだろうか。


「ちっ……ちゃっかり新婚気分か犬耳……」


何かティズからまたもやダークマターのようなものがこぼれだすが、とりあえず無視しておく。


「ちょーっと待っててねー、よいしょっと」


リリムさんは先ほどまで取り扱っていたであろう素材や商品をストレージボックスに預け、カウンターの上を片付けると、改めてこちらに向き直る。


「いらっしゃいませウイル君、今日も買い取りかな?」


優しいほほえみに、ピコピコと動く犬耳――そして豊満な果実――、迷宮教会などというカルト集団の狂気じみた世界により傷ついた僕の心が、聖女リリムによって癒されていくのを感じる。


「えぇ、お願いします」


「鼻の下伸ばしやがってからに」


もはや耳元で小さく響く幻聴になど惑わされまい。 


「随分と疲れた顔してるけど? また無茶したの?」


「無茶はしてないですよ、約束ですからね。ただ今日は少し、頑張っちゃっただけです」


「もー、ウイル君ったら。 まぁ信じてあげるけど……それで、今日は何を買い取るの?」


「珍しいものが入ったので、見てもらえますか?」


「ウイル君のものなら何でもどうぞー!」


犬耳をピコピコさせながらリリムさんははにかみながら僕に接客をしてくれ、僕はよく動くリリムさん――主に豊満な果実――に目を奪われつつも、トーマスの大袋からフォッグフロッグと食人植物の種をカウンターに置く。


「エロウイル……」


おや、幻聴の次は機嫌が悪い時のティズの声がするが、疲労のせいだろうきっとそうだ、そういうことにしよう。


「なんでしょう、なぜかあの二人を見ていると胸が痛いですシオン」


「大丈夫? 痛いの痛いの飛んでけする?」


「遠慮しておきます」


「な、なんか……みんな相当疲れているみたいだけど、本当に大丈夫?」


正直、大丈夫かどうかは不安である。


「まぁ、明日は生誕祭で休みを取っているので大丈夫です」


「そう、それならいいんだけど……じゃあ、買い取りを開始するね」


そういうとリリムさんはいつも通り食人植物の種のにおいをかぎ始める。


「んー、相変わらずの快進撃みたいだね。 この調子だとハッピーラビットももうお茶の子さいさいって感じかな?」


「あったりまえじゃない、今日だってギルドの依頼達成よ達成!」


ティズの不機嫌はやはり幻聴であったようで、ご機嫌にそんなことをいい、僕の肩にとまってふんぞり返る。


「ふふふ、そう。 それはよかった……ってあれ? これって」


「お、流石はリリムっち、この魔物の凄さに早くも気づいた感じですかな~?」


「なんか、今までに嗅いだことのない匂いだね……しかも……うそ、魔法無効化に幻影補助? 光学迷彩まで……どこで倒したのこのカエル、見たこともないよ」


「これがニ階層のボスの正体です」


「ニ階層のボスって、階段のある部屋にいる……あのドロドロしたやつ?」


「ええ、このカエルが今まで十二年間幻影で冒険者たちを欺き続けていたのですよ」


「えぇ、幻影って」


リリムさんは少し目を丸くして、交互に僕たちとフォッグフロッグを見る。

まぁ確かに、こんなカエルに十二年間も冒険者たちが騙され続けてきたなんて話、にわかには信じられないだろう。


「信じるも信じないも勝手だけど、そんなこた私たちはどーでもいいのよリリム。

私たちに今必要なのは一流の鑑定士の正確な鑑定、それだけよ。

そんな逸話も伝説も関係なしに、その素材の品質だけであんたならこの素材の値段を公平に決められる、そう信じたからウイルも私もここに来たの、分かる?」


ティズったら、ただ単にあなたの腕を信じているといえばいいだけなのに、素直じゃないんだから。

「なるほどね……期待に応えたくなってきたよ!」

しかし、流石はリリムさん、ティズのそんなひねくれた信頼の言葉の真意を読み取ったのか、瞳を輝かせて力強くうなずいてくれる。


その眼は真剣そのものであり、リリムさんはその真っ二つになったカエルを凝視する。


集中しているのか、その瞳は金色に染まり、鼻も耳もいつもよりも多くひくついている。


しばしの静寂。


あまりのリリムさんの真剣な表情に、お店に来ている買い取りに関係なくウインドウショッピングを楽しんでいる人たちでさえも物音を立てることを控え始めたそんな時。


「うん……確かにこれはいい素材だよ……魔道王国エルダンにでも売りに出したら、とんでもない値段になるんじゃないかな……」


リリムさんは瞳の色をまた茶色に戻して、にっこりと笑みをこぼす。


その表情はいつものおっとりとして可愛らしいほほえみではなく、金のにおいを嗅ぎつけた商人の顔であり、僕は取引の成功を確信して口元を緩める。


「で、肝心の値段はどうですか? リリム」


「素材としての価値はAランク、この前のコボルトキングの毛皮と爪なんかでは比べ物にならないほどの一品だね、そんなのが迷宮二階層にずっといたなんてにわかには信じられないけど、まぁいつも通りウイル君の持ってきてくれた品物ということで色を足して…端数切り上げちゅっちゅのちゅーで出ました! 金貨千枚! うん、これぐらい出しても全然苦しくないよ!」


「せっ!?」


『センマイイイイイイイイイ!?』


店の中で話を聞いていた冒険者たちを含め全員の大声が店の中に響き渡り、店全体を震わせる。


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