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72.値崩れ

「大量大量、大量だわねぇー!」


迷宮の二階層から入り口まで戻るとティズはご機嫌に歌なんて歌いながら冒険者の道を歩く。


今日一日二日酔いでうぼあとげぼぉとしか言っていなかったのが嘘のような元気はつらつぶりだ。


「銀貨四十八枚ということは~金貨四枚よ四枚! ふっふふ、黒字よ黒字」


その赤字の原因が君の酒代であるというのは突っ込まないでおいてあげよう。


「ねぇねぇウイル君! どうせ金貨四枚なら、残りの八匹はお家で食べない~? あのハッピーラビットのお肉すごいおいしかったの~! きっとウイル君ならもっとおいしく作れると思うの~」


「ま、マスターのウサギ肉の手料理……い、いけません! 想像しただけでよだれが」

サリアとシオンはよだれを腕で拭きながら瞳を輝かせる。


「ま、まぁいいけど……店の料理並みのクオリティを求められても困るんだけど」


流石に僕だってそこまで料理がうまいわけではないし、レパートリーも多いわけではない。


そこまで過度な期待をされても困る。


「じゃあそれで決まりね! ウイルの手料理手料理! エンキドゥの酒場の料理もおいしいんだけど、やっぱりウイルの料理はまた違った感じでおいしいのよねぇ」


ティズもよだれを垂らしながら僕の頭をぺしぺし叩く。


頭を叩かれてよだれも垂らされる。 何の拷問だろう。


さて、そんなこんなで頭によだれを垂らされながらクリハバタイ商店に到着する。


昨晩のデートの余韻もあり、僕は少しばかりリリムさんに会うことに緊張をしながら、扉を開けると。


「あ、いらっしゃーい」


そこにはいつも通りリリムさんがカウンターに座っており、心なしか元気そうな様子で僕たちに手を振ってくれる。


「やあリリム、剣の調子はどうだろうか?」


「ばっちりばっちり! 刀を作るための素材もしっかり確保したし、付与するエンチャントも決まってるから、あとは長めの休暇をもらって刀を作るだけ! まぁ、その長めの休暇をとるのが一番難しいんだけど」


たははと笑いながらリリムさんはそういいつつ、カウンターから出てくる。


「さすがリリム、仕事が早いですね。 しかし前も言いましたが急いでいるわけではありません。 そちらの仕事を優先させてください」


「うんうん、そうさせてもらうね! あと、ウイル君、ミスリルの鎖帷子だけど明日には切れた部分は修復できるから、明日冒険の帰りにでも寄ってくれる?」


「あ、分かりました! ありがとうございます」


ここの仕事をこなしながら、剣の素材を集め……鎖帷子の修理を行う……。


昨晩に白銀真珠の小手を受け取ったということは、一体リリムさんは一日何十時間働いているのだろうか。


「リリムさん……大丈夫なんですか? そんなに働いて」


「大丈夫大丈夫! 人狼族は体力と体の丈夫さが売りだからね!」


リリムさんはそういって胸を張る。


大きいし揺れてる。


「見せつけやがって……」


背後で何かダークマターのようなものが漏れ出しているような気がしたが気のせいだろうきっとそうだ。


「ところで、今日はどんな用事で来たの? 剣の進捗を聞きに来たわけじゃなさそうだけど」


「ええ、今日はですね。 初めて迷宮二階層へと挑戦したのですが」


「本当!? こんな短期間で二階層に進むなんて! 私初めて聞いたよ! やっぱりウイル君ってすごいんだね」


「いや、そんな」


「ええ、当然です、マスターですから。 とまぁそれでなんですが、そこで珍しくもハッピーラビットの群れと遭遇しまして、その肉を売りに来たんです」


一瞬、リリムさんは硬直する。

その表情は驚きというよりも、気まずそうなそんな表情だ。


「どうしたのー?」


リリムの表情に異常を感じたのか、シオンが疑問符を浮かべると。


「えと、その。 大変申し上げにくいのですけれども……実は最近ですね、迷宮二階層でハッピーラビットの大繁殖が起っているらしくて……その、通常ならば高級食材のはずのハッピーラビットの肉が、値崩れを起こして……いるんですよ」


衝撃の真実に、ティズの表情が笑顔から絶望の表情に変化する。


また二日酔いになってしまったかのような顔の青さである。


「ま、まぁ、ねねね、値崩れって言っても? そそ、それはどれくらいの金額なのよ銅貨十枚くらいかしら?」


ティズはギリギリのところで平静さを保ち、震える声でそう確認をすると。


「すみません、一匹銅貨一枚です」


リリムさんにより絶望の淵に叩き落される。


「ぶくぶくぶく」


「ティ、ティズ!気を確かに!?」


サリアがティズをキャッチするが。


「こ、コボルトよりやすい……」


「あ、ダメだこりゃ、ティズちん完全におしゃかだよ~」


「ごご、ごめんなさい! 本当に最近大量発生していて! お店の方も在庫が有り余っちゃってるんです!」


「リリムさんのせいじゃないよ」


「うぅ……お金……私の金貨」


「ど、どうしますか? 買い取りますか?」


「うーん、在庫が有り余ってるんじゃ無理に買い取ってもらうのもなぁ」


「仕方ありませんねマスター。 銅貨一枚では自分たちの食事の足しにした方がましでしょう。 安値で取引されても高級食材。 味は天下一品なことに違いはないのですから」


サリアはため息を一つ漏らして、そう提案をし、僕も確かにと納得をする。


「そうだよね。 ごめんなさいリリムさん、とりあえず今日は買い取りはなしでお願いします」


「ご、ごめんなさいウイル君」


「気にしないでくださいリリムさん。 情報収集を怠った僕たちにも責任はありますし、魔物の素材の値段が変わるのはいつもの事ですから」


「でも、ティズさんが」


「おかね~」


「大丈夫だよ~ ティズちんはサクランボとハチミツ酒をかけてあげれば元気になるから~」


「そうそう」


シオンの言葉に僕もうなずく。 


切り替えの早さもティズの専売特許。 


心配の必要はない。――最初から心配していないというのは内緒であるが――


「とまあリリム、冷やかしになってしまって申し訳ないです。 また今度何かあったときに是非。よろしくお願いします」


「はい、ありがとうウイル君! またのお越しをお待ちしておりますー!」


「さてと、じゃあとりあえずお酒でも飲みますか」


「さんせー」


「はいはい……今日は普通のコースだよ」


リリムさんの感謝の言葉を聞きながら、クリハバタイ商店を後にし、僕たちはとりあえず晩御飯ということでエンキドゥの酒場に向かう運びになったのだった。


                        ◇

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