75.消滅の一撃 ~ソウルイーター(仮)~
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「り、リーダー!? リーダーどうしたんですか!? しっかりしてください」
「あっあっああああああああっ!?」
「えっ……えっ」
目の前には子供の用に泣きじゃくりながら床とズボンを濡らしながら床の上を転がりまわるローグの姿……。
この前の仕返しとして、ただ軽く小突いただけなのにここまでの反応をされ、僕は驚愕に呆然とする。
「え、ちょっとあいつどうしちゃったのよ?」
「……今のはおそらく~パリイ~と」
「あぁ……そして~致命~だな」
「パリイ?致命?」
聞きなれない言葉に僕が振り向くと、サリアは瞳を輝かせながらも冷静に解説をするという器用な真似をして見せる。
「パリイは敵の攻撃を盾や小手、剣で弾き飛ばす戦士の覚える上級スキルです。 これで攻撃を弾かれた敵は必ず隙を作る。 その時に攻撃をしかければ大ダメージを与えられます」
「そんでもって致命ってのは、文字通り敵を低確率で一撃で殺すことができるスキル。
シノビが覚えるもんなんだがよっぽどジャストヒットしなきゃ致命は発動しねーし、確率もその人間の運の総量に左右されるから大抵はかなり低い」
「ですが、パリイにはパリイ成功後の攻撃をすべてクリーンヒットにする効果があり、クリーンヒットには致命の成功率を大幅に上昇させる効果があります。 運が人間の限界を超えているマスターであれば、おそらくはほぼ百パーセント致命を発動させることができるのでしょう」
「えと、よくわかんないけどつまり、今のは致命が発動したってことなの?」
「おそらくはそうでしょう。 しかし、殺傷能力を有するものを持たなかったために致命は発動したものの、相手は死ななかった……だがしかし死の感触だけは残ったといったところでしょうか……しかし、ローグであるならば死は何度か経験していてもおかしくはないのですが……なぜそこまで恐怖しているのかはわかりません」
「もーサリアちゃん忘れちゃったの―? ウイル君のスキル―」
「ん?」
不意に説明を聞いていたシオンはそんなことを言う。
「どういうことですかシオン?」
「だから、ウイル君に殺された魔物や人は、蘇生できなくなる……ロストしちゃうんだよ」
その言葉で僕も忘れていたが、僕のスキルの中には蘇生不可、つまり消失のスキルがあるのだ。
「ええとつまり、今あの男は消失の感覚が体を支配してるってことかしら?」
ティズはようやく理解できたのかそんな確認を行うと。
「なるほど……シオンの考えで間違いはないでしょう。 マスターのスキルを失念していました」
そうサリアが太鼓判を押す。
一撃必殺と消失のスキルのコンボ……なんだか恐ろしいスキルを手に入れてしまったようだ。
「一撃必殺か~……なんだかどんどんウイル君物騒なスキル手に入れていくね」
「本当ですね……名付けて、ソウルイーターなんてどうでしょう」
「も、もうからかわないでよシオン! サリアも勝手に名前を付けないの!」
「あーっはっはっはっは!いい気味よあの 自主規制 ども!」
ティズはすっかりとすっきりしたのか、ハチミツ酒を一気飲みをして高笑いをしている。
おやじ臭い。
「ち、畜生! おぼえてやがれええええ!」
心の壊れてしまったリーダーを抱き上げて、ローグの仲間たちは聞き覚えのあるセリフを吐いてエンキドゥの酒場を出て逃げ出そうとするが。
「おう、てめぇら……ギルドの掟破った上に、店の床汚しておいて何も御咎めなしで出ていけると思ってんのか?」
その全員が扉の前でガドックにより止められる。
「ひ、ひいいいいいい!?」
「てめえら、一人残らず地獄見せてやるから覚悟しろよ……」
「いやああああああああああああああああああああああああああ!?」
エンキドゥの酒場にて、絶叫が響き渡り今日この時をもって一つのローグの盗賊団が壊滅をしたのであった。
◇
「やれやれ、一時はどうなることかと思いましたが、マスターのおかげで私も溜飲が下がりました」
サリアはすがすがしい表情のままそういうと、ハッピーラビットまんじゅうにかぶり付きながら中央広場へと向かう。
結局あの後、床が汚れ、なおかつローグの断末魔が響き渡る店で食事の続きをすることがはばかられた僕たちはエンキドゥの酒場を出て、たまには繁栄者の道のレストランで食事でもしようかという流れになった。
アルフも誘ったのだが、まだ仕事があるといって別れてしまったため、いつものメンバーでの食事となる。
高級料理立ち並ぶ繁栄者の道は、本来僕たちのような冒険者が入るようなところではないのだが、まぁ金貨が八十枚も手に入った日になら行ってもばちは当たらないだろう。
それに、ハッピーラビットの納品クエストは一度達成されたらそこで終了というわけではなく、期間の続く限り何度でも受け取れる報酬らしい。
ハッピーラビットの大量発生が問題になっている現在であれば、明日もまた同じ報酬も期待できる。
せっかくメイズイーターでいい狩り方が見つかったのだから、明日もまたひと稼ぎさせてもらおう。
「わーい! おいしいレストラーン!」
シオンは大はしゃぎで飛び跳ねて喜び、僕たちは中央広場に出ると。
「あ、またやってるよー!」
中央広場は夕方だというのに人であふれ、その人の中心には王の生誕祭を控えて
宣伝公演を行うダンデライオン一座の姿があった。
現在やっている演目は団員達による集団曲芸ショーであり、
一つ一つの技を披露するたびに観客からは歓声が上がり、その隙に女性の団員がすかさず一人一人に公演日時の書かれたパンフレットを配っていく。
「王の生誕祭が近いこともあって、なかなかに大盛況ですね」
「本当、はるか遠くの国からダンデライオン一座なんてとんでもない曲芸団連れてきちゃって……あのバカ王のライオン好きにもほとほと困ったものよ」
「確かに、英雄王ロバートは獅子を好むとよく聞きますね」
「騎士団長もライオンさんだからねー」
「子供なのよ子供、いつまでたってもね」
ティズはあきれたように――そしてなぜか偉そうに――やれやれとため息をつき
ひらひらと人ごみを避けるように少し高めを飛び、ダンデライオン一座の曲芸を見つめる。
「しっかしまぁ、すごい曲芸よね、人間じゃないみたいよあの動き」
「見えないです」
「ティズちんずるいー!」
人ごみでろくに曲芸種目が見えていないことを知ってか知らずか、ティズはそんな演目が気になるような発言をし、僕たちはティズに苦言を呈すが、やはりわざとだったらしくティズはお構いなしに宣伝公演の実況を続ける。
「おぉ、魔物使い(ビーストテイマー)までいるのね……いやはや見事ねぇ、あれはビッグシルバーバックじゃない、すっごい筋肉ねぇ」
「いじわるいじわるー!」
にやにやと笑うティズにシオンはほほを膨らませて怒っている。
と。
「やあやあお二人さん、久しぶりだねぇ」
僕はそんな聞き覚えのある男性の声に呼び止められ、振り返る。
そこにいたのは、現在宣伝公演を行っているはずの、ダンデライオン一座の団長、フランクであった。