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69.迷宮第二階層攻略開始

そんで次の日。


「さぁ! 今日は迷宮二階層に足を踏み入れるよ!」


「おー!」


「おーっです!」


「げぼぉ」


迷宮入り口での掛け声と一つのえづきに僕は満足し、迷宮の一階層の階段へと僕たちは向かう。


道中に敵はなく、余計な茶々も入ることなく僕たちは迷宮一階層の階段へとたどり着くことができ、二階層への侵入は滞りなく進んでいく。


「二階層はどんな感じのところなの?」


階段は螺旋状に曲がりながらもまっすぐに迷宮の底へと続いており、階段に設置されたかすかな消えることのない蝋燭の明りのみを頼りに進んでいく道中、僕は耐えかねてサリアにそう質問をすると。


「ふふ、内緒ですよ。 というよりも、私が説明するよりも見てもらった方が早い。

二階層は、一階層とは異なり、もはや建物であることも忘れてしまうほどです……まだ一階層は人工物のていをなしていますが、二階層からはもはや一つの世界が階層ごとにひろがっています。 この建物が本当に強力な魔法でたてられたものであることを色濃く体験することになる場所・・・・・とだけ言っておきましょうか」


「うぅ、じらすなぁ」


「ええ、焦らします」


サリアはどこか楽しそうに悪戯っぽい表情をする。


いつもならこんなやり取りをしていれば、隣の妖精さんが怒り心頭で飛び蹴りをかましてくるのだろうが。


「う……うぼぇ」


「ティズちん汚い」


ティズは今日朝から一言もしゃべらずに吐き気、頭痛と戦っている。


もはやヒロインではなくネタキャラとしての位置を確立しつつある彼女であり、あられもない姿にさすがのシオンでさえも引いている。


いまだに口から一滴たりともこぼしていないというのが唯一の救いだろうか。


酒による吐き気はディスポイズンでどうにかなるが、二日酔いによる頭痛からくる吐き気はどうしようもない。 単なる水不足は回復魔法でも回復はしないのだ。


「今日一日あの調子でしょうね……ティズは」


「でもきっと夜には飲みだすよ……学習しないから」


「今日は酒場は止めておきましょうか」


「それもそうだねぇ」


「そ、そんオヴェェ」


「ティズちん家で寝てればよかったのに……明りも風前の灯だよ、これじゃ蝋燭の火のほうがまだ役に立つよ」


「二階層の地図も作らなきゃならないんだから、こんなのが続くんなら、これからしばらく禁酒だよティズ」


「ウイルさん! それだけは! そ、それだおええええ」


涙を流しながらティズは僕に縋り付き、そして嗚咽を漏らす。


もはや愛すべき酒のための哀願すらできないとは……。


これが僕の相棒だとは思いたくなくなってきた……。


「まぁ、今日は新しい階層を一回りするだけでとどめておいて早めに切り上げましょう。

敵も罠も格段に強力なものになっていますし、酒臭いティズは魔物のいい的になる」


一瞬ティズの顔が青ざめたように見えたが、自業自得なのでだれもコメントは発しなかった。


そんなこんなで、僕たちはティズから発せられる奇怪なバックゲロウンドミュージックを聞きながら、長い階段を下りると、出口と思しき場所が顔をのぞかせる。


「あれが二階層です」


「あれ? 光が漏れ出してる」


「ええ、二階層は特別でして、ティズのサンライトは必要ないです」


「そうなんだー! よかったねティズちん!」


ティズのサンライトがないせいでピンチに陥ることはなくなったが、ティズの存在意義そのものが揺らぎかけているのだが、本当によかったのだろうか?


「さて、到着です……これが、迷宮第二階層です!」


思えばサリアは今日はやけに機嫌がいいと思ったが、その理由が中に入った瞬間に判明する。


「な」


「なにこれ―!?」


「も……もヴぇいいい」


僕たちは驚愕に息をのむ。 それも当然だ……何故なら迷宮の第二階層、石に囲まれているはずの迷に、ジャングルが広がっているのだから。


緑あふれる樹海と呼ぶにふさわしいその場所は、動物たちの鳴き声があちこちから聞こえ、同時に木々は休むことなくその身を揺らしている。


道らしき道も、迷宮の壁もひと眼では見つけることはできず、僕たちはテレポーターの罠でも踏んでしまったのかと一瞬心の中に思う。


「え、ここどこー?」


「迷宮第二階層です」


「迷宮? サリアちゃん冗談きついよー。 だって迷宮にこんなにたくさんの木が生えてるわけないし、なにより上見てよ、太陽なんて出ちゃってるし……」


「このフロアは天井が吹き抜けになっている本当に迷路構造をしているのです。

そして、あの天井にぶら下がっているのは太陽ではなく光源虫という魔物ですね、魔素を大量に吸い取り、体内で熱エネルギーに変換させる魔物です……、基本動くことも人を襲うこともないですが、あの光は植物の成長と実りを冒険者たちには明りを提供しているため襲われることはありません。恩恵を魔物たちに与えることでこの階層すべての魔物、そして冒険者たちと共生関係を築いている、そんな益虫ですね。 なのでシオン、私の炎は効くのかなぁという考えは捨てて杖をしまってください」


「ふえ! なんでわかったのー!?」


シオンは注意をされてしぶしぶ杖をしまう。


「太陽の代わりになる魔物か……変なものが多いんだね。 でも壁も何もなくてこうやって木々が生い茂っていると、本当に迷宮かどうか怪しく感じちゃうよ」


「でしたら、木に向かってメイズイーターを使用してみてください」


「ん? こう?」


僕はサリアの指示通り、近くにあった木の幹に手を触れてメイズイーターを発動する……と。


迷宮の壁が破壊され、ぼろぼろとその部分の木の幹が崩れ落ちて壁が出現する。


「おお」


「うわー!? ウイル君大変だよ! ここ迷宮だよ!」


「このように、ここに生えている木たちは、迷宮の壁にまとわりつくように生えています。

というのも、この木は魔樹と言って、迷宮の壁から魔素を吸いだして己の養分にかえているのですよ」


迷宮の壁をも食事とするとは。


こちらの方がよほどメイズイーターらしい。


「まぁつまり、邪魔ならメイズイーターでも消せるってことだね?」


「ええ、今のスキル行使で確信をしましたが、壁を破壊すると周りの木々も一緒にその部分だけ消滅するようです」


「本当便利な能力だよねぇ」


「それは本当僕もそう思うよ」


謎の多いスキルであるが、とても便利なのは言うまでもない。


「マスター、敵もこの階層から増えてきますので、いくつか壁を補給していくことをお勧めします」


「そっか、そうだよね」


「ええ、ここからは大量の群れでやってくる敵も多い……マスターの『メイク』があれば楽勝です」


「私は! 私は!?」


「もちろん、シオンの魔法でも楽勝ですよ」


「どやーぁ!」


誇らしげに胸を張るシオンが少しかわいかった。


「うぅぅ……よぅやく収まってきたわ」


ティズはそういうとふらふらと僕の肩に止まり、息を切らす。


頼むから汚さないでくれよ……。


僕はそうティズに呆れながら、迷宮二階層を見る。


一階層を離れて新たに現れた異世界。


待ち受けるものは以前よりも強大であり、僕は新たな冒険に心を弾ませる。


今日この時から、僕の新しい冒険が始まるのだ……。


そう気を引き締めて、僕は一歩迷宮第二階層の大地を踏む。


「行こうか、サリア、シオン……そしてティズ」


迷宮第二階層、攻略開始である。


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