表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/459

78.サリアの過去とドライアド

「ご、ごちそうさまでした」


「落ち着いた?」


「え、ええ。 すみませんでした、取り乱してしまい……」


「ごめんね、僕にもう少し力が有れば振りほどけたんだけど……サリア力強くて」


「あう」


サリアは頭から煙を上げて小さく言葉を漏らす。



「わ、私の寝相……悪かったでしょうか」


どうやら寝相が悪い自覚はあるらしい。


「うん……おなか出して寝てたよ」


またサリアは茹蛸のようになってしまう。


「死んでしまいたい」


「気持ちは分かるけど早まらないでね」


苦笑を漏らし、僕はサリアを落ち着かせるために淹れたてのコーヒーを渡す。


外に眼をやるとうっすらと朝日が差し込み始めてきており、人々が眼を覚まし始めた音が聞こえてくる。


ちなみにまだ自室からは妖精のいびきが聞こえてくる。


「ありがとうございます」


サリアはコーヒーを受け取ると、一口のみ、深呼吸をする。


「み、見ました?」


「おなかの刻印のこと?」


「え、ええ」


「ごめん、見られると不味かった?」


「い、いえ! 刻印自体は問題ないのですが、その刻印が見えるほどおなかを出して寝ていたと思うと……」


確かに、思えば結構ぎりぎりだ。


僕も釣られて顔を赤くする。


「だ、大丈夫! お、おなかしか出てなかったから! 神に誓って!」


「ご、ごめんなさいマスター!? 大変おみぐるしいものを!?」


「い、いやいや!? 僕のほうこそ……そういえば、サリアのおなかにあった刻印って」


「……あ、あれですか……あれはエルフの子どもが生まれたとき、親は子どもが魔法の才に溢れることを祈ってああやって刻印を彫るんですよ。 おまじないに近いものなのですが、刻印に魔術を込めて、親は子に、魔力を少し分け与えるんです。 そうすることで、子どもの成長と身を守るために……」

「へぇ……」


「本当はもう少し小さいんですけれどね……私のは普通の二倍の大きさです……というのも、私の父と母が、魔法のつかえない私のために二度魔力を分け与えてくれたからなんです」


エルフの里の生まれでありながら、魔法の使えない少女に対し、親は軽蔑をするのではなく魔法が使えるように必死に頑張ってくれたのだとサリアは嬉しそうに語る。


「そうなんだ……」


「ええ、とてもいい父と母でした、結局、二度も魔力を分け与えてもらったにも関わらず、魔法を使用することが出来なかった私でしたが、父とは母それでも私を受け入れてくれた。


魔法なんて使えなくてもいい、元気に育って欲しいと……実際父と母が亡くなるまでは、それでもいいと思っていられた」


「……どうしてなくなったの? 何か不幸なことでも?」


「……原因不明の病にかかり、父はなくなり、母もまた同じように」


「伝染病?」


「いいえ、掛かったのは二人だけです。 父と母は里一番の魔法の使い手でした……なので何故亡くなったのか、未だに原因は分かっていません」


「それは……」


「その後はまぁ、偉大な父と母の庇護がなくなった私はそのままつまはじきにされ、その後師匠と出会い冒険者になった……ということです」


「そうなんですか」


「ええ、里を追い出されたとき私は父と母にどれだけ守られていたかを学びました。

今でも感謝をしてもしきれません……。そして、一度でいい、一度で良いから私の魔法をずっとずっと心待ちにしていた父と母に、魔法を見せてあげたかった……私の魔法を」


サリアは瞳を伏せて、懐かしむように外の朝日を眺めている。


その表情が自分を否定しているようで……僕は少しばかり腹立たしさを感じる。


「……サリアは、とても立派じゃないか。 魔法なんか使えなくたって、君は立派な

冒険者だよ……この姿を見て、喜びはすれど悲しむ親なんているわけないだろ?」


「マスター」


サリアは少し驚いたような表情を僕に向ける。


「君は素晴らしい戦士で、誰よりも誇らしい僕の大切な仲間だ……。 たとえそれが君であっても、卑下したりすることは僕が許さないよ」


「ふふ、意外ですね、マスターがそんなことを言うなんて」


「僕だって怒るときは怒るさ」


口元を互いに緩ませてそんな軽口を叩く。


「申し訳ございませんでしたマスター……そうですよね、嘆くなら今の私を両親に見せて上げられなかったことを嘆くべきでした。 私は、マスタークラスの聖騎士なのですから」


サリアはどこか感謝するような表情のまま、コーヒーをまた一口飲む。


その姿は窓からさした日の光に照らされて神々しさすら感じられるほど美しく、同時に僕は、やはりサリアは笑っているのが一番かわいいということを再確認するのであった。


「おっはよー! 今日も一日大 炎 上! シオンちゃん起動―!」


「ういる~~ ごーはーんー」


「ふふ、どうやら静かな朝は終わりのようですね」


「そうみたいだねぇ」


眼を覚ますと騒がしい二人の声が各部屋から響き渡り、僕は苦笑を漏らして朝食とお弁当の準備を開始する。


今日もまた二階層の探索がこれから始まるのだ。


                     


                     ◇

「さて、今日は東に向かって進んでいきましょうか」


サリアの提案に僕たちはうなずき、迷宮ニ階層の探索が今日もまたスタートする。


昨日はハッピーラビットの襲撃のせいもあってか、地図があまり進んでいないため、今日は迷宮の地図作りを優先するというのがサリアの考えなのだろう。


「東にはなにがあるのー?」


シオンは炎熱魔法ではなく風の魔法、ウインドウカッターを操り、進行方向に生い茂る木の枝やツルを切り裂き道を作りながらそんなことを聞くと。


「ええ、東にはドライアドの森があるのですよ」


そんなことを言ってきた。


「ドライアド?」


ドライアドと言えば木人族のことであり、知性もあり、歩く木のことである。


綺麗な水と豊かな栄養の豊富な土のある場所でしか生きることのできず、種族としては人間であるが、その性質は精霊に近い。


性格は穏やかであり、人を襲うことはめったになく、確かにドライアドの群生地であるならば安全に迷宮の地図作りが進められそうである。


「私ドライアドって見るのはじめてかもー!」


「ええ、しかし彼らは特性上火をとことん恐れます。 なのでシオン、くれぐれも炎熱系魔法は慎むように」


「わかってるよー。 私だってそこまで馬鹿じゃないもん!」


シオンはほほを膨らませてサリアをにらむが、その場にいた誰もが安堵したことは間違いはないだろう。


と、軽口をたたきあいながらサリアのいうドライアドの群生地を目指して歩いていくと、

不意に空気が変わる。


目の前にあるのはただの森、それは疑いようもないのだが、そこはジャングルではなく森であり、僕たちはすぐに目的地に到着したことを悟る。


綺麗に等間隔に並んだ木々に、蔦もツルも何もなく、木の枝でさえも毎日毎日誰かが手入れをしているのかと思わせるほど美しく切りそろえられた木々の森。


素の木々は人の体のような形をしており、美しい女体を思わせる。


ちょうど顔の部分にあるくぼみが人の目のようで、僕は目が合った瞬間に息をのむ。


「到着しましたよ、マスター」


「……随分と静かなところねぇ。 っていうかドライアドはどこにいるのよ。 てっきり村のようなところを想像してたんだけど……あるのは人みたいな形した木ばっかじゃない」


ティズはそんなことを言いながらふよふよと一本の木に近づいてぺしぺしと木の幹を叩くと。


「くすぐったいかと……妖精さん、停止を求むです」


「しゃべったあああああああああ!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