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71.ウサギの狩り方

「し、死ぬかと思ったよ」


ハッピーラビットから素材を回収しているさなか、シオンはようやっとハッピーラビットの危険性に気づいたのかいまさらになって冷や汗を流している。


「私も最初に言うべきでした……ごめんなさいシオン」


「サリアちゃんのせいじゃないよ~……でも私、ハッピーラビットって食材でしか見たことなかったから……まさかこんなに危険な生き物だなんて思いも……」


「まぁ、真正面から奴の攻撃を受け止めたから危なく感じたと思いますが、致命と速度以外はそこまで脅威な魔物ではありません。 マスターもお気づきになられているとは思いますが、あの魔物には必ず予備動作がある。 そして、その予備動作の時に定めた方向に直線に飛ぶ。 そのため動きをよく見ていれば回避することはたやすいです。 よけてしまえばあとは動きの鈍ったところを魔法で仕留めるか、あとはよく使われる方法は罠等にかけてしまえばただのウサギと変わりません。 要は戦い方です」


「だとしても、あれだけの速さと殺傷能力を持った化け物相手にしてたら、命がいくらあっても足りないし、そもそもこちとら予備動作なんて見切れないっつーの! 私の非力さなめんな!」


ティズは自慢にならない自慢を大声でわめき、それに同意するかのようにシオンが首を縦に振るう。



「ふむ、まぁしかし安心してください、ハッピーラビットは確かに危険な魔物ですが、それでもエンカウント率はそこまで高くはありません。 今回は早期の遭遇でしたが、それしばらくは出会うことはないでしょう。 それに、ハッピーラビットの肉は人気でなかなか食べられず、高値で取引されるのですよ?」


あれ? この前屋台でハッピーラビットの肉が置いてあったような気がするのだけど……。


そんなことを思ったが、僕はハッピーラビットの素材をトーマスの大袋に収入して立ち上がる……と。


「むー?」


「!!」


茂みからまたもや可愛らしくも凶悪なウサギが僕の前に現れて首をかしげる。


「どっどどっどぇぇでででででたああああ!」


首をかしげる予備動作を見切り、ハッピーラビットの攻撃を回避した後、僕は即座にサリアのもとへと走る。


「ま、マスター!?」


「いやいやいやいや!? なかなかエンカウントしないって嘘でしょサリア!? 二分と立たずに出てきたよ! 二分もたたずに首をはねられかけたよ!」


「そ、そんなはずは……少なくとも二年前までは三日に一回出会えば多いくらいで……」


「ね、ねえ筋肉エルフ……その記憶が現実よりも正しいと私は今とおぉってもうれしいんだけど」


「え?」


慌てて弁明をするサリアに、ティズが僕の背後、つまりハッピーラビットが出てきたところを指さす。


そこにあるのは無数の赤い瞳……。 


その瞳が一体何で、だれを狙っているかなど……言うまでもない。


「なっ」


下手な鉄砲数打ちゃ当たる。


その言葉の通り、眼前を覆いつくすほどのハッピーラビットの群れ。


これだけ居ては、予備動作が分かったところで回避などできるわけがない。


「あ、う……」


絶望に全員の顔が引きつる。


距離は離れているとはいえ……数が多すぎる。


一歩でも動けば首をはねられる。


そんな予感と確信に僕は息をのみ……同時にひらめく。

確かハッピーラビットは臆病な性格で、驚いたり危険を感じたりすると敵の首に向かってとびかかるという魔物であったはず……つまり、基本的には僕たちに敵意をもって襲ってきているわけではないのだ。


つまり。


『合図をしたら、みんな伏せて』


『な、なんですかマスター?』


『何するつもりよウイル!? 危険よ!』


『し、しんじゃうよ~!?』



『大丈夫だから……行くよ、せーの!』


【メイク!!】


僕はメイズイーターを、ハッピーラビットの眼前に放つ。


不意に形成される壁はハッピーラビットの前にそびえたち。


「むーーー!?」


「むー!」 「むむー!」 「むっむーーー!」


それに驚いたウサギたちは一斉に迷宮の壁へ向かって突進をする。


鈍い音が数十回響き渡り、そしてまた迷宮は静まり返る。


「し、静かになった」


「な、なるほどね……迷宮の壁に激突させて、まとめて倒したと……さ、流石はマスターです」


「し、心臓に悪かったけど、ウイル君ありがとう」


「えへへ。 とりあえず危機は脱したし、それに、ハッピーラビットの肉は高く売れるんでしょ? 今日は大量だね」


「ええ、一匹銀貨一枚くらいだったかと」


「そ、そんなにするの!?」


「食べたとき銅貨4枚だったよ~!? 錬金術?」


サリアとシオンの会話がかみ合っていないような気がしたが、とりあえず僕は倒したウサギの素材を集めることにする。


構築した壁を再度破壊して、僕は壁に頭を打ち付けて絶命しているウサギの素材をトーマスの大袋に詰めていく。



コボルトキングの時と同じで、締めて四十八匹のハッピーラビットの肉は、爪や牙と違い相当かさばるため、全部入れ終わるころにはトーマスの大袋は二キロ以上の重さになっていた。


「……っとと、まだ許容範囲だけど、これだけの素材を手に入れるとやっぱり重くなるね……」


「無理は禁物ですよマスター、違和感や重量感、疲労感を感じたらすぐに引き返すのも迷宮の鉄則です。 今日は強敵と戦うことが多かったですが、もともとは様子を見る程度で済ませるつもりだったのです……。  今日は引き返して体を慣らすというのも重要ですよ」

サリアは僕の体を気遣うようにそういい、僕はシオンとティズを見る。


どうやら二人ともハッピーラビットのせいで肉体的にではなく、精神的にも疲労したのだろう。 心なしかげっそりしているような気がする。


このまま迷宮探索を続けるよりも、ハッピーラビットの報酬を目の前にさせてモチベーションを上げたほうが明日以降の迷宮探索がスムーズに進むだろう。


僕は一度サリアの方を見ると、サリアも同じ考えらしく、小さくうなずく。


迷宮探索に焦りは禁物。 何か一つ違和感を感じたら引き返す……それが精神的疲労やモチベーションの低下であっても例外ではない。


少しの判断ミスや失敗が死につながる場所であるからこそ、より慎重な行動が求められる。


だからこそ今日僕は迷宮第二階層初日の探索を終了させることにした。



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