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73.盗賊の再来

エンキドゥの酒場へ到着すると、まだ夕方前だということもあってか、そこにいたのは酒場の店主ではなく、ギルドマスターのガドックであった。


「おうおめぇら、今日は随分と早ぇ到着じゃねえか……ってどうしたんだティズの奴。

迷宮でマジックドレインでも食らったか?」


「その方がまだましだったわよ……」


それはどうかと思うけど。


「なんだぁ? しけた面して……ハッピーラビットのシチューでも食うか? うまいぞ」


無意識なのだろうが、ガドックはティズにとどめを刺した。


「そのくそウサギのせいでこんなことになってるんでしょーが!」


「お、おう……すまん。 な、なんだ? ウサギに何かされたのか?」


あまりの剣幕にガドックは引き気味にティズにそんなことを聞いてくる。


「なにもされてないけど、高級食材であるハッピーラビットが値崩れ起こして大損したのよ!」


損はしていないだろティズ……使ったの僕のメイズイーターなんだから。


「あぁ~、迷宮二階層に行ったのか。 そうなんだよ、最近ハッピーラビットの被害にあう冒険者が多くてなぁ、少しばかり増えるくらいなら、こっちも食材が手に入るからうれしいんだが、あまりにも多すぎると冒険者被害もそうだが、なにより二階層の生態系が崩れかねん……。 ほとほと困っててなぁ、討伐依頼を張り出したところだ」


「え?」


一瞬、ティズの目が輝きを放つ。


「ど、どうした?」


「今、ウサギの討伐依頼を出したって言ったわよね!」


「お、おう」


「どんな依頼!?」


「ハッピーラビットの毛皮と肉三十匹分の納品だよ」


納品ということは、別段受け付けて依頼を受けなくても納品さえすれば報酬がもらえるというクエストだ。


「三十匹!? 私たちなんて四十八匹も狩ってきてやったわよ!」


「本当か!? いやーハッピーラビット30匹なんて結構な数字で依頼を出しちまったせいでな、なかなか達成者が現れなくて困ってたんだよ!」


ガドックは嬉しそうな表情をして、ティズも目を輝かせた後。


「……値崩れしてるからって、銅貨48枚とか言わないでしょうね」


疑り深くなってる……今日の一件のせいで疑り深くなってる。


「いやいや、流石に俺たちも鬼じゃねえ。 ハッピーラビット三十匹で金貨五十枚、四十匹ならさらに金貨三十枚上乗せで合計金貨八十枚ってところだな!」


「!!きゃっほおおおう!」


ティズは大声をあげて喜びを全身で表現をする。


現金な子だ。


だがまぁしかし。


「あの場で売らないというマスターの判断は正しかったようですね、流石です」


サリアのいう通り、あの時あの場所でクリハバタイ商店に売ってしまわないでよかった。


僕はトーマスの大袋を広げて、ハッピーラビットの肉と毛皮をギルドに納品するのであった。


                   ◇


「カンパーイ」


無事に金貨八十枚を手に入れた僕たちは、新メニューであるハッピーラビットのはぴはぴ肉まんじゅうに舌鼓を打ちながら、それぞれのジョッキに入った酒を飲む。


迷宮第二階層初挑戦で金貨八十枚の報酬とは幸先の良いスタートであり、疲労感はあれど無傷で帰還できたことはとてつもない成長である。


そんなことをかみしめながら、僕は蒸留酒を飲む。


「おいしー、やっぱり高級食材なんだねー!」


「うわっ本当です! マスター! これ凄いおいしいです!」


シオンとサリアははぴはぴまんじゅうにご満悦のようで、僕も試しに一つ食べてみる。


なるほど、白い皮の中いっぱいに詰め込まれたウサギの肉。 


一口食むと肉汁とタレが一斉に口の中に広がって……皮の甘さと肉の塩加減が相まって、お互いの味を引き立てていき、その両者が噛めば噛むほど合わさって自然な味へとなっていく。

