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83. 幻影の主・フォッグフロッグ

祝 500万Pv達成! これもひとえに皆さまのおかげです、これからもぜひよろしくお願いします!

「今まで一人も?」


「どういうことー?」


「あぁ分かったわ、倒せはするけどまたすぐに復活するって奴でしょ、ゴーストみたいに」


「いえ、文字通り倒すことが出来ないのです……あれには、剣も魔法も何一つ通用しません」


「そんな奴が陣取ってるのに、どうやってみんな三階層に行っているのよ」


「みんな逃げるんですよ、下の階層の階段まで、幸い動きが緩慢な魔物で、攻撃力も高くはないですから」


「肉弾特攻―!」

「でも、僕達はマッピングをしているから、走り抜けるって事は出来ないんじゃ」


「ええ、ですがこちらにはメイズイーターがあります」


「そんな化け物、メイズイーターでなんとかなるのかしら?」


「ええ、作戦としては戦闘開始と同時にメイクを使用してもらい、魔物を石の中に入れてしまえば、どのような魔物でさえもいちころだと思いますので……物理も魔法も効かない敵だとて、この迷宮のルールには打ち勝つことは出来ないでしょう」


「なるほどー! でも困ったことにこれサリアちゃんの作戦なんだよね」


僕とティズは無意識のうちにシオンの言葉に頷いてしまった。


「そ、そんな!? で、でしたら他の代替案を考えてください! 私の作戦が失敗したときに、なんとかなるようにセカンドプランをお願いします!」


「ふっふーん! だったらサリアちゃんの作戦が失敗したと同時に敵にメルトウエイブをぶち込むよ! 魔物で私の炎に耐えられる奴なんていないんだから!」


「じゃあ、その二つがダメだったら一旦こっちに逃げ帰るって事で」


シオンのプランはかなり不安だったため、僕はサードプランを用意する。


「よっし完璧! それじゃあ突っ込むわよ!」


恐らくまともに僕達の作戦なんて聞いていなかったであろうティズは、戦闘力皆無だというのに先陣を切ってボスの部屋へと突入をする。


「あっティズ!」


入った瞬間、何か迷宮が暗くなったように感じる。


上空を見上げてみても空には相変わらず大陽虫が輝いており、この迷宮内で雲が出ることなんてありえない。


それに、湿度が高いのだろうか? なにやらやけにこの部屋は汗ばむ。


そう思いながらあたりを見回してみると、心なしか木々が外よりも多く見える。


木が外よりも多いからその所為だからか。


僕はそう一人納得をして、サリアと共に先走るティズを追いかける。


ボスフロア……と呼ばれるらしいこのフロアは広く、僕はメイク用にあらかじめ部屋の入り口付近の壁を壊してストックをしておく。


大体壁8ブロック分、これならばどれだけ大きな敵であろうとも囲えるはずだ。


「ふっふーん、爆裂爆裂―」


シオンはもうすっかりボスを焼き尽くす考えのようで、僕はそんな彼女達に不安を覚えながらも、更に奥へと進んでいく。



部屋は思ったよりも広く、だというのに他の魔物が一切存在していない。


それどころか、草木以外の生物の息吹がまったく感じられない。


そのボスの縄張りだからだろうか、それとも他の要因があるのか?

