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4.初めてのレベルアップ

「おつかれさまですー」


今日も今日とて店は大繁盛。私は尊い労働の後の清清しい気持ちのまま店を閉め、仕事仲間たちに挨拶を交わしながら鼻歌交じりに店長室を目指す。

 閉店前まで行っていた隣の国の大使との商談も上々で、この話が上手くまとまれば念願の香辛料がこの店に並ぶかもしれない。 これを聞いたら店長はきっと喜ぶだろう。


「勝手に失礼します、お疲れ様です店長!」


「おう、リリム! 今日もお疲れ様!」


適当な挨拶を述べて勝手に店長室に入ると、クリハバタイ商店の店主であるトチノキは、そんな私の無礼にも怒る気配など見せずに素材の仕分けや再鑑定を行いながら、私にねぎらいの言葉をかけてくれる。


「先ほど隣の国の使者の方との商談が終わりまして、このまま行けば香辛料を店に並べられそうですよ」


「そうか! そいつは良くやってくれたリリム! 頼もしいなぁ看板娘!」


からからと店長は笑いながらも、店長は手を休めることなく素材を仕分けし続ける。


「何か変わったものありました?」


「いや、今日も3階層までの素材が殆どだな……一番いいものでも二階層の幸せ兎ハッピーラビットの毛皮くらいだ」


「それだけでもすごいじゃないですか、昨日なんて一番いいものでマタンゴの幼生だったじゃないですか」


「まぁな、しっかし最近はみんな深くまでもぐらなくなっちまったからなぁ……今はまだいいが、このままだと上層階の素材は値崩れを起こすぞ」


「そうですねぇ、皆が皆毎回上層階の素材ばかり持ち寄られたら……買取も難しいですからねぇ……」


「あぁ、コボルトの毛皮もそろそろ銅貨5枚まで買い取り価格下げるべきかなぁ……今日だけで50枚は買い取ってるぞ」


「あぁ、コボルトといえば、今日ウイル君が23枚くらいコボルトの毛皮を売りに来てましたね」


「ウイルってーとリリムのいつも言ってるあの餓鬼か」


少し不満そうな表情を店長が見せたのは、私がいつもウイル君のことをよく言っているからだろう。


本当に、年頃の娘を持った父親みたいな拗ねかたをする人である。


「ええ、中に一つだけやけに綺麗で上質な毛皮があったんで、高めに買い取ったんですけれども、コボルトにレアドロップってありましたっけ?」


「いんや? きいたことねえな」


「あれー?」


鑑定は、武器や防具であればすぐに名前や効果、値段が出るのだが素材はそうは行かない。


元々痛み具合やそのモンスターの育ち具合によっても値段に影響が出てくるため、例えば毛皮の場合、良質なものは良質な毛皮としてしか素材は鑑定されない。 そしてそれがどのモンスターの毛皮や爪であるかは、店の人間の感覚と知識のみで判断し値段を割り出さなければならない。


その為、武器や防具の鑑定などよりはよほど気を遣うのだ。


「ふーむ、コボルトの毛皮程度でお前の鑑識が外れるってこともまず考えにくいからなぁ、それは俺も気になるな、ちょいと先に見てみよう、どこにある?」


そういうと、店長は作業の手を止めて私にそのコボルトの毛皮を持ってくるように指図をする。


「はーい」


私はそれに従い、店長再鑑識要とかかれたチェストボックスの中から、その毛皮を探し出す。 上質のものであるためそれはすぐに発見でき、私は再度自らの感覚が間違っていないことを再認識した上で店長にその毛皮を渡す……。


「ふぅむ……確かにこりゃぁ上質だ……それにこの毛並み、確かにコボルトの物だが……ってあん? おいこらリリム!?! こいつは…………」

 

「ふえ?」

                    ◇

次の日の朝、夢は見ることなく死んだように眠った僕は、全身痛みの中から鬱々と目を覚ます……わけでもなく、いつものように―むしろ少し体が軽いような―ベッドから起き上がる。


もっともだえながら目を覚ますことを覚悟していたのだが、痛みはすっかりと引いており、いぶかしげに全身を確認しながら起き上がると、コロンと何かが手にぶつかる。


隣を見ると、薬草をすりつぶしたすりこぎが転がっており、その隣でティズが薬草まみれになりながら寝息を立てている。


気にしなくて良いといったのに、ティズは責任を感じて一晩中僕の傷に薬草を塗ってくれていたらしい。


おかげで僕はいつもどおりの朝を迎えることが出来たようだ。


「ありがとう、ティズ」


一晩中看病をしてくれたティズに感謝の心をこめてゆっくりと毛布をかけてあげる。


「よっと」


僕はベッドから降りて、いつもどおりの服に着替える。


薬草は良く効いているようで、僕は体を一通り動かしてみて異常がないかを探る。


「うーん、どこも異常ないみたい。 正常正常」


良かった、骨が折れたときはしばらく冒険は無理かもしれないということを覚悟してはいたが、これならば、何とかなるかもしれない。


「ん?」


……て、待てよ?


今僕はなんていった? 骨が折れた?