「お、おいしい」


僕はそんな感想しか漏らすことができずに、再度まんじゅうにかぶりつく。


ウサギの肉もさることながら、それを調理する店主の腕も天下一品だ。


こんなにすごい食材が現在銅貨一枚で取引されているなんて、正直いまだに信じられない。


ウサギの肉をほおばりながら、僕たちは全員幸せに包まれる。


そんな中。


「おー、お前さんら! 久しぶりだな」


気のいいおじさんの声が響き、僕たちは一斉に振り返ると。


そこにはクマさんがいた。


「なんだお前ら全員ハムスターみたいな顔しおって」


「アルフ! 最近見なかったけどどこに行っていたの?」


「あぁ、所用で少しヴェリウス高原の方に行っててな。 まぁ無駄足だったんだが」


「一人?」


「いいや、今回は気のいい仲間と一緒だった。 まぁもう別れちまったが」


「マスター、こちらの方は?」


「だーれー?」


そういえばシオンとサリアはアルフと出会うのは初めてだったか。


「ごめんごめん、シオン、サリア、紹介するよ。 彼はアルフ、僕の冒険者の先輩で、迷宮についていろいろと教えてくれた人なんだ」


「なるほど……初めましてアルフ、私はサリア、聖騎士のサリアと言います。 マスターの従者をさせていただいております」


「私はシオン! アークメイジのシオンだよー」


「はっはっは、ウイルに随分と豪勢な仲間ができたみたい……」


瞬間、アルフはシオンを見て言葉を止める。


「? なーにー? 私の顔に何かついてるー?」


「どこかで会ったことあるか? お前さん」


「えー? 初めて合うと思うけど~」


「そうか……すまんかった、人違いのようだ」


「きにしなーいきにしない!」


「それで? 何しに来たのよアルフ……仕事が空振りだった人間が来るには少しばかり時間が早いんじゃないかしら?」


「相変わらず手厳しいなティズ。 その様子見てりゃそっちは大量だったみたいだし、少しはその運をこっちに分けてほしいもんだ」


「こっちには運が人間の限界を超えている秘密兵器がいるからね! あんたとは違うのよ!」


「やれやれ、調子に乗りやすいのは相変わらずか……まぁ、ティズのいう通り空振りだったからまだ酒を飲むつもりはない。 この酒場で情報収集をしようと思っただけだよ。 

ウイルには言ったと思うが、人を探していてな」


「人?」


そういうと、アルフは胸元から僕の時と同じように写真を取り出そうとすると。

「ようようみなさんおそろいで~」


ぞくりと悪寒が走り、僕の全身が不快感によって吐き気を催す。


一度だけ聞いたが二度と忘れることはないだろうその声の主は、入り口からそんな旧知の友人に声をかけるようにやってくる。


「いらっしゃい……」


ガドックは少し横目でその客人を見やり、入店を許可する。


それを確認したあと、男はゆっくりと中に入ると同時にぞろぞろと仲間が入ってくる。


以前僕たちを襲ったローグの一団だ……あのリーダー格の男のことは忘れようがない。


「……あの野郎……」


ティズが殺意を込めたような表情で舌打ちを打つ。


恐らく前にここにいた仲間がティズとトチノキの一件を報告したのだろう。


ボス直々に僕たちに会いに来たのだろう。


「どうしたティズ……知り合いか?」


アルフはティズの変化に疑問符を浮かべると。


「前に私たちを襲った集団よ……ウイルの腕をへし折って、金貨を盗んでいった奴らよ」


「ほう……ではあれが」


「焼く? 溶かす?」


サリアは剣を、シオンは杖をもって黒いオーラとともに殺気を放つ。


ついでにアルフもさりげなく手をかけていた。


「ちょっ落ち着いて三人とも!」


「大丈夫です。 全身骨折ですまします」


「痛みは感じさせないよ」


「騒ぎを起こすのはよくないから! 我慢して! 白昼堂々僕たちを襲いに来たとは限らないし……無視だよ無視」


「む、むぅ……マスターがそういうのであれば……」


サリアは納得いかないといったような表情をしたあと、ジョッキのお酒を一気飲みする。


シオンもうずうずしているのか、カタカタと先ほどから貧乏ゆすりが絶えない。


ティズに至ってはもう怒りに任せてファイティングポーズをとっているが、まぁ放っておこう。


「無視することはないんじゃないの~? う、い、る、く~ん」


あぁ、来ちゃったよ……。 


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