だが一つだけ分かることは、この部屋に入った瞬間から、僕達の存在は目立ちすぎると

いうこと。


生きている生物はこの部屋には僕達だけであり、恐らくボスはもう僕達の存在に気が付いていることであろう。


それだけ静かで、何もないジャングルが、ボスの部屋には広がっていた。


「ぶっ飛ばしてやるんだから! 早く出てきなさい!」


まぁ、こちらもどうやら隠れる気は一切ないようなので、そんなことを気にする必要はないのだが。


「っ! マスター、ティズ、来ます!」


そんなことを考えていると、不意にサリアがボスの気配を察知したのか、そう叫び、剣を抜く。


僕達は少し遅れてサリアが警戒をする方向へ剣と杖を構えて迎撃体勢を取ると。


「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


木々をなぎ倒し、大地を揺らしながらその魔物が姿を現す。


「……なによ、こいつ」


そこに現れたのは巨大な何か。 どろどろに溶けたスライムのようだが、しかししっかりとそこには手足が生えており、巨大な目玉が僕達をにらみつけている。


見るだけでも嫌悪感を抱き、なによりもその異臭が僕達の戦意をそいでいく。


そんな敵の姿に、僕達が怯んだのをボスは理解したのか、即座に溶けた右腕から自分の体の一部を引きちぎり、其れを投げつけてくる。


「なっ!?」


慌てて僕達はその攻撃を回避しようとするが。


「うぎゃっ!?」


確実に回避したはずなのに、なぜかシオンが直撃を食らう。


「シオン!?」


「いやーーん、ぐちょぐちょーー!? しかもすごい臭い~!? 最悪―!」


よかった、元気そうだ。


確かにサリアの言ったとおり攻撃力自体はそこまで高くはないようだ。



「マスター!」


「分かったよ!!」


僕は体勢を立て直した後、サリアの指示に従ってメイズイーターを発動する。


敵の体を、迷宮の壁で埋め尽くすイメージ……。


幸い敵の動きは緩慢であり、捕らえるのは容易い。


「メイク!」


僕は僕の意思により、敵をいしのなかへと閉じ込める。


「やった! 成功だ!」


「ヴィクトリー!!流石はウイル、第二階層のボスなんざ眼じゃないわ! 大勝利よ!」


抵抗も回避もすることはなく、ボスは迷宮の壁に飲み込まれ、僕とティズはハイタッチをして勝利を確信する。


が。


「いや~、困ったことにそうじゃないみたいー」


シオンが壁のほうを指差すと。


そのどろどろとした魔物は迷宮の壁から染み出し、また再形成をされる。


「壁に取り込まれても生きているというのか!?」


かなり驚愕の出来事なのだが、僕達はサリアほどは驚かずに、セカンドプランである


シオンの魔法を発動させる。


「よくも私のお気に入りの服をー! ぶっ飛ばしてやるんだからー! いっくぞー」


杖を振りかぶり、怒りのままにシオンはでたらめな魔力で魔法を発動する。


【メルトウエイブ!】


放たれた核撃魔法により、その敵は核の炎に包まれ、同時に部屋の中全体が焼き尽くされる。


「この火力で、絶えぬものなふびゃっ!?」


勝利を確信してポーズを決めようとしたシオンに、敵のどろどろしたものが直撃する。


今度は顔面に……。


「まぁ、大方予想はしていたけど」


作戦はあえなく失敗であり、あと残すは僕のサードプランだけとなり、僕は逃走の準備を開始する。


が。


「ぶおおおおおおおお!」


逃走をしようとする僕めがけて、敵がまた汚泥に近い其れを投げつけてくる。


「マスター!」


先ほどシオンは、回避に成功したように見えて直撃を受けていた……つまりはこの泥には

少なからず追尾性能があるということだろうか……だったら。


はじくしかないか……。


僕は腕を右腕の白銀真珠の小手で、その泥を弾く。


が。


「あれ?」


空振り……。


確かに、投げつけられた泥に僕の腕は触れていた。


しかし、まるですり抜けるかのように泥は僕の腕を通り抜けていき。


続けて訪れた衝撃をモロに胸に受けて、僕は吹き飛ばされる。


「ウイル!?」


「マスター!?」


「ぐっ!?」


スキルパリィをミスしたせいで、クリーンヒットになってしまったようで、僕はよろけて後ろに下がる。