昨日の記憶を辿ると、確かに追いはぎにあって、そのときに肩の骨を折られている。


それは確かに勘違いでもなんでもなく、肩を動かすことも出来なかった。


しかし現在折れているはずの肩はすっかりと元通りになっており、むしろ今までよりも頑強になったような気さえする。あくまで気だが。


とりあえずぐるぐると腕を回して、異常がないか再確認してみるが、やはり特に異常はない。


「骨折って一日で治ったっけ」


確かに、中位の治癒魔法を使えば一日を待たずして骨折が治ると聞いたことがあるが、レベル1冒険者である僕には中位治癒魔法どころか下位治癒魔法すら使えない。


そしてティズも魔法を使うことは出来ない。


考えられる要因としては誰か高位の魔法使いが僕の惨状に哀れみを感じてわざわざ不法侵入を犯してまで僕の怪我を治してくれたという可能性だが、それを肯定してしまうほど僕の脳みそはご都合主義のファントムワールドには毒されてはいない。


「うーん? あれ? ウイル……もう起きて大丈夫なの?」


どうやら独り言が大きすぎたようで、眠っていたティズが大きなあくびを漏らしながら寝ぼけ眼でこちらにフラフラと飛んでくる。


この様子を見るにティズも何か特別なことをしたわけではなさそうだ。


「無理しちゃだめじゃない……アンタ肩の骨ばっきばきなんだから」


「そのはずなんだけど、見てよティズ、ほらこの通り」


もう一度ティズの目の前で肩をぐるぐる回してみせる。


「あら本当。治ってるわね……よかったよかった……ってこらー! なんじゃそらー!」


眠気も吹き飛んだのか、華麗な乗り突込みである。


「しし、知らないよ!? 僕だって朝起きたらこうなってたんだもん!」


「そんなすぐに怪我が治れば魔法も寺院も必要ないわよ、骨と一緒に神経もやられて痛覚麻痺でもしてるんじゃないの? で、ふとした拍子に全身の骨が砕けて崩れ落ちるとか」


「怖っ! なにそれ僕そんなことになってるの!」


「神経麻痺は十分ありえる話ね。あんた私かばうために背中や腰結構強打されてたものね…… そうなったらもう寺院に行かなきゃ治らないわよ」


「どどどどどどうしようティズ!? 僕達寺院にいけるほどのお金なんて持ってないよ!?もしかして、一生寝たきり生活とか!?」


「現在進行形で歩けてるけどね! とりあえず、何はともあれあんたが今どんな状態か見てみないと話にならないわ。とりあえずそこに座って。ステータス見てあげるから」


「そ、そっか。うん。お願いティズ」


僕は言われたとおりベッドに座りステータスの表示を待つ。


冒険者とパートナー契約を結んだ人間のみが閲覧できる、ステータス。


魔法でリンクした人間の健康状態やレベル、数値化した身体能力や職業などの個人情報を視覚化し、必要であれば一枚の羊皮紙に書き起こすことも出来る魔法である。


元来は遠距離呪術のお供として開発された闇魔法の一種であり、呪った相手がどのようにして死んでいくのかを遠方からでも数値化して確認できるという趣味の悪い魔法であったのだが、現在では冒険者の体の変調や怪我の具合、かけられている呪いを全て閲覧できるという特性から、このステータスを見ながらパートナーに指定された人間は冒険者が常に最高のコンディションで迷宮にもぐることが出来るように健康管理や必要とされる回復魔法の指示をパーティーメンバーにだす為に用いられる冒険者必須の魔法となっている。


物は使いようというのは本当にこのことである。


「ほら、出たわよウイル……ふむふむ、見たところステータスに異常はないわねぇ、体力も落ちてないし……健康そのものよ、ただ少し体重がふえて……てはああああああ?」


一瞬ティズは羊皮紙に書き起こしたステータスを見ながら何かを言おうとして、いぶかしげな顔をする。


「ど、どうしたのティズ」


「ええとそうね……だとすれば……でも、ぇぇ?」

「ど、どうしたの? 崩れるの? 崩れちゃうの僕!?」


「いや、崩れはしないんだけどね……その、えーと。 レベルが」


「レベル?」


「レベルが……上がってる 2つも」


「えええええええええええええええええええええええええぇ!?!?」


「ほら」


名前 ウイル   年齢15 職業 FIGHTER LV3


「ほ……本当だ。 昨日までレベル1だったのに……一気に二つも……」


「いや、それよりも下を見てみなさい」


「した?」


筋力  12    状態 正常

生命力  9  

敏捷  10    魔法 なし

信仰心  5    装備 麻の服

知力  11    武器 なし

運   19

 

保有スキル メイズイーター lv1


「なんかスキル増えてる!? っていうか運が! 運が!?」


「落ち着きなさいウイル」


ティズは冷静に僕を制止する。


「だってティズこれ……人間の運の最大値は18のはずなのに……これ、19って、メイズイーターって!?」


「おちつけー!」


「ふぁい」


ティズのドロップキックが顔面にめり込み、僕はへこんだ顔のまま冷静さを取り戻す。


「とりあえず、怪我が治ったのはレベルアップのおかげみたいね、まぁ寺院生活も寝たきり生活もしなくてすんだって言うのは不幸中の幸いね。 最初はアンタが再起不能になるまで殴られたせいで、ステータスの魔法がエラーを起こしたのかと思ったけど、傷が回復する現象はレベルアップ時に起こるものだし、レベルアップ自体はちゃんとしてるみたいね」



ため息を漏らしながらも、ティズの表情には安堵の色が見える。


「これがレベルアップ……確かに体が軽くなった気がするけど、なんか何も変わってない気がするんだけど」


「大丈夫よ、迷宮にもぐればすぐにでも効果が実感できるわ」


「そうなの?」


「ええ、何もかもが違うはず……とまぁそんなことはどうでもいいのよ……問題はこれ」


ティズは羊皮紙を机の上においてばんばんと机を叩く。 


そこに書かれているのは、見間違いでも印字ミスでもなんでもない。


「やっと……やっと覚えたんだね」


「ふ……ふふふ!そうよ! やっと覚えたのよウイル!」


『始めてのスキル!』


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。 死にかけて回復(?)パワーアップ···ウイルくんはサイ○人の血が流れている可能性が微レ存?
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