確かに、攻撃力自体はそんなに高くは無いようだが、確かにこのにおいはきついものがある。


「おのれ!」


サリアは攻撃が効かないとわかっていながら、そのドロドロした存在に攻撃を仕掛ける。


一閃、いつ見てもほれぼれするような剣閃が魔物を襲い一刀両断するが。


「っちっ! やはり手応えなしか」


その剣は身を両断するが、やはりダメージを与えたような気配はない。


しかし……。


僕だけだろうか、その魔物の姿が、一瞬だけぶれたような気がしたのは。


「……」


「あーもう! 撤退よ撤退! サードプラン始動よ始動!」


「ふえーん、くさいよー……お気に入りの服がー」


すっかり戦意喪失してしまっているシオンとティズは、逃走の準備をしているが、

僕は一人敵をもう一度見やる。


「………」


サリアの剣、シオンの魔法、そして僕のメイズイーター。


攻撃力が低いとはいえ、このすべてを受けて平気でいられる魔物など存在するのだろうか。


さらに地下、アンドリューならばまだ話は分かる。


だが、迷宮第二階層にそんな敵が存在するのだろうか?


そして、弾こうとした攻撃……確かにあの攻撃は僕の腕をすり抜けた……。


「マスター! 撤退の指示を! 私がしんがりを務めます」


サリアは巧みに敵の攻撃を回避しながら、敵の注意を引き付けてくれている。


もうニ階層のボスの攻撃は手慣れているらしく、紙一重ではなく余裕をもってよけている。


確実にタイミングがずれて着弾をする攻撃を意識しての行動だ。


つまり、僕が感じた違和感は気のせいではないということ。


それが意味することは。


「サリア! もう少し耐えていてくれ!」


「はっ! マスター何を」


「解けたよ、この魔物の正体が!」


僕はそういうと、メイズイーターを起動する。


「最初に……足場を形成して……」


その下にさらに壁を形成し、足場を押し上げる……。


そうすれば、敵を砕く槌にもなり、同時に。


「天井へと向かう足場にもなる!」


【メイク!】


僕はそう叫び、上空へと一気に壁を形成する。


目指すは太陽。


「ちょっと、何するつもりよ! 空に飛んで!? 一人だけ逃げる気!?」


ティズがそう叫ぶが、僕はそれに構わずに太陽を……いや、天井を目指す。


「ブレイク!」


空に手を伸ばし、そして太陽が音を立てて破壊される。


「えっ」


そして、現れるのはもう一つの太陽……。


いや、正確には本物の光源虫。


そしてそれと同時に差し込む太陽に照らされ、魔物の姿が消えていく。


「まさか、この魔物の正体は……幻影!?」


そう、この部屋に入ったときから感じていた違和感の原因は、この幻影のせい。


「もともとこの部屋はただの広い密室の部屋で、その中に霧を立ち込めさせて幻を投影させていたんだ……この部屋にだけ扉があったのも、霧が外に逃げ出さないようにするためだね……攻撃が遅れて着弾するのも、幻の攻撃に合わせて、違う場所から違う攻撃を放っていたから……そしてその攻撃を放っている魔物こそ、この迷宮二階層の本当のボス」


僕は続けて腕に力を込めて、天井をすべてブレイクで破壊する。


光源虫の光が一斉に霧が立ち込めた部屋へと降り注ぎ、反対に霧は行き場を失い霧散する。


それにより、僕たちがボスだと思っていた生物は一気に消え去り。


「げ、げこぉ!?」


同時に木々も何もない石だけしか存在しない部屋と、その部屋の隅で驚愕の表情を見せる一匹のカエルが現れる。


「あれは……」


「げげ、げこぉ!?」


カエルは何が起こったのかわからないと言った様子で再度口から霧のようなものを吐き出すが、一度白日の下にさらされた虚像は僕たちの目には映らない。


「げげっ」


もはや何をしても無駄だと悟ったのか、カエルは飛び跳ねて逃げようとするが。


「十二年人をだまし続けてきたとはあっぱれですが、それも今日までのようですね!」


そんな敵を逃がすわけもなく、サリアは一足で距離を詰めてカエルを両断する。


「ぐえっ」


最期の断末魔はなにやらあっけなく、何の抵抗を見せることもなくカエルは絶命する。


無敗を誇る迷宮二階層のボスはこうしてあっけなく打倒されたのであった。



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